アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

頭上飛ぶ愛車〜奥多摩林道 ②

林道の戻りでは転倒せずに走れました。

 

一旦公道に出て、公衆トイレの手前にバイクを停めてトイレ休憩です。

「戻りでは転ばずに済みましたね」

THさんから言われ、

「はい、戻りは下りだったのでエンストしなかったからかもしれません」

「あぁ、なるほど」

 

今日行く予定の林道は、まだ3本あります。

「次の林道とその次の林道は、繋がっているんですよ」

THさんがこの後行く林道の説明をしてくれます。

「へぇ〜、そうなんですか」

「最初の10メートル程は登りがキツいかもしれませんが、それを過ぎたら次の林道の始まりです。そこからはフラットなので」

フラット。

私はそれを頭から信じることは出来ませんでした。アタックやトライアル走行もしているというTHさんです。

今日一緒に走ってみて確信しましたが、彼にとっての『初心者レベル』よりも、遥か下のレベルに私は位置しているのでしょう。

それでも、私と一緒に走ろうとして下さっています。

なんとかそこに応えたいと思いました。

 

 

充分に休憩を取って出発です。

 

山道を進み、砂利道に入るや急勾配を登って行きます。

大きな石にタイヤを取られかけましたが、アクセルを開くと確かに体勢が立て直せます。

なるほど。

迷ったらアクセルを開け、とはこういう事かと思いました。

 

 

THさんの言っていた通り、程なくしてフラットな林道になります。少しだけホッとしました。

砂利道を登りながら、木々の間から街が見下ろせます。

 

拓けた場所に出ました。

THさんがバイクを停めたので、私も隣に横付けして降車します。

「ここでお昼休憩にしましょう」

「はーい」

 

そこは登山道の休憩ポイントのようでした。

 

 

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団体で来たらしき登山者の方々が一斉にこちらを見ていたので、

「こんにちは。どうもすみません、うるさくして」

THさんがお辞儀しながら挨拶すると、

「いえいえ、とんでもない」

と登山者の一人が笑って応えてくれました。

 

登山者さん達の邪魔にならない隅っこに座り込み、持って来たバーナーでラーメンを煮ます。

 

 

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食べながらTHさんから、ヒマラヤやヨーロッパの山々を登頂した時の話を聞きます。

 

面白いなぁと思いました。

 

バイク乗りには色んな年齢、職業、経歴の人達がいます。

本来は接点のなかったはずの人達。

同じバイク乗りというだけで、こうして縁を持ち一緒に走る事が出来ているのです。

そのことに、改めて感謝します。

 

 

「これは排気量どのくらいなの?」

団体の登山者さん達が、興味津々で話しかけてきました。

「250です」

私が答えると一人の女性が「へぇ〜」とこぼし、

「女性で山の中をバイクで走るの怖くない? 倒れちゃったら自分で起こせなくない?」

と、まさにタイムリーな質問をされます。

「えっと、起こせませんでしたが…」

「だから、仲間と一緒に走るんですよ」

私のセリフに被せて、THさんが言ってくれました。

 

仲間と走り、仲間同士で助け合う。

 

だから当然のことをしたまでなんだと言われたような気がして、少しだけ気持ちが楽になりました。

 

 

団体の登山者さん達が一人一人、私達に声をかけながら出発していきます。

「では、お気を付けて」

「はい、ありがとうございます。行ってらっしゃい」

私達も一人一人に声を掛けて見送りました。

 

 

「さて、行きますか」

バイクに跨り、私達も出発します。

下り道だったので、エンジンブレーキとフロントブレーキを駆使して走りました。

 

 

最後の林道に入ります。

かなりの傾斜と凹凸が見られました。

あまり人が通っていないのか、苔むして大きな枝なども落ちています。

それらを避けながら進んで行きました。

 

 

「転ばなかったじゃないですか」

THさんが感心したように言います。

最後の林道の、終着地点に到達したのです。

「ホントですね! 良かったです」

「僕も後ろから見てましたが、ちゃんとアクセル開けれてましたよ。上達はやいですね」

AOさんからも褒められました。

 

「実は、道のレベルはどんどん上がってきてたんです」

THさんが言います。

「えっ、 そうなんですか? 一本目が一番難易度高かったように思えましたが」

「いえ、あれが一番簡単でしたね」

担がれているのかと思いましたが、隣でAOさんもウンウン頷いていたので、どうやら本当の事らしいと確信出来ました。

 

 

という事は。

私は一番易しい林道の、前半だけを転倒し続け、その後の林道では一切転ばなかったということになります。

 

──つまり私は、オフロードでの走り方を習得してきているということ?

 

内心嬉しくなります。

 

「どうです? 今日行く予定だった林道は全て走り終えましたが、もう一本挑戦してみますか?」

 

このTHさんの問い掛けに「辞めておきます」と答えたならば、このお話は180°違うものになっていたのでしょう。

気持ちよく今日の林道ツーリングを終え、自信たっぷり帰路につくことが出来たのかもしれません。

 

ですがこの時の私は褒められたことに浮かれていました。

それに、習得しつつあるオフロードでの走りをもっと定着させたいとも思ったのです。

「はい、行きたいです!」

 

 

見上げたその道は、今までとは比べ物にならないくらいの急勾配でした。

しかも、砂利というよりは瓦礫のような大きな石が散らばっています。

 

えっ、ここを行く? 走れるの私に?

 

内心不安になりましたが、「行きたい」と答えてしまった手前、今更後には引けません。

THさんが走り出したのを見て、自分を鼓舞するように私も走り出します。

 

怖い。

勾配はキツく、道は細く、大きな石にタイヤを取られてしょっちゅう滑っています。

 

最初のカーブで登りきれず、エンストしてしまいました。

今までの林道でのカーブとは比較にならないくらいの急カーブです。

脚を着いたので転倒せずに済みましたが、エンジンをかけ直して発進するも、石にタイヤを取られて中々進みません。そして、またもエンストです。

アクセルを開きすぎたら、カーブを曲がり切れなさそうだったのです。

「もっとアクセル開いた方がいいです」

後ろのAOさんが言ってくれたことで、ようやく思い切ってアクセルを開いてそのカーブを突破しました。

少しだけ直進し、また次のカーブです。

 

 

その時。

 

大きな石と陥没とにバランスを崩します。体勢を立て直そうと咄嗟にアクセルを開きました。

それは今日のオフロード走行で習得したことではあったのですが、それをやるには場所が悪すぎました。

 

ピストンカーブの直前でアクセルを開かれたセローは、当然カーブを曲がり切れず、切り立った崖の上を垂直に登っていってしまったのでした。

 

最初に私が振り落とされ、惰性で崖をかけ登ったセローが私の頭上に飛んで来ます。

 

 

あ、死んだ。

 

 

為す術なくそう思った私は、ただ呆然とその様を見入っていたのでした。

それはスローモーションのように感じられる出来事でした。