アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

2020年、走り納めツーリング

「…なんか、人の気配がないよね」

私がポツリと呟くと、前方を走るヨシさんが「えぇっ!? そんなことないよ」とムキになって否定しました。

「そこの角を曲がったら賑わってるんだよ。ほら、そんな気配がしてきたでしょ」

「…え? ううん、全然」

「…」

 

2020年、最後となったこの日──。

 

私とヨシさんは連れ立って、千葉県南房総市のとある路地裏を走りながらそんな会話を交わしていました。

 

今年の走り納めツーリングは千葉にしようと決めた私達は、横浜から高速道路に乗ってアクアラインを抜け、午前中のうちに千葉県へと入りました。

前回、ヨシさんと一緒に千葉に来た時には土砂降りの雨でしたが、今回はどうやら天候に恵まれたようでした。

 

 

 

『雨雲を呼ぶ男』↓

 

https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/07/28/064631

 

 

県内に入って早速、名所の切り通しトンネルをくぐり、はしゃぎながら写真を撮ります。

 

 

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そしてヨシさんお勧めの、とある飲食店へと向かったのですが、その付近の路地が静まり返っていた為、冒頭の会話となった訳です。

 

「あぁ…。休業日かぁ」

閑散としているのもその筈で、お店は休業日のようでした。

店先の貼り紙を見ながら肩を落とすヨシさん。

「まぁこんなご時世だしねぇ」

どうやら新型コロナウィルスの影響で急遽お休みになったようでした。

 

目的地がダメになった時私達がいつも交わすように、「まぁ仕方がない。また来ようよ」と言い合い、そこを後にします。

 

 

そうして向かったのが『道の駅 保田小学校』。

かつて小学校だった校舎を、そのまま道の駅として再生させた施設なのだそうです。

 

中の飲食店街には、小学校の給食を彷彿とさせるメニューが並んでいます。

 

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「美味し〜い」「懐かしいねぇ」と言い合いながら食べ進めました。

 

食べ終わりバイクの元へと戻るや、次なる目的地へと出発です。

田園の中を走り抜けます。

 

「長閑だね〜」

 

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ヨシさんが同意しながら走り進めます。

その後ろを追いかけながら、ふと思い出しました。

 

「そういえば。ちょうど一年前なんだよね、ヨシさんとリアルで初めて会ったのは」

「あ、そういえばそうだね」

とあるお店で偶然ヨシさんとお会いしたのは、ちょうど一年前の大晦日のことでした。

 

 

『道志に集いし同士達』↓

 

https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/01/02/091124

 

 

「あれから一年かぁ」

「あの頃はちうさんの走り、まだちょっとヨタヨタしてたよ」

「えっ、そうなの?」

「そうそう。カーブも危なげだったし。そう考えると今はだいぶ上達した」

「う〜ん…、そうなのかなぁ」

自分では、少しも上達した気がしません。

 

それどころか、林道で派手な転び方をして以来、すっかりダートやカーブへの恐怖心が出て、最近ではビクビク走るようになってしまっています。

高速道路だってようやく慣れたものの、まだまだ首都高は怖いですし、複雑に入り組み車線変更を繰り返させられる都内の下道すらも苦手です。

 

私がそう言うと、

「怖いと感じるのは悪いことではないんだよ。少しずつ克服していけばいいと思うよ」

と応えてくれました。

「うん、ありがとう」

 

 

目的地『清水渓流』へと到着します。

バイクを停めて、『亀岩の洞窟』へと歩きました。

 

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時間帯によっては光が差し込み、幻想的な光景になるのだそうです。

美しい水の流れに癒されたあと、長い遊歩道を歩きます。

 

今日は今年一番の寒さとなりました。

朝は吐く息も白くなるくらいでしたが、この時間帯には、あたたかな陽射しを受け空気も柔らかくなっていました。

「安らぐなぁ」

私がこぼすと、ヨシさんも「そうだね」と頷いてくれました。

 

 

「いい時間だし、そろそろ帰ろうか」

バイクの元へ戻ると、ヨシさんが帰りの経路を確認しながらそう言いました。

「うん」

いつもならばツーリングを終えるにはまだ早い時間なのですが、今日は大晦日のため早めに切り上げることにしたのです。

 

給油を終え、再び田園地帯を走り抜けて高速道路に乗ります。

 

道の先にはハープ橋が聳えていました。

その前方からは、紅くなりかけた太陽が地上に光を注いでいます。

 

「綺麗…」

思わず声がこぼれました。

「うん、綺麗だね」

ヨシさんも魅了されているようでした。

 

──あぁ、そっか。

 

両側の東京湾は青く澄み、その向こうに広がる工業地帯や高層ビルも、全てを鮮やかに見渡すことが出来ました。

おそらく、冬だから空気が澄んでいるのでしょう。

 

ほんの少し陽射しが変わり、時間がずれ、交通量や空気の質感が違うだけで、全く違う顔となるのでしょう。

 

それはまさに『一期一会』。

 

──これが楽しむって言うことかぁ。

 

その瞬間にしか出逢えない、それらの景色に触れたくて、免許取り立ての私はヨタヨタしながらも懸命にバイクを走らせていたのでした。

 

 

『ただ、楽しめばいいんだと思いますよ』

 

数ヶ月前のヨシさんのセリフです。

当時、バイクを教えると言っていた人から急に突き放され、途方に暮れてヨシさんを頼り、相談したのです。

その時にそう言われました。

私は拍子抜けし、同時に『そういう事じゃなくて』と少し歯痒く思ったりもしました。

それまでの私は、ほぼ無茶とも言える課題を次々こなし、説教を受けては成長した気になっていたのです。ヨシさんからも同じように、どんどん課題を出して厳しい言葉をかけて欲しい、そうやってライダーとして成長する為の手助けをして欲しいと願っていました。

 

でも、今なら分かるような気がします。

 

 

『楽しむ』。

それはシンプルなようでいて、なんと素敵で大切なことなのでしょうか。

 

自身の健康、しっかりメンテナンスされたピカピカの愛車、無事故無違反の運転と、笑い合える仲間、ツーリング先で味わう美味しい食べ物。天候、陽射し、季節。

そして、伸びゆく魅惑的な道とその先に広がる絶景たち。

 

それらが合致して、始めて『楽しさ』を味わうことが出来るのです。

 

 

「ヨシさん、今年は本当にありがとう」

私がそう言うと、「いえいえ、こちらこそ」と軽快に応えてくれました。

 

友人関係、家庭のこと、仕事のこと、今年は本当に様々な方面で大きな転機がありました。

でも挫けそうになったその時も、ヨシさんの教えてくれたツーリングという『楽しさ』があったお陰で、なんとかやって来れたのです。

今も転職こそ決まりましたが、まだまだ大変な時期は続きそうです。

 

それでも──。

「来年仕事が落ち着いたら、またロンツーを企画してもいい?」

私がそう聞くと、

「うん、もちろん!」

と笑って返してくれました。

 

 

これを読んでくださっている皆様方。

もしかしたら今までのような頻度でツーリングは出来なくなるかもしれませんし、このブログの更新も滞るのかもしれません。

でも私なりに、今の現実ときちんと向き合い、乗り越えた上で愛車に跨りたいと思いました。

それは今までのような現実逃避としてではなく、確固とした日常の中で、バイクを、ツーリングを心から『楽しむ』為に──。

 

ここまで応援してくださってきた多くの方々には、感謝の念が堪えません。

 

愛車に跨る全ての皆様の、安全で快適なバイクライフを願って──。

 

本当にありがとうございました。

蟹づくし〜新潟蟹食いツーリング 後編

『恋人岬』を後にした私達は、海沿いの国道8号線を走りすすめます。

海の形に沿うように造られたその道は、海沿いの道ならではのカーブを繰り返します。

「海沿いの道ってどの地域でも同じような傾向があるよね」

ヨシさんの言葉に同意しますが、

「でもここは、湘南と違って渋滞してないのがいいな」

「確かにそうだね」

湘南だと、こんな天気のいい日に海を見ながらスムーズに走ることはまず不可能です。

気持ちよくバイクを走らせました。

 

 

「あ、あとちょっとだよ」

ヨシさんの言葉通り、目的地の標識が見え始めました。

期待値が上がります。

「わぁ〜蟹楽しみ! お腹空いちゃったなぁ」

「あ、そっか。お昼食べてないからね」

早めに高速を降りて下道をのんびり走って来たので、時刻はもう14時を過ぎていました。

 

 

やがて到着した『道の駅マリンドリーム能生』。

 

駐輪場にバイクを停めて歩き進めます。

道の駅なのでやはり、土産物屋や飲食店が建ち並んでいます。ですが、私達はそれらを素通りして目的の場所へと向かいました。

「うわぁ、すごい! ホントに蟹がいっぱいある〜」

 

『かにや横丁』です。

 

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日本海ベニズワイガニ直売所で、収穫したての蟹を格安で提供しています。

持ち帰りはもちろん、買った蟹をその場で食べることも可能なのです。

 

「何処のお店で買う〜?」

声を弾ませながらヨシさんに聞くと、

「う〜ん…何処のがいいんだろ? 違いが分からないなぁ」

と、各店先に並べられた蟹を見比べながら考え込みます。

 

とある店先の店員さんに話しかけられたので、蟹の違いについて質問してみることに。

「やっぱり、大きい方が美味しいんですか?」

一番小さい蟹で一杯1000円、もうワンサイズ大きい物が2000円。一番大きなサイズで5000円もしました。どうせならお金を惜しまず愉しみたいと思っていたのです。

ですが、店員さんの答えは意外なものでした。

「そう!…と言いたいところだけど、味はどれもおんなじよ〜」

「へぇ〜。大きい方が身が詰まっているイメージでした」

「同じ同じ。 私なら大きいのを一杯買うより、小さいのを二杯食べるわ」

商売気のないその言い回しに好感を抱いたので、そのお店で買うことに決めました。

「じゃ、小さいの二杯下さい」

「はい、ありがとうございます! お客さん達、バイクでいらしたの?」

「はい」

やはり、装備でライダーだとバレてしまいます。

「そ~お。どこから来たの?」

「神奈川です」

「あらまぁ。それは遠くから」

 

そう言って店員さんは、同じ値段の中でも身が詰まっていそうなものを選んでくれ、更にもう一杯、蟹をサービスしてくれました。

 

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買った蟹を持って、テーブル席へと移動します。

専用鋏と殻用の桶、濡れ布巾を付けてくれました。

 

一人で蟹を丸ごと一杯食べるなど、そうそうできるものではありません。はしゃぎながら蟹を剥いて食べ始めます。

 

カニ味噌もたっぷりでした。一杯食べ終わると、

「私、ちょっと温かいものも食べたいから見てくるね」

そう言って席を立ちます。

蟹以外にも屋台が並んでおり、色々な飲食物が販売されていました。

私は300円のカニ飯と、200円の蟹の味噌汁を買って席に戻ります。カニ飯にも蟹汁にも、カニがたっぷりと入っていて、

「えっ、これであのお値段!?」

と驚嘆しました。

 

 

「はぁ〜美味しかったぁ」

私が満足気にお腹をさすりながら言うと、

「うん、美味かったね」

とヨシさんが同意してくれます。

「正直さ。いくら安いとはいっても一人五千円はするだろうと思ってんだよね」

「うん、私も私も〜」

なんと一人約1500円で蟹づくしが出来たのです。

 

蟹そのものは全国各地で手に入れることが可能ですが、採れたてを格安でたっぷり味わうのは難しい事です。

それだけでも、ここまで足を伸ばしてきて良かったなぁと思えました。

 

 

国道8号線を更に走りすすめました。

「あ、陽が沈んできてる」

ヨシさんがバイクを走らせながら呟きます。

「ホントだ〜。夕陽が綺麗だね」

眩しさを削がれた太陽は、周囲を赤く染め上げ、今まさに日本海へと沈まんとしています。

「そっか」

ヨシさんが不意に呟きました。

「陽は東から昇り、西に沈むんだよね」

言わんとしている事が分かり、

「そうそう」

と同意します。

「だから、日本海側から見る夕陽はすっごく綺麗なんだよね〜」

「そうだね…。俺、初めて見た」

息をのみながら夕陽を眺める気配が感じられました。

 

 

日が沈むと一気に冷え込みました。

「ちうさん大丈夫〜? 寒くない?」

電熱線ジャケットの電源を入れたヨシさんが、どこか余裕そうに聞いてきました。

「寒くない…事もないけど」

我慢出来ないほどではないにせよ、冷えた風が容赦なく身体を冷やします。

下道の走行なのでそこまで強く風は当たらないのですが、それでも指先の感覚がなくなっていきます。

「真冬の装備でも良かったのかも」

少しだけ後悔しますが、出てきた装備で走り続けるしかないのがツーリングです。

10月末日。昼はあたたかいのですが、朝晩は気温が一気に下がります。

 

 

やがて国道148号線へと入ります。

海沿いの道から折れて、今度は山中の走行となりました。

なだらかな峠道を進んでいきます。

「走りやすい山道だね〜」

ヨシさんの言葉に同意しました。山道とはいえ車通りが多いからか、よく整備されていて道も広く取ってあります。

 

トンネルに入りました。

正確にはトンネルというより、片側が柱の連続になっている屋根付きの道、といったところでしょうか。

今までもそういうトンネルを走った事はあったのですが、ごく短い距離で本数もそれほどではありませんでした。

ですがその道のそれは走れども走れども終わらず、やっと抜けたかと思ってもまた次のトンネルが始まります。

「すごいね〜。長いトンネル〜」

私が言うと、

「ホントだね。俺もこんなのは初めてだよ」

トンネルは山に沿って造られているようで、カーブが連続していました。

普通のトンネルならば灯りがあるのですが、自然の光が入って来る造りの為か、ここには灯りは設置されていません。陽は完全に落ちてしまっているので、暗い中を走行しなければいけないのです。

 

 

その長い長いトンネルの道を抜けると、ようやくホッと一息つきました。

 

「もう長野県に入ってるよ〜」

「そっかぁ」

 

新潟から、長野に向かう道は魅惑的なトンネルロードだったのです。

かの地の洗礼〜新潟蟹食いツーリング 前編

それは夏の終わり頃、あきにゃんさんとのマスツーリングに行っていた時のこと。

 

 

『時間厳守の三人で』↓

 

https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/09/14/075344

 

 

 

「今度、新潟へ蟹食べに行きましょう」と言っていただいていました。

そのツーリング企画はすぐに話が進み、翌月9月には決行の運びとなっていたのです。

 

ところが、今年の9月は雨続きでした。

毎週末が悪天候に見舞われてしまったため、あきにゃんさんも何度か企画をし直してくださったのですが、決行は叶わなかったのです。

 

 

そうこうしている間にもあきにゃんさんは少人数で行かれたようで、ツーリング企画そのものが流れてしまいました。

 

ですが、私の中で『新潟』と『蟹』への思いは募る一方でした。

 

 

「新潟へ蟹食べに行こう!」

ヨシさんに向け、高らかに宣言するようにして誘うと、

「おっ、いいねぇ」

とノってきてくれました。

 

 

 

10月最終日となった土曜日の早朝。

真冬の寒さはまだ程遠く、でも朝晩は冷える季節のため、装備に頭を悩ませながらも、軽く寒さ対策をして出発しました。

 

待ち合わせ場所に到着すると、少しだけ様子のおかしいヨシさん。

両手を合わせてすまなそうに声を掛けてきます。

「ごめん。ちょっと俺の家に戻ってもいい?」

「ん? いいよ〜。でもどうしたの?」

「財布忘れちゃって」

なるほど、とちょっと笑ってしまいます。

「じゃあすぐに向かおうか」

「その前に、お金借りてもいい? ガソリン代がなくって…」

 

給油を済ませ、ヨシさんの自宅方向へと走らせます。

目的地までのルートからはそれほど逸れないので、今回のツーリングにさほどの影響はないのですが、しきりに謝るヨシさん。

「ごめんね、怒ってる?」

「怒ってないよ〜。でもごめん、ちょっと笑えるけど」

「うん、笑って。その方が気が楽」

 

 

その後。

私はヨシさんの自宅近くでバイクを停めて、財布を取りに戻るヨシさんを待ちます。

インカムは繋がっている為、ヨシさん宅で飼っている犬が、主人の帰宅に喜び吠える声まで聞こえて来て、思わず笑ってしまいました。

 

「お待たせ〜」

「よし! じゃあ、ようやくの出発だね!」

「あ、おはよう」

「おはよう…」

朝の挨拶もまだだったことに気付き、また笑ってしまいました。

 

 

関越自動車道で新潟方面へと走らせます。

「結構寒いな…。ちうさん大丈夫?」

「あ、うん…」

実のところ、そこそこ寒さは感じていました。

秋冬用のバイクウェアを上下で着込めば大丈夫だと思ったのですが、それほど防寒に向いている素材ではないようで、冷気を通してきます。

 

それでも、耐えられないほどの寒さではなかったのが幸いでした。

太陽が高くなるほどに、寒さは和らいできます。

 

 

「ここから先は俺も初めて行くよ」

「えっ、そうなの?」

「うん。新潟自体がツーリングで行くのは初めて」

「へぇ〜」

ヨシさんのバイク歴は長いのですが、それでも新潟は初めてのようでした。

 

「わぁ〜、すごいすごい!」

連なる山々は秋色に染まり、走り抜けるライダーの目を楽しませてくれるのでした。

「高速とは思えないくらい景色が綺麗だね」

「ホントに〜。あっ、あそこスキー場だよ!」

山の斜面が拓かれており、沿うようにリフトが設えられています。

あちこちで見られるこの眺めも、新潟ならではのものでした。

 

 

「じゃあ、高速降りるよ〜」

「うん! いよいよだね」

料金所を抜け、新潟の下道を走ります。

 

 

「えっ、こっち?」

本当に通り抜けられるのかと不安になるほどの細道に入り込んで行きます。

「うん、こっち…ということになっているけど」

「でも綺麗な所だね」

思わずバイクを停めて降車します。すすきが揺れていました。

 

 

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「長閑な場所だねぇ」

「そうだねぇ。これも新潟ならではの景色かな?」

「そうなのかなぁ。そしてここは何処なんだろう?」

「さ、さぁ…?」

着いて早々、現在地が分からなくなった私達。ともあれナビの誘導に従い、その道を進んでみることにします。

 

「一応、県道だから大丈夫だと思う」

「ふむふむ。…えっ、これホントに県道!?」

 

激しい峠道でした。

以前の寸又峡ツーリングの帰りも、国道であるにも関わらず街灯もない激しい峠道だったことを思うと、そう驚く事でもないのかもしれません。

 

 

『静岡、寸又峡』↓

 

https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/11/06/225114

 

それでも、車一台がようやく通れるほどの細道と、激しい勾配、荒れた路面、なによりミラーすらない急カーブ…。

とても公道とは思えないほどの廃れぶりでした。

カーブの先が見えないため、運転に慣れている筈のヨシさんですらノロノロ運転になっています。

 

 

よくあんな重い車体でこの急勾配を登っていくなぁ。

 

後ろからヨシさんの運転を眺めながら密かに感心してしまいました。

 

「これが新潟の道かぁ」

ヨシさんの呟きに、吹き出します。

「いやいや、この道で新潟を判断しちゃダメでしょ」

「でも、なにかを試されてる気がする」

「ははぁ…洗礼ってやつ? 私たちは今、新潟の洗礼を受けているのか」

 

そうやって軽口を叩き合いながら、県道74号線を走り抜けて行きます。

やがて国道252号線へと入ります。広く真っ直ぐな道にホッと一息つきました。

 

「もうそろそろ海が見える筈だよ」

ヨシさんの言葉通り、ほどなくして坂を下りた先に海が広がっていました。

「おぉ〜すごい!」

私よりもヨシさんの方が感激しました。

内陸地に住んでいるため、海というだけで感慨深いのでしょう。ましてそれが、ツーリング史上初めての日本海ならば尚のこと。

私もひっそりと感動していました。

太平洋と日本海

同じ海ではありますが、光の加減や波の高さ、水の色彩に至るまで、神奈川の海とは何もかもが違っていたのです。

 

 

やがて到着した『恋人岬』。

当初の企画であきにゃんさんが考えて下さっていたルートです。

 

柏崎市『米山福浦八景県立自然公園』の恋人岬は、日本海を一望出来ます。天気のいい日には佐渡ヶ島も望めるそうです。

 

バイクを降りて眺めた日本海は青く澄んでいました。神奈川から望む海も好きですが、ここから見渡す海は吸い込まれそうなほどの魅力を備えていたのです。

 

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「大陸を横断して反対側の海に来たんだねぇ」

私が感慨深げに呟くと、

「そうだね」

とヨシさんも静かに応えました。

 

 

ハート型のプレートが、じゃらじゃらと音を立てて風に揺られていました。

数多の恋人達が願いを込めて取り付けたであろうそれらのプレートが、あたかも私とヨシさんとの新潟ツーリングを歓迎してくれているかのようで、胸が踊ったのでした。

果てなき20m〜奥多摩林道 完結編

バイクは私の頭上を飛び越え、真後ろに落下しました。

 

がなり立てるセローのエンジン音が赤子の癇癪泣きのように耳をつんざいたので、慌ててエンジンを停止させます。

でも、私が出来たのはそこまで。

座り込んだまま放心状態で倒れ込んだセローを見つめます。

 

「大丈夫ですかっ!?」

AOさんが駆け寄って来ました。

後ろを走っていたため、私の派手な転び方をまともに見てしまったようで、血相を変えて飛んで来てくれました。

「立てますか?」

轟音を聞きつけたらしきTHさんも戻って来てくれました。THさんは冷静でした。静かに呼びかけてくれます。

 

「あ、はい。大丈夫です」

ようやく正気に戻り、立ち上がります。

とりあえず私が立てたことにホッとした様子のお二人。

「何処か痛い所はないですか? 怪我をしている所や、動きにくいと感じる部位とか」

THさんの質問に、私は両肩を回してみます。

「ない…みたいです」

軽く動きながら身体のあちこちに神経を巡らせてみますが、痛さや動きにくさを感じる箇所はなさそうでした。

「いや」

それでも尚、THさんが深刻な表情を崩そうとしません。

「直後は神経が昂っていて大怪我していても気付きにくいものなんですよ。ちょっと休んでた方がいい」

 

 

お二人で私のセローを起こしてくれました。

 

派手に宙返りしたわりに、セローはそれほどダメージを受けていないようでした。

草むらの上に落下したのが幸いしたのでしょう。

それでもナンバーがひしゃげています。

THさんが手で伸ばして広げてくれましたが、やはり歪んでいました。

「大丈夫、ひしゃげたナンバーはオフ車乗りの勲章ですよ!」

AOさんが親指を突き立てそう言ってくれたので、ようやく笑うことが出来ました。

 

 

「じゃ、ちょっと行ってくるのでここで待ってて下さい」

言って、THさんが頂上目指して走り出します。

この先通り抜けは出来ないため、登ってもまたここへ戻って来なければならないのだそう。

なので私はこの場で待つことにしたのです。

 

「あれ、AOさんもここに残るんですか?」

少しだけ走ったTHさんが振り返り、降車したまま動かないAOさんに聞きました。

「あ、はい。僕もここに残ることにします」

走り出したTHさんを二人で見送ります。

 

 

「実のところ、僕もここ怖かったんですよ」

何故か声をひそめ、笑いながらそう言ってくれるAOさん。

「えっ、そうだったんですか? もぉ〜、それならそうと言ってくださいよ〜。無理して登って来ちゃったじゃないですか」

「あはは。正直入口で見上げながら、え、マジで行くのか?って思ってました」

怖かったのは私だけじゃなかったのだと知り、ちょっとだけホッとします。

 

 

ひとしきり笑った後、引っ掛かっていることをポツリと漏らしました。

「来た道を帰らなきゃいけないんですよね…」

そう。

今登って来たこの悪路の急勾配を、またバイクで戻らなければいけないのです。

 

 

やがてTHさんが戻ってきました。

「身体は大丈夫そうですか?」

「あ、はい」

時間が経ってみても、どこも怪我をしている様子はありませんでした。

ですが実はこの時、あちこち打ち身を食らっていのです。それを私が知ったのは2日後、皮膚が赤紫色に腫れ上がってからでした。

 

 

「じゃあ戻りますか」

「は、はい…」

バイクに跨りますが、怖くて中々アクセルが開けません。

これだけの急勾配なので、アクセルなんて開かなくても走り出しそうなものなのですが、大きな石にタイヤを取られて進まないのです。

 

なんとか走り出したものの、すぐ路面の凹凸にバランスを崩します。

少し前までならアクセルを開くことで立て直していたのですが、先程それをしてどんな目に遭ったのかが脳裏を過ります。

どうしたらいいのか分からず、崩れたバランスに抗う術もないまま、当然のように転倒しました。

 

しかも、セローの車体に挟み込まれて動けなくなります。

 

またも前後のお二人が助け起こしてくれたのですが、立ち上がることは出来ても、もう一度跨る勇気は湧き起こりませんせんでした。

 

 

「走れません」

 

ポツリと零した私のセリフに、お二人が振り返ります。

「すみません、やっぱりもう無理です」

「え、でもあとほんの数メートルですよ? そこのカーブを曲がったらすぐ舗装路なので」

 

THさんが言ってくれますが、そこは先程何度もエンストしてようやく通過できたピストンカーブです。もし曲がりきれなかったなら、今度は奈落に真っ逆さまです。

 

自分の中にある勇気をどうにかかき集めても、これ以上走るのはどうしても無理でした。

気が付けば足が震えています。

寒くもないのに意図せず震えが止まらなくなったのは初めての経験でした。

 

私はセローに乗って以降、初めてのセリフを口にしました。

 

「すみません、もうこれ以上は走れません」

 

 

THさんが代走してくれました。

 

一旦自分のバイクで舗装路まで出て、歩いて戻って私のセローを運転してくれたのです。

「いいなぁ〜。僕のも運転していって欲しいなぁ」

AOさんがそう言ってエンジンをかけ、

「うわっ、超こえ〜」と声を上げながら運転していきました。

 

 

徒歩で戻ると、確かにそこはほんの20mほどの距離でした。

 

 

THさんに何度もお礼を言います。

「お疲れ様でした。今日はもう舗装路を走りましょう。美味しいジェラートでも食べて、楽しく終わりましょうか」

 

 

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THさんオススメのジェラート屋さんに連れて行って貰います。

 

 

「じゃあ、今日は本当にお世話になりました」

お二人にお辞儀をすると、

「いえいえ、誰だって始めのうちははあんなもんです」

THさんが応え、

「オフロード、嫌いにならないでくださいね」

AOさんが笑いながら続けます。

タイヤの空気を戻し、流れ解散となりました。

 

 

 

帰りの高速を走りながら、つらつら考えます。

 

 

 

私がオフロードをもう走らないと決意したとして、誰も私を責めないのでしょう。

「怖かったんだね」

「それがいいよ」

「別にバイクの楽しさはオフロードを走らなくっても味わえるんだし」

「無理しなくていい」

 

そして私自身を納得させるのも容易いことです。

「別にオフロードが走りたくてバイクに乗った訳じゃない」

「バイクも傷むし」

「怪我でもしたら元も子もないでしょ」

 

 

それでも、心の奥底では分かっていました。

それは自分自身の恐怖心に打ち負けた姿なのだと。いくら言い訳を重ねてみても、残るのは『逃げた』という敗北感のみ。

 

でも、何のために?

何故そうまでしてオフロードを走るのかと聞かれたならば、別に何のためでもないと答えるしかありません。

ですがそこには道があり、それを走破出来るだけのバイクを私は持っています。

 

 

 

全く進めなかった、たった20mのオフロード──。

 

 

オンロードツーリングでは何百キロも走っているというのに、そんな経験は全く役に立ちませんでした。

 

今までとは全く違う理論、全く違うテクニックが必要となるのでしょう。

 

 

やってみたい──。

せめて、恐怖に呑まれず自分の力で走り抜けられるようになりたい。

 

道は果てしなく遠くとも。

 

 

そんな私の思いに呼応するかのように、セローのエンジンは唸りを上げたのでした。

頭上飛ぶ愛車〜奥多摩林道 ②

林道の戻りでは転倒せずに走れました。

 

一旦公道に出て、公衆トイレの手前にバイクを停めてトイレ休憩です。

「戻りでは転ばずに済みましたね」

THさんから言われ、

「はい、戻りは下りだったのでエンストしなかったからかもしれません」

「あぁ、なるほど」

 

今日行く予定の林道は、まだ3本あります。

「次の林道とその次の林道は、繋がっているんですよ」

THさんがこの後行く林道の説明をしてくれます。

「へぇ〜、そうなんですか」

「最初の10メートル程は登りがキツいかもしれませんが、それを過ぎたら次の林道の始まりです。そこからはフラットなので」

フラット。

私はそれを頭から信じることは出来ませんでした。アタックやトライアル走行もしているというTHさんです。

今日一緒に走ってみて確信しましたが、彼にとっての『初心者レベル』よりも、遥か下のレベルに私は位置しているのでしょう。

それでも、私と一緒に走ろうとして下さっています。

なんとかそこに応えたいと思いました。

 

 

充分に休憩を取って出発です。

 

山道を進み、砂利道に入るや急勾配を登って行きます。

大きな石にタイヤを取られかけましたが、アクセルを開くと確かに体勢が立て直せます。

なるほど。

迷ったらアクセルを開け、とはこういう事かと思いました。

 

 

THさんの言っていた通り、程なくしてフラットな林道になります。少しだけホッとしました。

砂利道を登りながら、木々の間から街が見下ろせます。

 

拓けた場所に出ました。

THさんがバイクを停めたので、私も隣に横付けして降車します。

「ここでお昼休憩にしましょう」

「はーい」

 

そこは登山道の休憩ポイントのようでした。

 

 

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団体で来たらしき登山者の方々が一斉にこちらを見ていたので、

「こんにちは。どうもすみません、うるさくして」

THさんがお辞儀しながら挨拶すると、

「いえいえ、とんでもない」

と登山者の一人が笑って応えてくれました。

 

登山者さん達の邪魔にならない隅っこに座り込み、持って来たバーナーでラーメンを煮ます。

 

 

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食べながらTHさんから、ヒマラヤやヨーロッパの山々を登頂した時の話を聞きます。

 

面白いなぁと思いました。

 

バイク乗りには色んな年齢、職業、経歴の人達がいます。

本来は接点のなかったはずの人達。

同じバイク乗りというだけで、こうして縁を持ち一緒に走る事が出来ているのです。

そのことに、改めて感謝します。

 

 

「これは排気量どのくらいなの?」

団体の登山者さん達が、興味津々で話しかけてきました。

「250です」

私が答えると一人の女性が「へぇ〜」とこぼし、

「女性で山の中をバイクで走るの怖くない? 倒れちゃったら自分で起こせなくない?」

と、まさにタイムリーな質問をされます。

「えっと、起こせませんでしたが…」

「だから、仲間と一緒に走るんですよ」

私のセリフに被せて、THさんが言ってくれました。

 

仲間と走り、仲間同士で助け合う。

 

だから当然のことをしたまでなんだと言われたような気がして、少しだけ気持ちが楽になりました。

 

 

団体の登山者さん達が一人一人、私達に声をかけながら出発していきます。

「では、お気を付けて」

「はい、ありがとうございます。行ってらっしゃい」

私達も一人一人に声を掛けて見送りました。

 

 

「さて、行きますか」

バイクに跨り、私達も出発します。

下り道だったので、エンジンブレーキとフロントブレーキを駆使して走りました。

 

 

最後の林道に入ります。

かなりの傾斜と凹凸が見られました。

あまり人が通っていないのか、苔むして大きな枝なども落ちています。

それらを避けながら進んで行きました。

 

 

「転ばなかったじゃないですか」

THさんが感心したように言います。

最後の林道の、終着地点に到達したのです。

「ホントですね! 良かったです」

「僕も後ろから見てましたが、ちゃんとアクセル開けれてましたよ。上達はやいですね」

AOさんからも褒められました。

 

「実は、道のレベルはどんどん上がってきてたんです」

THさんが言います。

「えっ、 そうなんですか? 一本目が一番難易度高かったように思えましたが」

「いえ、あれが一番簡単でしたね」

担がれているのかと思いましたが、隣でAOさんもウンウン頷いていたので、どうやら本当の事らしいと確信出来ました。

 

 

という事は。

私は一番易しい林道の、前半だけを転倒し続け、その後の林道では一切転ばなかったということになります。

 

──つまり私は、オフロードでの走り方を習得してきているということ?

 

内心嬉しくなります。

 

「どうです? 今日行く予定だった林道は全て走り終えましたが、もう一本挑戦してみますか?」

 

このTHさんの問い掛けに「辞めておきます」と答えたならば、このお話は180°違うものになっていたのでしょう。

気持ちよく今日の林道ツーリングを終え、自信たっぷり帰路につくことが出来たのかもしれません。

 

ですがこの時の私は褒められたことに浮かれていました。

それに、習得しつつあるオフロードでの走りをもっと定着させたいとも思ったのです。

「はい、行きたいです!」

 

 

見上げたその道は、今までとは比べ物にならないくらいの急勾配でした。

しかも、砂利というよりは瓦礫のような大きな石が散らばっています。

 

えっ、ここを行く? 走れるの私に?

 

内心不安になりましたが、「行きたい」と答えてしまった手前、今更後には引けません。

THさんが走り出したのを見て、自分を鼓舞するように私も走り出します。

 

怖い。

勾配はキツく、道は細く、大きな石にタイヤを取られてしょっちゅう滑っています。

 

最初のカーブで登りきれず、エンストしてしまいました。

今までの林道でのカーブとは比較にならないくらいの急カーブです。

脚を着いたので転倒せずに済みましたが、エンジンをかけ直して発進するも、石にタイヤを取られて中々進みません。そして、またもエンストです。

アクセルを開きすぎたら、カーブを曲がり切れなさそうだったのです。

「もっとアクセル開いた方がいいです」

後ろのAOさんが言ってくれたことで、ようやく思い切ってアクセルを開いてそのカーブを突破しました。

少しだけ直進し、また次のカーブです。

 

 

その時。

 

大きな石と陥没とにバランスを崩します。体勢を立て直そうと咄嗟にアクセルを開きました。

それは今日のオフロード走行で習得したことではあったのですが、それをやるには場所が悪すぎました。

 

ピストンカーブの直前でアクセルを開かれたセローは、当然カーブを曲がり切れず、切り立った崖の上を垂直に登っていってしまったのでした。

 

最初に私が振り落とされ、惰性で崖をかけ登ったセローが私の頭上に飛んで来ます。

 

 

あ、死んだ。

 

 

為す術なくそう思った私は、ただ呆然とその様を見入っていたのでした。

それはスローモーションのように感じられる出来事でした。

倒けつ転びつ〜奥多摩林道 ①

10月第4週の日曜日。

 

セローに跨るや、東京郊外へと赴きます。

 

最近、待ち合わせ場所までは高速道路を使うことが多かったのですが、その日の集合場所は東京都内だったので、ツーリング気分を味わいながら下道でのんびり2時間かけて向かいました。

 

天気も良く、私もセローもコンディションは良好です。

ウキウキしながら東京都内を突っ切ります。

 

 

集合場所に到着すると、既に2台のセローが駐輪されていました。

隣に横付けし、お二人に挨拶します。

「おはようございます」

「おはようございます、すぐに場所分かりましたか?」

主催者の、THさんです。

「はい! …あ、ナビのお陰ですけど」

その隣の男性も会釈をしながら、

「今日はよろしくお願いします」

と挨拶してくれます。AOさんです。

私も同じ言葉を返してお辞儀をしました。

 

 

今日は初めて、SNS外で知り合った方々と一緒に走ります。

 

主催者のTHさんは、もうかれこれ数十年以上もオフロード走行をされているのだとか。

 

今回一緒に林道ツーリングに行こうと企画して下さったので、ご一緒させてもらうことにしたのです。

 

 

その企画に、AOさんも参加されました。

AOさんのバイクもセロー。

バイク歴は長いものの、セローは購入してまだ一年弱だそう。

「オフロードでは初心者ですよ」と仰るので勝手に仲間意識を持っていましたが、聞けば既にオフロードコースを走ったり、一人で林道を走ったりもしているそう。

私などとは比べ物にならないくらいのベテランさんなようでした。

 

 

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「じゃあ行きますか」

「はーい」

出発です。

3台のセローが走り出します。

 

 

山道を登り細道に折れるや、すぐ砂利道となります。

一旦バイクを停めタイヤの空気を抜き、いよいよ林道ツーリングの始まりです。

立ち乗り姿勢を取りました。

 

 

今日は私やAOさんの為に、初心者コースに行くと言って下さっていました。

私も初心者とはいえ、林道ツーリングそのものは初めてではありません。どこか気楽な気持ちで付いて行きます。

 

 

ところが。

 

 

あっ、と気付いた頃には転倒していました。

大きな石にタイヤを取られたのです。

私の真後ろを走っていたAOさんも後ろで転倒します。

私を轢くか自分も転ぶかの2択を迫られ、自ら転倒する道を選んでくれたようです。転倒したまま、すぐにクラクションを鳴らしてくれます。

『転んだらクラクションを鳴らして知らせるように』とTHさんから言われていたのです。

私は転んだショックで、そんなことなどすっかり失念していました。

 

AOさんは自分のセローを引き起こしていましたが、私は自分のセローを起こせませんでした。

傾斜している砂利道、セローの重さが何倍にも感じられます。

 

 

「大丈夫ですか?」

引き起こしの終わったAOさんと、戻って来てくれたTHさんとで私のセローを引き起こしてくださいます。

「はい、大丈夫です。すみません、ありがとうございます」

転倒の衝撃でセローのエンジンがかかりません。

「えっ!? なんででしょう?」

「大丈夫です、よくあることなんですよ」

THさんが冷静に対処してくださいます。

 

 

ようやくエンジンのかかったセローに跨り、気を取り直すようにして出発します。

ところが、ものの数メートルで再び転倒してしまいました。

今度は距離を取って走っていたAOさんが、すぐさまクラクションを鳴らして降車し、引き起こしを手伝ってくれます。

「すみません、ありがとうございます」

「大丈夫ですよ。お怪我はないですか?」

「はい」

 

気持ちを切り替える間もなく、数メートルもいかないうちに、またも転倒です。

 

一体、何故?

 

今度は段差にタイヤを取られたのではなく、エンストによる転倒でした。

茂みの中へと倒れ込んでしまいました。しかも脚をセローの車体に挟まれ動けません。

 

 

二人がまたも助け起こしてくれましたが、さすがに申し訳なくなります。

「すみません、ホントに…」

私のせいで、二人共ろくに林道ツーリングが出来ていません。

ここで少しでもお二人の表情からウンザリした様子が伺えたなら、もうリタイアして帰ろうと本気で思ったくらいです。

今日走る予定の林道は4本なのに、まだ1本目の中間地点にも達していません。

ですが二人とも、さも当然のことのように私に手を貸してくださいました。

 

その先は行き止まりです。

通り抜けの出来ない、ピストン林道のようでした。

引き返す前に、バイクを停めて休憩を取ります。

 

 

「気にしないでくださいね。大丈夫ですか?」

THさんが聞いてきます。

「はい、どこも打ってないみたいです」

「メンタルは?」

…メンタル?

「一回転倒しちゃうと、自分が思っている以上に精神的ダメージを負っちゃうんですよ」

そう言われてみれば、私はちょっと冷静さを失っていました。

「そうそう。オフロードって、舗装路とは全然感覚が違いますよね」

AOさんもすかさずフォローしてくれます。

「僕も初めて林道行った時、コケまくりました。正直、ショックでしたよ。バイク歴も長いし、運転には自信があったのに」

ショックすぎて、その時はたった一時間で帰っちゃったのだと笑いながら言いました。

 

 

懸命にフォローしてくださるお二人を見て、このまま帰っちゃいけないと思いました。少なくとも、『もうメンタルがやられたから帰ります』とは情けなくて言えません。

せっかくなので何かしら学んで帰りたいと思ったのです。

 

でも、一体なんで転んじゃうんだろう?

 

今更ながら、考え始めました。

今までの林道ツーリングと何が違う?

 

見渡して、少しだけ検討がつきました。

今まで連れて行ってもらった林道はフラットでしたが、ここは結構な傾斜でした。

転がっている砂利も一つ一つが大きく、所々の陥没も激しめです。

要するに、ここは今までの林道よりもレベルが高いようでした。

 

「あの」

タバコ休憩をとっていたお二人に声を掛けます。

「転ばないように走るにはどうしたらいいんでしょうか?」

呆れられるかと思いましたが、二人とも真面目に考えてくださいました。

「立ち乗りで踝(くるぶし)グリップして身体でバランスを取ることと…。あとはスピードを落としすぎないこと…ですかね? 」

AOさんが応え、

「そうそう。エンストしない為にはある程度スピードを出しておいた方がいいです。あとスピードが出ていることで、多少の凹凸でもバランスが崩れにくくなります」

THさんも教えてくれます。

「そうなんですよね。僕もオフロードの先輩から、『登りでバランス崩しそうになったらまずアクセルを開け』って教えられましたよ」

 

 

ふむふむと脳内メモ帳に明記していきます。

 

そうして深呼吸をして、この先のダートを走り続けていくイメージを持たせました。

 

それにしても。

 

改めて思います。

バイクは元々危険な乗り物ですが、恐怖に呑まれて不必要にスピードを緩めれば、たちまち転倒してしまうのです。

こと、オフロードでは尚のこと。

 

 

進め、負けるなとセローが語りかけて来ているようで、少しだけ心強く思えました。

闇の峠道〜静岡、寸又峡 後編

吊り橋は一方通行でした。

 

橋を渡り切ったら、徒歩で渓谷を迂回して戻らなければいけません。

そのことについては、橋を渡る手前から散々注意書きが提示されてありました。

ですが私もヨシさんも、さほどの考えも覚悟もなく橋を渡ってしまったのです。

 

 

「おぉ…マジか」

ヨシさんが息切れしながらこぼします。

まさか、350段もの急峻な階段が続くことになろうとは、思ってもみなかったのです。

 

「まぁ、ゆっくり行こうよ」

端っこに寄り、後ろから颯爽と登って来た男性に先を譲りながら言います。

「ちうさん知ってたの? ここがこんなだって知ってた?」

ちょっと恨みがましくヨシさんから聞かれました。

「知らない知らない」

橋が一方通行だということすら、私もついさっき知ったのです。

 

 

しかもこの階段は、高さの均一な上がりやすいものではなく、登山道のそれでした。

一段一段が不揃いで、砂利や木の根が混ざった滑りやすい箇所まであり、足元に注意しないと危険です。

それが、余計に肉体を疲弊させていきます。

 

「ごめん、ちょっと休んでいい?」

「うん、休み休み行こう」

登り途中でヨシさんが岩に腰掛けたので、リュックから飲み物を出して私もドリンク休憩にします。

「私も暑くなっちゃった」

バイクウェアを着ていましたが、脱いでくれば良かったと軽く後悔しました。

バイクを走らせている時には寒かったのに、今は汗だくです。

 

 

残りの階段もゆっくりと登って行きました。

「俺、明日は絶対筋肉痛だわ」

「あはは、どの辺りが筋肉痛になるかな?」

「まずは太ももと〜。あとはふくらはぎ?」

「下腹部もかもよ〜? 脚を上げる動作で案外使うから」

「鍛えられるなぁ」

「ね〜。鍛えられるね〜」

「ちうさんとツーリングするといつもこうなる」

笑ってしまいました。

 

確かに私はツーリング先でバイクを降りたら、その場所を徹底的に堪能したくなるのです。

ヨシさんはいつも何だかんだ言いながら、そんな私に付き合ってくれます。

 

 

ようやく『展望台』へと辿り着けました。

 

 

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「せっかく登って来たわけだけど。『感動の絶景』とまではいかなかったみたいだね…」

植物や木々が邪魔をして、そこからの眺めはさほどでもありませんでした。

「ホントだ〜。まぁ、仕方ない」

なだらかな斜面を下っていきます。

むしろ、その途中に広がる景色の方が素晴らしかったです。

 

 

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そうしてようやく麓まで戻って来ます。

「よし! じゃあ温泉に入ろう」

「お、いいねぇ」

寸又峡と言えば吊り橋と、そして温泉が有名なようでした。

この辺りのお湯は美肌効果が期待されることから、『美人づくりの湯』と称される名泉なのだそうです。

せっかくだから温泉に入って行こうと決めていました。

 

 

一軒の日帰り温泉施設に入って行きます。

 

『女湯』の暖簾をくぐり中に脚を踏み入れると、他のお客さんの姿はありませんでした。

大浴場も露天風呂も、貸切状態でゆったりと堪能出来ます。

 

 

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お湯はトロリとしており、確かにお肌がすべすべになりました。

身体の芯から温まります。

 

お風呂から上がり、服を着て髪を乾かしている間も身体がホクホクしていました。

暑すぎてバイクウェアが着れなかったくらいです。

 

合流したヨシさんの頬も上気しています。

「こちらでご休憩もいかがですか?」

施設の女将さんがそう言って休憩室を指して下さいます。惹かれましたが、時間も時間だったので謝絶しました。

 

「いいお湯でした〜」

私がそう言うと女将さんはお礼を返した上で、

「バイクでお越しなんですか?」

と聞いてきました。

「はい、そうなんです」

バイクやヘルメットがなくとも、装備でライダーだとバレてしまうようでした。

「ライダーさんもよくいらっしゃるんですよ。うちで駐輪も出来るので、今度は是非泊まりでいらして下さいね」

ここのお湯に浸かってゆったり温まり、そのまま宿泊、というのは確かに魅力的だと思いました。

 

 

後ろ髪を引かれる思いですが、今日は帰らないといけません。

 

 

バイクの元に戻る頃には、薄暗くなりつつありました。

温泉のお陰で温まっていた身体も、ひんやりとした山の冷気を受けて段々と冷えてきています。

バイクウェアをしっかりと着込み、出発しました。

 

 

県道77号線を下って行きます。

 

寸又峡の面白いところは、どのルートからでもこの長い山道を越えないと辿り着けないところでしょう。

関東のライダーにとって静岡といえば伊豆のイメージが強いのかもしれませんが、ここもまた楽しいツーリングスポットだなぁと、改めて思いながら走りすすめます。

いつの間にか、日もすっかり落ちてしまいました。

 

「来た道とは別ルートで戻るね〜」

「うん」

「日も落ちちゃったけど、ちうさん怖くないかな? まぁこの先は国道だから、そんな激しい道ではないはずだけど」

「うん、大丈夫」

 

 

やがて国道362号線へと入ります。

 

ヨシさんの予測は大きく外れました。

 

「え…マジですか」

国道とはいえ歴とした峠道、なのに街灯は皆無でした。

滅多にやらないハイビームを駆使して運転します。

 

セローのライトは暗めです。

最近はいつもヨシさんが前を走ってくれているので、夜の走行でもそれほど怖さを感じてはいませんでした。

ですが、山道となると話は別です。

ヨシさんがカーブを曲がりきってしまうと、照らされるライトの方向も変わってしまうため、もはや頼れるのはセローのライトのみとなってしまいます。

 

闇を照らし出しながら、慎重に走りすすめます。

 

加えて。

「次、カーブだよ〜。『いろは坂』並みのピストンカーブ」

「うん」

昼日中でも緊張してしまうような、ヘアピンカーブです。

それが何度も続きました。

 

他の車の姿もなく、街灯もなく、しかも激しめの峠道。

「見えなかったから道を外れた」では済まされません。命に関わります。

目を凝らし、全神経を運転に集中させました。

 

何度目かのカーブを終えた先で、ようやく街灯が出てきました。

たったそれだけのことで心の底から安堵します。

「街灯ってすごいんだね」

私が言うと、

「そうだねぇ。明るさが違うね」

とヨシさんが応えました。

 

やがて街中の走行になります。

寸又峡を出てから初めての信号に出くわすまで、なんと1時間半も経過していたのです。

 

ようやくホッとしたので、インカムでの会話を再開します。

「さっきの、暗闇での峠道走行。すごくいい経験になった気がする」

「そうだよ、夜の峠道は運転の上達にすごくいいらしいよ。運転に全神経を集中させるから」

「へぇ〜、そうなんだ?」

 

 

街灯はおろか、月明かりすらない夜の峠道。

繁華街から大きく外れた美しい渓谷からの帰り道は、これまた貴重な経験を積ませてもらえる素敵な道程となりました。