アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

漆黒の陽光~トンネルツーリング①

古道に設えられた、魅惑的なトンネルが好き──。

 

 

ヨシさんが以前そう語っていました。

思えば確かに。

ヨシさんとのツーリングではトコトコと細道に入り込み、その先のひっそりとしたトンネルを見付けてはくぐり抜けてきたのでした。

 

私がそのトンネルに目が止まったのは、そんな経緯があったからでしょう。

 

きっかけは、Twitterで流れてきた一枚の写真でした。

 

それはトンネル途中の上部にぽっかりと穴が空いており、トンネル内に佇む一台のバイクに陽光が降り注いでいる写真でした。

静けさと緑の深さ、そしてトンネル内の暗闇へ柔らかな陽射しが降り注ぐ様が何とも魅力的で、目にした私は強く惹かれたのです。

是非とも行ってみたいと思いました。

ですがツイートには、そのトンネルの名前も所在地すらも書かれていません。

 

 

『ヨシさん、このトンネル知ってる?』

ヨシさんにその画像を送って聞いてみました。

『あ、これ千葉にあるやつだ』

即答でした。

『ヨシさんは行ったことあるの?』

『ないけど、行ってみたいと思ってたんだよね。細道にあるらしく、今までフューリーだったから行くのを躊躇ってて』

『え、だったら…』

ヨシさんには今や、頼もしいもう一台の相棒がいます。

細道や悪路、ダートも走れて自在にUターンも出来、尚且つ高速道路も走れちゃうような、オールマイティーなバイク、セローが。

『行こうよ、一緒に』

そう、今なら何一つ躊躇う事なく向かえる筈です。

私からの唐突な誘いにも、ヨシさんは笑って快く受け入れてくれました。

 

 

 

8月のうだるような暑さが和らぐと、9月になり台風が発生し始めました。

三連休の初日、その台風の影響で関東広範囲が悪天候に見舞われたのです。

二日目も不安定な空模様。

 

そうして連休最終日となった月曜日──。

ようやく快晴となりました。

 

 

9月三連休の最終日。

朝靄のかかっている時間帯に私は、エンジンをかけセローを走らせます。

久しぶりのロングツーリングに、どことなくセローも喜んでいるように感じられました。

「ヨシさんおはよー」

先に到着していたヨシさんに声を掛けます。

「おはよー。やっぱり朝はちょっと冷えるね」

「ね~。でも日中は28℃まで上がる予報なんだよ。着るものに迷っちゃった」

 

 

 

ナビを設定し、とりあえずアクアライン上の海ほたるを目指すことにします。

「あれ? なんか道が混んでる…」

アクアライン内のトンネルを走りながら、ヨシさんがそう呟きます。

「連休だからかな?」

「ん~? こんな時間から?」

時刻はまだ7時です。

「あ、これかぁ」

トンネル内に道路公団の点滅等が光り、その傍らには乗用車が停まっていました。

「事故かな?」

通り過ぎま私が尋ねると、

「いや、今停まってた車のタイヤがパンクしてた」

「あ、なるほど~。でも大惨事にならなくて良かったね」

「確かに。トンネル内で火災でも起きてたら俺らも危なかったよ。逃げ道もないし」

「こわっ。それは怖い~」

 

 

その乗用車を追い抜くと、渋滞はなくなりスムーズに流れ始めます。

ですが海ほたるに寄るのはなんとなく辞める流れになり、そのまま一気に千葉県内へと走り進めました。

 

 

 

木更津東インターを降りてすぐ、『道の駅 木更津うまくたの里』でトイレ休憩を取ります。

 

「だいぶあたたかくなって来たね~」

「そうだねぇ。上着脱ぐ?」

私が聞くとヨシさんが、

「うん、そうしようかな」

上着を脱いで荷物に括り付けました。

「やっぱりこういう時、キャリアがあると便利だわ」

「うん、だよね!」

 

ヨシさんのセローが、ようやく私と同じ『ツーリングセロー』になりました。

元々ツーリングセローとして購入していたのに、コロナの影響でパーツが中々届かなかったようでした。

それが最近ようやく届いたのです。

ハンドガードは私のお下がりですが、エンジンガードとスクリーン、そしてリアキャリアが付きました。

「やっぱり、荷物乗せられるのいいよ」

「でしょ~? ロンツーの時めっちゃ便利だよ~」

 

 

県道160号線『加茂木更津線』から県道81号線『清澄養老ライン』に入り、月崎方面へと向かいます。

月崎駅前を通過し、山道に入りました。

のびやかなワインディングを走り抜けていると、

「あ、ごめん。通り過ぎちゃった」

とヨシさんが言います。

「今の道を曲がらなきゃいけないんだった」

「あ、そうなの?」

Uターンして戻ると、見落としたのが無理もないくらいの細道がありました。

バイクじゃなければ通るのが困難ではないかと感じるほどの細道です。

 

最初はのどかな山道でしたが、徐々に周囲の森林が鬱蒼と繁り始めます。

舗装路でしたが、路面も荒れてきました。

 

 

「あ、あったよ」

ヨシさんがそう言って停止します。

「うわぁ~」

その見上げたトンネル。

深淵なる山の中にぽっかり空いた暗闇の入口、なのにその中央には明るい陽射しが降り注いでいます。

『月崎トンネル』です。

 

 

 

「すごいすごい! イメージ通りだ。ホントに綺麗!」

セローを停めると、夢中で写真を撮りました。

 

 

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二台並べた写真も撮ります。

トンネルもさることながら、背景にある木々もとても美しく、シャッターを切りながら恍惚のため息が漏れ出ました。

 

 

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トンネルは想像よりも長かったです。そのためかより一層、トンネル途中から射し込んでくる陽光が際立つのでした。

 

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どんな経緯があってこんな形状になったのでしょう?

どういう人達がこのトンネルを利用してきたのでしょう?

色んな想像を巡らせながら、雫の滴るトンネル上方を見上げたのでした。