オフロード仲間が欲しい──。
私の中に、その願望はずっと燻っていました。
出来れば、近場で一緒にひょいと林道に入り込み、共に景色を堪能し、協力し、笑い合えるような。
そんな仲間が欲しいと。
ですが、それは叶わぬ夢物語なのではないかと思い始めていたのです。
そんな仲間を求め、とあるオフロードサークルに入って手痛い目に遭ってしまった過去は先に述べました。
↓『ライダーの在るべき姿~中編』
https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2021/06/16/145808
あれにより私は一時期、オフロードはおろかバイクそのものから離れそうにすらなったのです。
そこからゆっくりと時間を掛け、バイクの楽しさを思い出し、そしてオフロードをまた楽しみたいと思えるようになりました。
そうして再び、冒頭で述べた仲間が欲しくなったのです。
でも神奈川県内にはあまり林道がありません。
ない事もないのですが、その殆どが強固なゲートで閉ざされています。
ふと、お隣静岡ならばどうだろう?
と考えたのです。
そこで私は、静岡でのんびりと林道ツーリングを楽しんでおられる方々と仲良くさせていただきました。
私は『こじか』と名乗ります。
別にいつもの『ちう』でも良かったのですが、ちょっとだけ気分を変えたくなったのです。
オフロードを走る際、恐怖心から手足が震えてしまうので、産まれたての子鹿になぞらえその名前にしました。
今のこの恐怖心から目を逸らさないでいようという、自戒の意味もあります。
静岡林道ツーリングの皆様とは、入会してから長いことLINEのやり取りが続きました。
私が怖がりであること、それでもオフロードに興味がある事、アタックやタイムトライアルまでやるつもりはない事、愛車セローを大事に末永く乗っていきたい事など、全て伝えていきます。
まるで牽制しているみたいで、今思えばすごく失礼な態度だったのですが、有難い事に私のその姿勢を尊重してくださいました。
そんな経緯を経て、運営のKさんが企画してくれた『箱根林道ツーリング』への参加を表明します。
箱根のその林道は私も名前だけなら知っていましたが、行ったことは一度もありませんでした。
是非とも行ってみたいと思ったのです。
『でも、もし参加してみて私のレベルでは難しいと判断したなら、すみませんが途中離脱しますね』
警戒しまくりの私のセリフにも、
『そんな身構えなくても大丈夫ですって。気楽に行きましょ』
とKさんが返してくれました。
9月最後の、土曜日の朝──。
セローに跨り集合場所へと趣きます。
峠を上がって行くと徐々に霧が濃くなり、頬を撫でる風も冷たくなって来ました。
あぁ箱根らしい空気だなぁ、と感じます。
待ち合わせ場所に到着すると、数台のオフ車が並んでいました。
セローをそこに横付けして降車し、
「おはようございます! 今日はよろしくお願いします」
と挨拶します。
「おぉ~、おはよう」
Kさんでした。長身の朗らかそうな男性です。
あ、初めましても言った方が良かったかな? などと思いながらその場に集まる方々の顔を見回します。
──あれ?
目に止まったのは一人の女性でした。
参加者の中に実は女性がいたのかな? だとしたらどなたがそうだったんだろう?
私の考えを察したのか、
「あ、ウチの総監督です」
Kさんが女性を紹介してくれます。
「LINEのやり取りには入ってなかったけど、イベントの時には来てくれるので」
「あ、そうなんですね! どうぞよろしくお願いします」
女性が笑顔で挨拶を返してくれました。
参加者の中に、それも運営側に女性がいたことに、私はとてもホッとしました。
林道ツーリングによってはトイレ休憩が考慮されていないものもあり、女性参加者がその事で苦労する話もよく耳にします。
気心知れた仲間同士ならばいざ知らず、初対面からそれはやはり抵抗がありました。
「俺もセローですよ。こじかさんのと似た装備じゃないですか?」
隣の男性が話し掛けてくれました。セロンさんです。
見ると、セロンさんのセローはヨシさんと同じファイナルエディションの赤。ハンドガードのメーカーも私と一緒で、しかも同じツーリングセローでした。
「ホントだ~。同じですね」
更に嬉しくなりました。
こういうオフロードの方々とご一緒すると、リアキャリアが重いのでは?と言われる事がよくあるのです。
同じキャリア付きセロー乗りの方がいてくれたことで、少しだけ心強くなりました。
「ヒロくんは?」
「もう一つの集合場所に向かってるんじゃない?」
「あ、そっか。じゃあもう時間だし、そろそろ行こうか」
Kさんの掛け声により、皆さんが出発の準備をし始めます。私もヘルメットとグローブを装着しました。
あ、Uターンしなきゃセローが出せない。
そう思い、セローの取り回しをします。
跨った状態ではつま先しか付かない私は、バックが出来ないのです。方向を変えたい時には降りて引くしかありません。
その時、Kさんは鮮やかにフロントアップで段差を越え、総監督は華麗なターンで方向を変えました。同じように他の皆さんも、巧みな操作で走り出してしまったのです。
えっ、あ、ちょっ…。
方向を変えると、急いでセローに跨りエンジンを掛け発進させました。
滑らかに走るオフ車達に追走しながら、
どうしよう、実はすごくハイレベルな方々なんじゃ…?
不安に駆られました。
『ま、気楽に行きましょ』
Kさんの言葉を思い出します。
大丈夫、私は参加するなとは言われていないのですから。無理せず自分のできる範囲の走りをして、そしてとにかく今日の走りを楽しもう。
そう思い、あえてそこで深呼吸をします。
そして、まだ見ぬ箱根の林道を思い浮かべ胸を高鳴らせたのでした。