アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

近くて遠い~箱根林道ツーリング 前編

今年の冬は暖冬でした。

朝晩は冷えるものの日中はあたたかな陽射しが降り注ぎ、バイクを乗る上でも心地よい天候の日が続いたのです。

ですが、年始の能登半島地震に気分が沈んだ事と、何より息子の受験が気がかりだった事もあり、ここに書くまでもないご近所を軽く走るだけのツーリングばかりになっていました。

 

 

『ヤバい、集合時間に間に合わなそう』

前方を走るヨシさんがインカム越しにそう言ってきたので、私は『マジか…』と呟きました。

 

そんな冬を過ごし、春を迎えてようやく生活に落ち着きを取り戻したGWのとある朝。

私とヨシさんは箱根を目指して走っていました。

集合時間は午前10時とゆっくりめ。しかも箱根は私の自宅からだと僅か数10kmの距離にあるため、朝遅くに出発しても充分間に合う算段でした。

私もヨシさんも、いつも集合時間の30分前には着く性分なので、今回もだいぶ早めに合流して出発したつもりです。

 

ところが、目的地の箱根は観光名所なのです。

GWということもあり、道路はひどく混雑していました。渋滞に巻き込まれた私達はどんどん焦り始めます。

そしてとうとう、到着予定時刻が集合時間をすぎてしまったのでした。

『よし、有料道路に乗ろう』

『うん』

下道で向かう予定でしたが、集合に遅れては意味がありません。

私達は有料道路に入り、滑らかに進んでいきます。

箱根に近付くほどに、空気が澄んで風が冷たくなってきました。

『綺麗な景色~』

山間の裾野を眺めながら思わずそう呟きます。

『ねぇ。なんか既に充分ツーリング気分を味わっちゃってるよ』

私がそう言うとヨシさんが『あはは』と笑い、確かにそうかもしれないねと同意してくれました。

 

 

集合場所には、10時ちょうどくらいに到着しました。

Kさんや総監督、ほか数名が立ち話しているのが目に入ります。

今日は、静岡林道ツーリングの方々と箱根の林道を走る予定なのです。

私はここでは『こじか』と名乗っています。

「どうも、遅くなっちゃってすみません」

ヨシさんがそう言うと、「いえいえ、大丈夫ですよ」と総監督が笑いながら応えてくださいました。

総監督は私以外では唯一の女性ライダー、それもこのツーリンググループの運営者でもあります。

その卓越したオフロードテクニックに対して、性格は至っておっとりしている為、メンバーの皆さんからとても慕われているのです。

私も総監督のその朗らかな笑顔に癒され、心強く感じてもいました。

バイク界隈全体に言える事ですが、ことオフロードバイクにおいては男性が9割以上を占める世界です。当然、ツーリングも男性主体のものとなります。

そんな中女性参加者が一番困るのが、トイレ事情でした。

山の中を走り抜ける林道ツーリングにおいて、トイレのない道を何時間も駆け抜けることは珍しくありません。

男性ライダー達は背を向け大自然に向けて用を足せばそれで済みますが、女性はそれが出来ないのです。

中には、草むらに隠れて用を足しているところを、男性ライダーから覗きに来られたという被害者女性の声も聞いています。

その点、ここでは総監督がトイレ事情までをも考慮したルートを考えて下さるので、私も安心して参加出来るのでした。

 

 

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今日の参加者は全部で7名。

グループ内でのメッセージでは仲良くやり取りしていたものの、今日初めて会う方もいたので、軽く挨拶を交わし合いました。

「じゃあ、そろそろ行きますか」

Kさんの言葉に、全員が「はーい」と応えて出発の準備をします。

 

流れるように走り出した7台のバイク。

箱根はツーリングスポットでもあるため、今日はバイクもいっぱい走っていました。ですが、オフ車の集団は他には見当たりません。私は、何故だか少しだけ誇らしい気分で箱根の道を走り抜けます。

 

 

やがて車通りの少ない道へと入り、いよいよダートが始まります。白銀林道です。

『はぁ、緊張する…』

ダートを走る時はいつも緊張してしまいます。今も、心臓が早鐘を打っていました。

でもこの道は前にも走っているんだから大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせます。

 

Kさんは、ゆっくりめに進んでいってくれました。このペースなら付いて行けそうです。

 

『ここは道が整備されてて走りやすいね』

ヨシさんがそう言いました。

『そう? そうかもしれないね』

オフ歴は私より短いヨシさんですが、走った林道の種類は私より多いのです。そんなヨシさんが走りやすいと言うのですから、ここはそうなのでしょう。でも、私からすれば充分に怖く、刺激的な林道でした。

カーブが来る度、砂利で横滑りするんじゃないかと、ぐっと力を入れてしまいます。

セローが横揺れする度、今度こそ転ぶんじゃないか、滑るんじゃないかとドキドキしました。

 

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一旦停止して、軽く休憩に入ります。

こじかさん、怖かったら停まって声を掛けてくれていいからね」

Kさんがそう声をかけてくださいました。

「はい、ありがとうございます」

とはいえ。

私はずっと怖さを感じているので、どのタイミングで声を掛けていいのか判断がつかないかもしれないと、内心苦笑しました。

 

再び走り始めます。

白銀林道は綺麗でした。

木漏れ日が差し込み、カーブの度に違う景色を見せてくれます。

 

あぁ、楽しいなぁ。

 

あのカーブを無事曲がり切れるか、このガレ場を乗り越えられるか、あの泥濘を越えられるか。一つ一つに緊張しながら挑んでいき、これも出来た、次も行けたとクリアしていきます。

そんな小さな達成感が少しずつ積み重なっていくのです。その感覚が、たまらなくワクワクしました。

 

怖さはずっと消えません。今度こそ転倒するかもしれないとずっと怯えています。ですが、それに相反するように心の奥底から、走れる喜びが湧き上がって来るのです。