インターを降りて待ち合わせ場所に到着すると、駐輪されている一台のオフロードバイクが目に止まりました。
あ、もしやあの人かな?
そう思いつつも、もし声を掛けて違ったら恥ずかしいので、少し離れた所に駐輪します。
降車してヘルメットを外していると、真隣に赤いセローが滑り込んで来ました。
「おはよー」
シールドを上げてそう声を掛けてきたのはヨシさんです。
「あ、ヨシさんおはよう」
「ねぇ、あちらのオフ車ってさ…」
ヨシさんが先程のオフロードバイクを見遣りながら切り出します。私と同じように感じていたようです。
「うん、私もそうなんじゃないかと思った」
でも声を掛けて違ったら恥ずかしいと思って、と加えると、
「じゃあ俺が声掛けてくるよ」
と歩き去って行きました。
程なくして、ヨシさんが先程のオフライダーさんを連れて戻ってきました。
「やっぱりそうだったよ」
「どうも、本日はよろしくお願いします」
バイクを押しながらやって来たのは、本日の参加者の一人、『ともさん』です。温和な笑顔を浮かべて頭を下げました。
「はい、今日はよろしくお願いします。ちうと申します」
ともさんは、ヨシさんとも挨拶を交わしています。
「お二人とも、オフロード歴は長いんですか?」
ともさんが、私とヨシさんとを交互に見ながら質問します。
「いえ全然…」
私が答えかけると、
「いえいえ。林道ツーリングは、今日でまだ3回目なんですよ」
とヨシさんが答えました。
え、と少し驚きますが、よく考えてみると確かに、ヨシさんの林道ツーリングはまだ3回目です。
猿ヶ島練習会や、オンロードツーリングで思いがけずダートを走ってしまったことは多々ありますが、きちんと林道ツーリングを目的に出たのはまだ少ないのです。
「あ、なら私と同じです」
ともさんがそう言いました。
「私もまだ3回くらいしか林道を走ってないので」
お二人が和やかに話し始めます。
バイク歴はともかく、オフロード歴は二人とも同じくらいのようです。
ん?
そこで気付きたくない事実に思い当たります。
あれ?
じゃあ、この3人の中では一応、私が一番オフ歴長いの…?
まだまだ『初心者面』をしていたい私は愕然としますが、お二人のトークは和やかに続きます。
「ヨシさんのバイクはピカピカですよねぇ。ナンバーも綺麗です」
ともさんのセリフを受けたヨシさんが、
「はい、ともさんのナンバーも。でもオフ車乗りとして綺麗なナンバーはまだまだらしいですよ。見て下さいよ、ちうさんのこのナンバーを!」
ヨシさんが私のセローを指さします。
「あ、ホントだ。ナンバーがひしゃげてますね」
「いや…これは私が下手だから転倒しただけで」
「いやぁ、ちうさんは攻めるからなぁ」
「え、そうなんですか? 」
「いやいやいや、違います! 違いますから」
誤解を解くべく必死に頭を回転させ始めたところ、
「あ、あきにゃんさんが来ましたよ」
ともさんのセリフにより、ふっと我に返りました。
手を振りながらあきにゃんさんが、CRFを私達のそばに駐輪させます。
「おはようございます」
「おはようございまーす」
ヘルメットを脱いだあきにゃんさんに、口々に挨拶を交わしました。
「ところで…」
私が恐る恐る口にしました。
「あきにゃんさん、もう大丈夫なんですか?」
「はい多分」
…いや多分って。
「あ、そうですよ肩!」
ヨシさんも思い出したように言いました。
「もうバイクに乗って大丈夫なんですか?」
ともさんからも質問が出ます。
「まぁ、バイク自体は乗っていたので。それより」
下ろしたリュックを指さしながら苦笑します。
「リュックがキツいですねぇ。肩に食い込みます」
「あぁっ! そりゃそうですよ」
あきにゃんさんは林道ツーリング時の転倒により肩を傷めてしまい、数ヶ月間バイクをお休みしていたのです。
数日前に『復活』という文字と共に、林道ツーリングしている様子はツイートされていたのですが、詳しい容態までは分かりませんでした。
そのため、今回林道ツーリングにお誘いいただいた時は本当に嬉しく感じました。
「まぁ、無理せず休み休み行きますよ」
「そうですね、それがいいです」
あきにゃんさんのセリフに応えながらも私は、果たしてあきにゃんさんに『休み休み』などというツーリングが出来るのだろうかと、内心疑問を抱きました。
あきにゃんさんとヨシさん、私の3人でインカムをペアリングします。
「なんか…すみません」
ペアリングに手間取ったので、ともさんに向けぺこりと頭を下げます。ともさんはインカムを持っていなかったのです。
「いえいえ、いいんですよ」
ともさんの朗らかな笑顔が有難かったです。
「では、出発しまーす」
「はーい」
マスツーリングの始まりはいつもワクワクします。
今日はどんなイベントが待っているんだろう? どんな景色に出逢えるんだろう?
しかも今日の目的地は『御荷鉾山』です。
走り慣れた林道に、心も軽やかでした。
でもこの時の私には想像もつきませんでした。
行き慣れた場所であっても、決していつもと同じ顔ではないのがオフロードというもの。
この日、私達には思いもよらぬ刺激的なツーリングが、そう、大冒険が待っていたでした。