アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

時代の変遷

あ、江ノ電だ。

ミラーを確認すると、後方から江ノ電こと江ノ島電鉄の車両が近付いて来ているのが分かりました。

 

国道467号線。

そこは街中を走る江ノ電と一般車両とが一緒に走る道路なのです。

どうしよう、と一瞬考えます。

これまでにも江ノ電と並走した事はありましたが、すぐ手前の箇所ではレールと一般車両の道とが交差されていました。

私はこの道が、電車優先なのか一般車両と同じように走っていいのか、その判断が付かずアクセルを緩めました。

と、途端に後ろの乗用車から煽られてしまいます。

あ、行ってもいいんだ?

どうやら走っている順で進んでいいものらしいと分かり、私はすぐさまアクセルを戻しました。

 

 

 

 

国道134号線に入ると、綺麗な青空と海が広がっていました。

何度も走って来たからでしょう。この道に来るとホッとします。爽やかな潮風を受けながら滑らかに走り抜けます。

 

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道を折れ、何の変哲もない住宅地に入り込みました。

そこは車通りも殆どなく堤防も低いため、海を背景にバイク写真を撮るのに最適なのです。雪山の富士山も見えました。

ひとしきり愛車の撮影会を終えると、本日の目的地へと向かいます。

 

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その美術館は、有難いことにバイクの駐輪は無料なのです。

セローを停めるや、バイク装備を外していきます。

そこで気付きました。マスクを忘れて来てしまったのです。

まぁ、大丈夫かな?

一時期に比べマスクは自主性に任せられるようになりました。マスク無しでの入館を断られることはまずないでしょう。

 

 

清潔なロビーを抜けると、企画展のチケットを購入します。

 

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『移動するモダニズム展』。

好きな画家さんの出展もあるので、是非観に来たいと思っていました。

 

 

数々の展示作品をじっくりと観て回ります。

妖艶なものから日常のコミカルな一場面、凄惨な光景まで。様々なジャンルの作品が展示されていました。

関東大震災がテーマの作品では、瓦礫に埋められ苦痛に呻く人々の姿も描かれています。

どうなんだろう?と私は首を傾げました。

震災と言えば東日本大震災、もしくは阪神淡路大震災を思い浮かべます。

もし今、その震災で苦痛に喘ぐ人々を描き、『作品』として売り出すアーティストがいたなら。現代ならば世間から『不謹慎』との謗りを受けるのではないのでしょうか。

この時代は今とは感覚が違ったのかもしれない。そう思うと、そこにも年代差を感じてしまいました。

 

 

 

観覧が済むと、庭園を散策します。

 

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海辺に建てられた美術館の為、庭園からは砂浜と海が綺麗に見渡せます。

 

私はベンチに腰掛け、ふぅ、と息を吐きました。

暑気あたりという言葉がありますが、熱気のようなものにあたったような独特の疲労感がありました。

思えば、それほど時間が経過した自覚もなかったのに二時間近くも観覧していたのです。

 

 

今日この後どうしようかなぁ?と考えますが、この疲労を伴ったまま走り続ける気にはなれませんでした。

気ままに走り出せ、自分本位に中断出来るのもソロツーリングのいい所です。

今日はこのまま帰ることにします。

 

 

バイクに戻るや外していた冬用装備を身に着けます。

ナビを自宅にセットするや、来た道を戻り走り出しました。

 

 

ビーチと言えば、冬は閑散としているイメージですが、湘南の海は年中賑わっています。

サーファー達が波乗りを楽しんでいますし、親子連れやカップルと思しき人達が砂浜を散策している姿も散見されました。

平和な光景だなぁと感じます。

 

 

走りながら、先程観て来た展示作品のことを考えます。

明治から大正、昭和初期にかけて。

まさに、激動の時代とも言えるでしょう。

政治経済の変遷と共に人々の生活様式も大きく変わり、そしてそれは芸術作品にも多大なる影響を与えていきます。

それまでの芸術の在り方そのものが見直され、日本の芸術家達はこぞって海外に出帆し、新しい表現技法を習得していきました。

 

 

 

時代の変遷。

平成から令和に元号が変わり、もうすぐ6年が経とうとしています。

明治大正の頃と比べれば、平成から令和への移行など、さほどの違いがあるようには感じられませんでした。

 

 

ですがよく考えてみたら。

侵略戦争が勃発し、物価が高騰しました。税金と社会保険料も上がり、年金の受給額もどんどん下がってきています。

そして、新型コロナウィルスの蔓延。

 

思えば、あの美術館も。

初めて行った時にはコロナの影響で臨時休館となっており、庭園を散策する事しか出来ませんでした。

今日、マスクなしでも問題なく入館して観覧出来たのは、当時からすれば考えられない変化でしょう。

 

 

暗いニュースばかりが目立ち、人々の生活は苦しく、現代は決して明るい時代とは言い難いのかもしれません。

それでも私は、飢える事も凍えることもなく生活していけています。

それどころか、こうしてお天道様の下で趣味のバイクを楽しませて貰っているのです。

 

 

人の欲望には切りがありません。

衣食住に恵まれていても、ブランド物に目が眩み、煌めくアクセサリーを欲したりもます。どんどん進化していく電子機器類は最新の物が出る度買い替えたくなり、またプロの作る料理に舌鼓を打ちに行きたくもなります。

美酒に酔い、スケジュール帳を埋め尽くすように華やかなイベントに参加し、同じ世界に身を置く人達との交流をはかる。そんな生活は確かに充実していると言えるのかもしれません。

ですが、ふとした拍子に考えてしまうのではないのでしょうか。

『一体自分は、いつになったら幸せになれるのだろうか?』と。

本当に大切なものは、際限なく湧き上がる欲望を満たし続ける工程からは、決して得られないのだと私は思います。

そう。

ブランド物のジュエリーよりも、愛する者からのたった一輪のカーネーションの方が、はるかに重みがあるように。

 

 

『足るを知る者は富む』

 

 

昨日に続く今日がある。

たったそれだけの、その当たり前の日常に、私は感謝し続けよう。

そう思いながら、軽快にセローを走らせていったのでした。

江ノ島デートツーリング~後編

狭い階段道の道端には、店屋が立ち並んでいます。

「お団子美味しいですよ~。食べて行きませんか」

「お飲み物だけでもどうですか~?」

各店の店員さんから呼びかけられますが、私達は曖昧な笑みを浮かべてそこを通り過ぎていきます。

 

階段の踊り場からは海が見えました。

 

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「う~ん。綺麗な景色なのに、写真では中々上手く撮れないんですよね」

言いながら、その景色を目に焼き付けておこうと眺めます。

 

 

階段を降りて行くほどに、海が近付いて来ます。

「あ、釣りしてる人がいる~」

雪さんの言葉に見渡すと、確かに岩場で釣りをしている人が沢山いました。

「ホントだ。ここまで釣り道具を持って来るだけで大変そうですけど、結構釣れるんですかね?」

「どうなんだろう?」

雪さんも首を傾げます。

私も雪さんも。釣りという趣味を持ったことがないのでよく分かりませんでした。

 

 

やがて江ノ島岩屋に辿り着きました。

波の侵食によって出来た天然の洞窟なのですが、入洞料がかかるのでその手前で引き返します。

 

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釣り人達のいる岩場近くまで歩くと、江ノ島の入口まで運んでもらえる有料の定期船が出ていました。

ですが雪さんはくるりと振り返り、

「さて、では引き返しますか」

と言いました。

おぉ…マジですか。と内心驚きつつ、私も来た道を引き返します。

 

 

先程まで長らく下ってきた階段を、今度は延々と登らなければなりません。

思えば、過去に江ノ島に来た時には『エスカー』と呼ばれる展望灯までの有料エスカレーターを利用し、その後の長い階段を降りて来たらこの定期船に乗船して入り口付近にまで戻っていました。

江ノ島全ての行程を自らの脚で歩むのは初めての事かもしれません。

 

 

登り階段では半端ないくらいに息切れしました。心臓が口から飛び出しそうです。

「ちょっと…休憩しますか」

「で、ですね…」

私達は階段途中の平坦な木陰で、手摺に凭れて乱れた呼吸を整えました。

と、背後からカサカサっと、音が聞こえます。

「あっ、リスですよ」

雪さんが背後の雑木林を指差しました。

「ホントだ…」

一匹のリスが、木の枝をするすると移動しています。やがてその姿が見えなくなると、更に別のリスが現れました。

「野生のリス…ですかね?」

私が問うと、

「そうなんじゃないですかね? ここ、餌がいっぱいあるのかも。あっ、またいた」

「ホントだ、一体何匹いるんだろう?」

リスは生き生きと、枝から枝へと飛び回っています。結局、全部で約5、6匹のリスを見ることが出来ました。

その事に、私は妙に深い感慨を抱きました。

 

疲労を感じ、歩みを止めたからこそ目にする事の出来た光景。

それは人生においてもままある事なのかもしれません。

 

 

私と雪さんはそうやって、休み休みに長い階段を登りきり、また広場に戻って来ました。

「何か飲みません?」

雪さんの言葉に同意します。

長い登り階段に、結構汗もかいたのです。

それぞれ自販機で飲み物を買うと、売店でたこせんべいも購入しました。

 

 

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2枚入りだったので、2人で分けて食べます。焼き立てのたこせんべいはまだホクホクで、そして風で折れそうなくらいに儚げでした。

「そうそう! 雪さん、SSTRはどうでしたか?」

食べながら、ずっと気になっていた事を訊ねます。

 

SSTRとは、日の出と同時に太平洋側を出発し、日の入りまでに日本海側の千里浜なぎさドライブウェイをゴール地点とする、ライダー人気の一大イベントなのです。

雪さんがそれに参加し、無事ゴールした事はSNSの発信で把握していましたが、詳しい話はまだ聞けずにいました。

「うん。楽しかったよ~」

「出発日、結構な雨みたいでしたが大丈夫でした?」

「あぁ、そうそう! 出る時は小雨程度だったんだけど、段々雨が強くなって来て。しかも、結構寒い日だったから大変で」

雪さんが思い出を語ります。

それでも、天候が少しずつ回復して来てくれた事、太平洋側から日本海側まで一日で走り抜けられた事、無事ゴールが出来た感動。

全てがいい思い出となったと楽しそうに語ってくれました。

 

 

さてバイクに戻ろうか、と歩みを進めると、また先程の猫が歩いていました。

「あ」

周囲の子供達が触りたそうにうずうずしているので、また逃げちゃうかなぁと眺めていたら、立ち止まってくれました。

 

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そっと近付いて写真を撮らせてもらいます。

「いい写真が撮れました」

私がほくほくしながら笑うと、「良かった、目的が達成出来ましたね」と雪さんも微笑みかけてくれました。

 

 

雪さんのセローのエンジンが無事かかるのか、心配していましたが問題なくかかってくれました。

江ノ島までに数十分走った事と、太陽の熱を浴びて温まってくれた事も良かったのでしょう。

 

 

その後はレストランに入ってゆっくりランチを楽しみます。

パスタやグラタン、スープを味わいながらバイク談義に花を咲かせます。

 

そしてデザートに、注文していたダブルソフトクリームが届きました。

 

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「すごいすごい! 美味しそうですね~」

「やっぱり、ツーリングと言えばソフトクリームですよね」

「え、そうなんですか?」

雪さんの言葉に、キョトンと聞き返します。

「そうですよ~。ソフトクリームはライダーの義務です」

「ぎ、義務ですか。バイク歴4年でそれ、初めて知りましたよ」

確かに、ご当地ソフトクリームが各SAや道の駅で販売されています。それを味わうのもツーリングの醍醐味なのかもしれません。

笑い合いながら、そのソフトクリームもペロリと平らげました。

 

 

 

「では、今日はありがとうございました」

「こちらこそ、気を付けて帰ってね~。また会いましょ」

「はい、是非~」

手を振り合って別れます。

 

 

ニーグリップした時に。

脚全体のダル重さを感じながら、あぁ、明日はきっと筋肉痛なんだろうなぁ。と、どこか楽しく感じながら帰って行ったのでした。

江ノ島デートツーリング~前編

11月下旬。

朝晩が冷え込むようになりました。

目覚める時刻になっても、それまで身体をぬくぬくとあたためてくれていたお布団から抜け出すのには、中々の気合いを要する季節となります。

 

でも、今日の朝は違いました。

アラームの鳴る前からスッキリと目が覚め、起き上がるやシャッとカーテンを開きます。

窓ガラス越しに朝ぼらけの冷気を感じ取っても、気持ちは高鳴るばかりでした。

 

 

朝食と掃除等、朝のルーティンワークを終えると、そそくさとバイク装備を身に着けます。

秋用の薄手のジャケットにしようか、真冬用のそれにしようか、ギリギリまで迷いましたが、結局真冬用のを装備することにしました。暑ければ脱げばいいけれど、寒さは調整出来ないからです。

ヘルメットを装着し、セローのカバーを外すやエンジンを始動させます。

 

 

「おはようございまーす!」

集合場所に、雪さんのセローが滑り込んできます。「今日はよろしくお願いします」と続けようとしましたが、雪さんはヘルメットのシールドを開けるや、

「ちうさん、ごめーん。今朝この子、エンジンの掛かりが悪くて…。エンジン切っちゃったらまた掛からないかもなの。このまま出発でもいい?」

申し訳なさそうに言いました。

「え、それは大変! はい、じゃすぐに出発しましょう」

気温が低くなるとよくある事ですよね~と言い合いながら、そそくさと準備し、慌ただしく発進しました。

 

 

雪さんの先導で、街中を走り抜けていきます。

 

今日はバイク女子仲間、雪さんとのデートツーリングです。

雪さんとはランチ会をしたり自宅に遊びに来てもらったり、お裾分けを渡し合ったりと、交流を続けてきていました。

でもバイク絡みではなかったので、このブログに登場する機会は中々なかったのです。

今回久々に一緒にツーリングが出来て、嬉しく思います。

 

インカムを繋げられないので、赤信号で隣合うたびに、シールドを上げて会話し合いました。

なんだかそれも新鮮に感じます。

その都度頬に冷気を感じたので、冬用のジャケットを着てきて良かった、と思いました。

 

 

国道134号線に入るやのびのびと走り抜け、『江ノ島入口』交差点を折れていきます。

そう。

今日の目的地は江ノ島なのです。

 

江ノ島は有名な観光地であり、ライダーにとっても人気のツーリングスポットではありますが、神奈川県内に住んでいるライダーはそう滅多に行かなくなってしまいます。

近すぎるからという理由もあるのでしょうが、そこまでの道のりが渋滞していて、のびやかな走りが中々出来ないから、というのが大きいのかと思います。

それでも、今日のツーリング先に私達が江ノ島を選んだのには理由があったのです。

 

 

駐輪場にお互いのセローを停めて、ヘルメットを脱ぐや、ようやくゆっくりと挨拶が出来ます。

歩くとなると今度は暑すぎるので、バイク用のジャケットは脱いで行く事にしました。

 

 

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「ちうさんと初めて会った時も江ノ島でしたよね~」

歩きながら、雪さんが言ってきました。

「そうでしたね。いやぁ、あの時は酷い土砂降りでした」

懐かしく思い出しながら目を細めます。

「あの時、あまりにも雨が降って来たんでヨシローさんと3人で、ヘルメット被って江ノ島内を歩きましたよね」

「そうそう! あれ、見た人はギョッとしたでしょうね」

笑い合います。

 

 

「いるかなぁ?」

足元をキョロキョロしながら私が言うと、

「とりあえず、登っていきましょう」

と雪さんが階段を指差します。

 

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江ノ島神社への階段を登り、そのまま広場を目指して歩き進めていきます。

遠足なのか修学旅行生なのか。小学生くらいのリュックを背負った子供達が、歓声を上げながら私達を追い抜いて行きました。

「今日はなんだか賑やかですねぇ。もしかしたら、そのせいで出て来てくれないかもしれませんね」

私が言うと、

「まぁ、とりあえず歩いてみましょ」

と雪さんが応えました。

 

 

 

私達が何を探しているかと言うと…。

江ノ島と言えば、江ノ島神社にたこせんべい、展望灯台江ノ島岩屋等、様々なイメージがあるかと思います。

ですが、地元民での江ノ島のイメージは『猫』なのです。江ノ島は別名『猫島』と呼ばれるほどに猫がたくさんいます。

江ノ島に猫が多い理由は、江ノ島の猫を島民が地域猫として保護し、共存が始まったからなのだそう。

江ノ島の路地裏に入ると猫が日向ぼっこしている光景も珍しくありません。恐る恐る近付いても人馴れしているのか、猫は動じることなく撫で撫でさせてくれる事が多々ありました。

 

今日は、その猫に癒されたいという目的でやって来たのです。

 

 

 

サムエル・コッキング苑の広場に辿り着くと、あちこちでイルミネーションの取り付け作業をしていました。

「わぁ~すごい。これ、夜に見たらさぞ綺麗なんでしょうね」

試運転なのか、あちこちのライトが点灯されていましたが、昼日中に見てもやはり太陽の光に負けてしまっていました。

 

 

江ノ島シーキャンドル、展望灯台に辿り着きます。

 

 

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「ちうさん、これ登ってみます?」

「いやいや、無理っす」

見上げるほどの螺旋階段に尻込みしてしまいます。

結局少しだけ階段を上がり、テラス席を一周歩いて下りました。

 

 

やがて店屋の並ぶお岩屋道通りを歩きます。

「あっ」

私と雪さんが声を揃えました。

黒と白模様の猫ちゃんが、優雅に歩いていたのです。

「わぁ~いたいた」

私が嬉しくなって声をあげます。

 

「猫だ! わぁ~可愛い、おいで~」

小学生の女の子達がわらわら駆け寄っていくと、その猫は建物の隙間から逃げて行ってしまいました。

 

 

「あ~行っちゃいました」

私が残念そうな声を出すも、

「まぁ、見れて良かったじゃない」

と雪さんが笑いました。

 

そうですね、と私も笑います。

陽射しもあたたか。

車通りのない長閑な階段道。

親しいバイク女子さんとこうして並んで歩け、癒される存在に出逢えただけで、私は幸運なのかもしれません。

素直にそう思えました。

バイク聖地での洗礼~後編

次なる目的地は、栃木県那須塩原市にあるライダーズカフェ『BOBBY』さん。

 

広い敷地の駐車場と開放的な店内の空間、そしてボリュームのあるフードメニューが高評価のお店です。

ですが、ライダーズカフェを名乗るように、多くのライダー達が集まるのには、店主さんの人柄も大きく関係しているのだと私は思っていました。

ヨシさんは、私と出逢うずっと前からこのお店の常連さんで、店主さんとはとても親しくお付き合いを続けているようでした。

 

 

私がこのお店に来るのは今回2回目でした。

この日もやはりたくさんのバイクが停まっています。

私達は流れるように駐輪場にバイクを走らせ、空いているスペースに停めます。

「ふぅ。良かった、とりあえず目的地には辿り着けた」

ヘルメットを脱ぎながら私がそう零します。

「そうだね。とりあえず事故とかに遭わなくて良かったよ」

ヨシさんも頷いていました。

 

 

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「美味しい~」

「やっぱり最高だね」

ボリュームのあるハンバーガーに、舌鼓を打ちます。

パン生地も風味豊かで、齧るとジューシーなハンバーグから肉汁が溢れ出ます。挟んであるベーコンも、スーパーで売られているものと違い、ちゃんと燻製の香りが豊かでした。

 

 

「さて、と。帰りはまた同じルートにしようかな?」

ヨシさんがGoogleマップを見ながらルートを調べ始めました。

まだ来たばかりですが、なんせ神奈川まで帰らなければならないのです。そろそろ帰路につかないと、今日中に帰るのは難しくなります。

「帰りも高速メインで走ろう」

「うん、そうだね」

フロントブレーキは使わないよう気を付けなきゃね、と言い合いました。

 

「じゃ、ご馳走様でした」

ヨシさんがカウンター内に挨拶すると、店主が出て来てくれました。

「ありがとうございました。お気を付けてお帰りください」

「はい、気を付けます。なんせ、彼女のバイク、フロントブレーキが利かなくなっちゃってまして」

ヨシさんは笑い話のようにそう言ったのですが、店主は表情を曇らせました。その会話を耳にした、他のお客様も心配そうな顔をして立ち上がります。

「どうかしたのですか?」

店主と、立ち上がって来てくれたその男性客のお二人が、私のセローを見に来てくれました。

 

私達は事情を話します。

「でも、帰りはずっと高速道路なので。フロントブレーキを使う機会もそんなにないと思います。気を付けて帰りますよ」

私が笑いながらそう言っても、お二人は心配そうな表情を崩しません。

 

 

「それは危険ですよ」

店主がそう言い、男性客も頷きました。

「ブレーキオイルがなくなってしまうと、強制的にブレーキがかかり続けてしまうんです」

「えっ」

私は、高速道路を走行中に意図しない急ブレーキがかかって、タイヤがロックしてしまう様を想像しました。

高速走行中での急停止は、自損事故だけで済めば僥倖です。ですがそれは周辺車輌をも巻き込む大事故に繋がる恐れも充分にありました。

事態の深刻さに青ざめていくのが分かります。

帰りの距離も長いのです。高速道路を使わない訳にもいきませんし、その間、ブレーキオイルが一切漏れないという保証はどこにもありません。

そもそも、ブレーキオイルが残りどのくらいなのか、目盛りで確認出来ないくらいに減っていました。

 

「とにかく。このまま帰るのは危険です」

店主が、携帯電話を取り出しどこかに電話を掛けてくれました。行きつけの整備工場らしいのですが、残念ながらそことは連絡がつかないようでした。

 

 

どうしよう、と不安になりました。

なんせここは栃木県。私の自宅から200km近くも離れた場所に来ているのです。

いつもお世話になっているバイク屋さんも、神奈川県内までしか対応には行けないと言われていました。

 

「ブレーキオイルの交換をした事は?」

ふと男性客が、ヨシさんに向けて質問しました。

「ありません」

「ホームセンターに行けば、ブレーキオイルは売っています。とりあえずそれを買って、ここを」

セローのブレーキオイルポットのネジを指差します。

「外して、中に蓋があるのでそれも外して入れてみて下さい」

「そんな…素人がやって大丈夫なものなんですか?」

ヨシさんも不安気な表情をしています。

「空気を入れないようにと、あとなるべく零さないように気を付けながら注げば。とりあえずの応急処置ですが」

店主も言ってくれました。

ブレーキオイルはとにかく錆びやすいので、零れたらよく拭いた方がいいです、と言って一旦店内に入った店主が、新品のパーツクリーナーを差し出してくれました。

「そんな、いただけないです。お幾らですか?」

店主に言うと、

「いいからいいから」

とヨシさんに手渡しました。

 

 

「ありがとうございます。気を付けて帰ります」

「本当にありがとうございます」

私とヨシさんはお二人に何度も頭を下げて、お店を後にしたのでした。

 

 

近くのホームセンターに行き、ブレーキオイルを購入するや、言われた通りにブレーキオイルを注いで貰います。

初めてやる作業にヨシさんも緊張しているようでした。

「よし、とりあえずこれで満タンにはなった」

「うん、ありがとう」

いただいたパーツクリーナーでハンドル周りを拭いているヨシさんにもお礼を言いました。

 

 

帰りの高速道路ではヒヤヒヤしながら走っていました。

見たところ、ブレーキオイルの漏れはなさそうでしたし、メモリをみてもまだたっぷり入っています。

でも怖くて仕方ありませんでした。

 

 

無事自宅に着いた時には、安堵のあまり泣きそうになりました。

 

翌日バイク屋さんに持って行くと、「適当なパーツを取り付けるからですよ!」とキツく叱られ、純正品のジータのハンドガードを購入する流れとなりました。

 

 

あの時。

危険な状況であると進言してくれ、解決方法まで享受してくださった、店主と男性客の方には感謝してもしきれません。

無事に帰宅出来たお礼をお伝えしたかったのですが、私は鍵垢だったので代わりにヨシさんから伝えてもらいました。

 

 

私は、ライダー同士の助け合いの精神はとても美しいものだと思っています。

道端に屈みこみ、セローの汚れ具合を見ていただけで、

「どうかしたんですか? 大丈夫ですか?」

とバイクを寄せてわざわざ話し掛けてくださったライダーさんもいました。

また、ヨシさんとツーリング中、対向車線で往生しているバイクを見掛けると、

「何かあったのかも。ちうさん、Uターンするよ」

「おぉ、了解!」

となった事もあります。

 

 

この出来事をすぐにブログに書かなかったのは、トラブルのせいで気が乗らなかったから、という思いがありました。

ですがこれも素敵な思い出だったと今なら思えます。

 

 

バイクに乗ってはや4年。

これまで無事故でやってこれたのは、多くの方々の助けと優しさに支えられたからでもあるのでしょう。

バイク聖地での洗礼~前編

それは今から3年前。

2020年11月18日。

私がバイクに乗り始めてちょうど一年が経とうという頃の事でした。

 

私とヨシさんは、高速道路を走らせ栃木へと向かいます。

「道は順調だね~」

「そうだねぇ。渋滞もしてないし良かった」

セローの走行速度に合わせ、左車線でのんびり走りながらそんな会話を交わしていました。

 

高速を降り、やがてのどかな田園風景の中を走り抜けます。

「もうすぐだよ~」

「うん」

唐突に、大きな鳥居が見えてきました。

そこは栃木県高根沢町にある安住神社、通称『バイク神社』です。

関東住みのライダーならば一度は行ってみたいと願う、バイク乗りの聖地とも言える場所なのです。

 

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「わぁ~凄い凄い! ホントに来ちゃった」

バイク置き場に駐輪させながらはしゃいだ声を上げます。

中では、ヘルメットを被ったてるてる坊主の交通安全のお守りも販売されています。

「可愛い」

私は自分のと同じ赤いヘルメットのそれを選び購入しました。

 

「さて、じゃあ次なる目的地に向かいますか」

「はーい」

装備を整え、バイクの聖地を後にします。

 

 

国道16号線の道は順調でした。

片道が3車線もあり、今日は平日で空いていたのもあり、高速道路並みに他の車も速度を出しています。

「ここ、下道なのに高速道路みたいだねぇ」

と言いながら周囲の速度に合わせて走行します。

ですが、高速道路と下道とでは、決定的な違いがあるのです。

それは交差点。つまりは信号機がある事です。

 

 

前を走るヨシさんが黄色信号で速度を緩めたので、私も減速していき停止線に合わせて並んで停まります。

 

 

──あれ?

 

 

ほんの僅かですが、この時違和感を抱きました。

その正体が一体何なのか、自分でもよく分からなかったので青信号に切り替わるや発進しました。

セローの走りは順調です。

異音も異臭も発していません。気のせいだったのかな?と思い直していました。

 

 

やがて16号線を折れ、車通りの少ない通りに入ります。

そしてまた赤信号で停まったのですが、今度はハッキリ分かりました。

「ヨシさん! 待って、待って! フロントブレーキが全然利かない」

 

そう。

フロントブレーキのレバーを握っても、全くブレーキが掛からないのです。私は普段からリアブレーキで減速し、停まる瞬間だけキュッとフロントブレーキを握る習慣がありました。

神奈川から栃木までと長い距離を走ってきましたが、ずっと高速道路だったため停まる機会も少なく、ブレーキの異変に気付きにくかったのです。

 

「え」

ヨシさんが路肩にバイクを停めたので、私も慎重にリアブレーキで減速して停まりました。

寒い時期だったので、ハンドルカバーも装着していました。ヨシさんはそれを丁寧に外し、ブレーキレバーの辺りをチェックしてくれます。

ヨシさんがブレーキレバーを握りしめると、ブレーキオイルがピューっと飛び出して来ました。

「ご、ごめん…」

「いや、ヨシさんが悪いわけじゃないよ。でもなんでブレーキオイルが出てきちゃうんだろ?」

よく見ると、ハンドルカバーの内側はオイル塗れになっています。いつからブレーキオイルが零れ始めていたのか、全く分かりません。

「あぁ、やっぱりこれだ」

ヨシさんが、ブレーキオイルポット近辺にあるネジを指差します。

「やっぱり、そのハンドガードが原因?」

「うん、多分そう」

 

つい先日。

中華製の安いハンドガードを買った私は、ヨシさんに頼んで取り付けて貰っていたのです。

取り付けるのに苦戦しながらヨシさんは、「これ、もし転倒したらブレーキに干渉しちゃうんじゃないかな…」と不安そうでした。

 

「ちうさん、最近転倒した?」

「うん。コケまくった…」

身に覚えがありすぎました。

数日前、セローミーティングに参加した私は、初めてのオフロードコースに笑っちゃうほどに転びまくったのです。

「じゃあ、多分その衝撃が原因でブレーキに干渉しちゃったんだね」

そして、

「ちうさん、工具出して」

「うん」

工具を手にしたヨシさんは、手際良く応急処置を施してくれました。

「これでブレーキオイルが漏れることはないけど…」

ただ、零れてしまったブレーキオイルはどうしようもありません。

 

「どうする? ここから目的地まであと20分くらいだけど」

このままツーリングを継続するのか今日のツーリングを取り止めにするのか、それを聞きたいのでしょう。

「行こう! せっかくここまで来たんだから」

私は即答します。

「分かった。じゃあ、一応フロントブレーキは使わずにね。停まる時はリアで慎重に」

「うん」

 

 

そうして、私達はツーリングを続行することに決めたのです。

フロントブレーキが使えないならリアブレーキを使えばいい。急停止が必要になるような危険な運転はせず、慎重に走って行けば大丈夫。

 

 

この時の私達はそのくらいの認識でいました。

ですが、それは知識不足からくる甘い考えだったのです。

紅葉のダートを走り抜け~御荷鉾ツーリング

「まさかあそこで渋滞に巻き込まれるとは」

『だねぇ。でも、集合時間にはなんとか間に合いそうだよ』

「そうだね~良かった」

 

10月下旬の土曜日、セローを走らせながら私とヨシさんはそんな会話を交わしました。

集合時間は8時です。

その40分も前に着くくらいに余裕を持って合流していたというのに、途中、高速道路の事故渋滞に巻き込まれ、時間がギリギリになってしまったのです。

 

待ち合わせ場所が見えると、よねってぃさんが手を振ってくれています。

「おはようございまーす」

私とヨシさんが挨拶すると、

「おはようございます。どうも、今日はよろしくお願いします」

とよねってぃさんがぺこりとお辞儀をしてくれました。こちらこそよろしくお願いします、とお辞儀を返します。

「あきにゃんさんはまだ来てないんですねぇ」

給油しながらヨシさんが聞くと、「あ、来た来た」とよねってぃさんが道の向こうを指さしました。

確かに、あきにゃんさんの赤いCRFがこちらに向かって近付いて来ています。

隣に滑り込んで来たあきにゃんも、バイクを降りて

「今日はよろしくお願いします」

と挨拶してくれました。

 

今日走るメンバー4人が全員揃いました。

 

 

給油を終えると4人でインカムを繋ぎ、よねってぃさんを先頭に走り始めました。

「今日は晴れて良かったですね~」

私が言うと、

『そうですねぇ。展望台からの景色も綺麗に見えそうです』

と同意の声が上がります。

 

トイレ休憩で立ち寄ったダムも、青空が映えていました。

 

街中を抜け、やがて山道に入り緩やかなカーブを軽快に走り抜けます。

『落石がありますよ~。気を付けて』

「はーい」

よねってぃさんやあきにゃんさんが警告してくれた通り、あちこち大きな石が転がっていました。

道路のひび割れや陥没等、気を付けながら走ります。

 

 

 

いよいよダートに突入です。

私とヨシさんはタイヤの空気を抜きました。

「はぁ~緊張します」

私が言うと、

「まぁ、ゆっくり行きましょう」

とあきにゃんさんが笑ってくれました。

 

 

久しぶりのダートは、想像の何倍も怖く感じました。

私の記憶では御荷鉾山は比較的フラットなイメージだったのですが、そもそもツーリング自体が珍しくなっていた私にとって、ダートの難易度が高くなっていたのでしょう。

何度か転倒しそうになりましたし、ハンドルを取られてガードレールにぶつかりそうにまでなりました。

 

『うわ~景色が綺麗ですね~』

『そうですねぇ。今日は山もくっきり見えます』

私以外の3人は、景色を堪能し会話を楽しみながら走っていたというのに、私にはそんな余裕もありませんでした。

『あれ? ちうさん、インカム繋がってる?』

私が無言過ぎて、そう聞かれてしまいました。

「繋がってます! ごめんなさい、今話せる余裕がないですっ」

私の必死な様相に3人から笑い声が上がりました。

 

 

いつもの休憩所にバイクを停めます。

「御荷鉾山ってこんなでしたっけ…なんか難易度上がってません?」

息切れしながら私が聞くと、

「いや、いつもの御荷鉾山ですよ」

あきにゃんさんが苦笑しながら応えました。

やっぱり、しばらく乗っていないと感覚が鈍るんだなと実感します。

 

「それより、紅葉が綺麗ですよ。あの下にバイクを並べて写真撮りませんか?」

「うわぁ~ホントですね。御荷鉾山は何度か来ていますけど、紅葉してるのは初めて見ました」

ヨシさんもよねってぃさんも頷いています。

「こんなに綺麗に紅葉するのは珍しいんですよ。僕が去年来た時は上の葉が落ちてしまって、下の葉は青いままでした」

御荷鉾山がホームコースのあきにゃんさんがそう言います。

「へぇ~。そうなんですね」

同じ場所にある同じ木だというのに、毎年紅葉の仕方が違うのは面白いと感じました。

 

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今年は綺麗に紅葉している御荷鉾山に来れて本当に良かった。

心からそう思えました。

お誘いしてくれた仲間達に感謝です。

ぬかるみを越え

あれ?

晴れてる…。

 

10月半ば、土曜日の朝。

ゆっくりと目覚めた私はカーテンを開け、いの一番にそう思いました。

 

ここのところ、週末はほとんど雨でした。

今日も雨予報ではなかったものの雨雲マークの曇り予報、降水確率は30%でした。金曜日までの霧雨が、そのまま週末にまで続くのだろうと予測していたのです。

窓の外に広がる明るい景色を見ながら私は、ならば今日、軽くツーリングに行こうかなと思いつきました。

息子は修学旅行に行っており、誰気兼ねする必要もありません。

そうと決まるや、早速バイク装備に着替え出発の準備です。

思い付きでふらりと出掛けられるのも、ソロツーリングのいいところでしょう。

 

 

行先は何処にしようかと考え、軽く神奈川県内のダートを走りに行くことに。

県内ならばさほど時間も掛からず、何かあったらすぐに帰って来れます。まだ体調に不安があるため、距離や時間は軽めにしたいと思ったのです。

 

 

走り始めると涼しい風が首筋を撫でていきました。

夏の灼けるような陽射しも和らぎ、柔らかに降り注ぐ陽光が心地よく体温をあたためてくれます。

気持ちのいい日だなぁと感じました。走りに出て良かったなと。

県内の有料道路を使い、爽快に走り抜けました。渋滞もありません。

やがて到着した目的の山。

ギアを下げ、勾配を登っていきます。ガタガタしていますが、始めは一応舗装路です。

やがてダートが始まります。

 

──え。

と、思わずブレーキを掛けました。

 

 

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昨日までの雨で、道がぬかるんでいたのです。

ぬかるんだ土はタイヤが取られ、滑りやすくなります。転倒のリスクも高まるのです。

よく知った道だと思って来たのですが、この状態は初めてでした。

 

でも、引き返せるだけのスペースもない為、進むしかありません。

セローに跨りエンジンを始動し直すと、慎重にタイヤを進めました。濡れた土が、タイヤにまとわりついて来ます。

 

こんなところで転んだらどうしよう…?

 

悪い考えをあえて振り払い、ぬかるみや水溜まりを越えて進みました。

落ち葉や苔も濡れ、それらもタイヤを滑らせます。怖々と、でも慎重に登って行きます。

 

こんな時もあるのでしょう。

どんなに怖く不安でも、引き返せないし他の道もない。バック機能がないのがバイク。前へ前へと進むしかありません。

 

やがて山頂に着いた私は、ホッとひと息吐きました。

拓けた場所は駐車場になっており、そこにセローを停めます。

 

そこからは徒歩です。

階段を登ると、行き交うハイカーの人達が挨拶をしてくれました。元気に挨拶を返します。

 

 

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山頂では、おにぎりを頬張っているハイカーの方々で賑わっていました。

吸い込んだ空気が美味しく感じられます。

軽く水分補給を済ませ、来た道を引き返します。

下りはローギアにし、エンジンブレーキでゆっくり進みました。

舗装路に出ると、ホッとしました。

 

 

セローが泥だらけになったので、また洗車をして帰ります。

 

 

「ただいまぁ」

「あ~お帰りなさい。疲れたでしょう」

修学旅行から帰った息子が、沢山の荷物を掲げて玄関扉を開きました。

「楽しかった?」

「うん。はいこれ」

手渡してきたのは、旅先の銘菓でした。

「お土産ね」

と言う息子の顔が、また更に日焼けしてきたようでした。

「わぁ、ありがとう! じゃあお風呂入っておいで。ご飯にしようね」

 

 

晩ご飯を食べながら、修学旅行先の楽しかったこと、美味しかったものを興奮気味で話してくれます。

「ところで」

息子が私の顔を見ながら聞いてきます。

「お母さんはこの数日何してたの?」

「う~ん…」

オフの時間はほとんど本を読んで過ごし、あとは眠っていただけです。

 

でも今日は。

「泥遊び、かな?」

 

息子はなんじゃそりゃ、と一笑し、またご飯を掻き込み始めたのでした。