国道254号線を走り進めます。
陽が高くなって来る時間帯ですが、空はどんより曇っており気温もさほど上がりません。
「今日は天気大丈夫ですかね~?」
暗い空を見上げながら私が言うと、
「一応、降らない予報ではありましたが」
あきにゃんさんが応えました。
確かに、予報では降水確率10%以下でした。
「確かに。でもこの3人ですし、どうなるんでしょう」
私が言うと、ヨシさんとあきにゃんさんから笑い声が起こります。
去年の夏、軽井沢へのツーリングで土砂降りに見舞われたのです。
↓『清涼の地~軽井沢ツーリング』
https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/09/19/074657
「あきにゃんさんと一緒だから、今日はカッパ持って来ましたよ」
ヨシさんのセリフに、
「あ、私も~。突然の大雨にも対処出来るよう、ちゃんと上下で持って来ました」
私もかぶせます。
「あはは…」
あきにゃんさんは静かに笑うばかりでした。
ですが。
この日は大雨にこそ見舞われませんでしたが、それに匹敵するほどの悪条件となったのです。
「あ、霧が」
「ホントだ~」
秩父牧場に着く頃には、辺りが白い靄に包まれ始めました。
山を上がってきたので気温も低くなっています。
「景色が全然見えませんね~」
降車してヘルメットを脱いだともさんも、そう言いながら丘を見下ろしました。
今日の御荷鉾山は霧が濃いかも…。
その時私がそう考えたように、御荷鉾山に近付くほどに霧が深くなっていきます。
「視界が悪いなぁ」
「ホントにね…うわっ、急に穴が」
御荷鉾山の峠道を上がっていきます。
舗装路ですが、あちこちに大きな陥没やひび割れ、落石があり、避けて通らないと転倒の危険性もあるのです。
視界の良好な時ならば何の問題もないのですが、今日は霧のせいで反応が遅れがちです。
ところが。
「まぁしばらくは、こんな単調な道が続きます」
あきにゃんさんのセリフに、
「いやいやいや! これのどこが単調ですか」
「こんな視界の悪い峠道を単調だなんて到底思えないですよ、私は」
私とヨシさんから総ツッコミが入ります。
「あきにゃんさんは、やっぱりやんちゃ系ですよね」
「え、そうですかね?」
高速道路でもない限り、道が単調だと感じた事も無い私はあきにゃんさんの発想に驚かされます。
でも確かにここは、同じような道幅とカーブが続くのです。
対向車も後続車も滅多に来ません。私にとっては走りやすい峠道ですが、慣れた人にとっては単調だと感じるのかもしれません。
「ねぇ…。なんかさ」
走り進めながら、私が切り出します。
「私のシールドが白く曇って来てるんだけど…」
「え、そうなの?」
ヨシさんが聞いてきます。
「うん。おかしいなぁ、撥水剤も曇止めも塗布して来てるのに」
ヘルメットシールドの表側に撥水剤、内側に曇止めを塗って来ていました。
「霧雨が降ってるからでしょうね」
あきにゃんさんが言うとヨシさんも、
「うん。水滴が細かすぎて、撥水されてかないのかも。あ、俺のも曇ってきた」
と言いました。
「なんか…。ちうさんと御荷鉾に来るといっつも霧が濃い気がするんですが」
あきにゃんさんから言われてしまいます。
「えぇっ!? 私?」
確かに、以前あきにゃんさんと来た時にも先が見えない程の霧に見舞われたのです。
「あ、でもでも。前回二人で来た時には晴れてたじゃないですか」
「あ~、でしたっけ。でもその前来た時が酷い霧だったので」
「でしたね~。あの時はあきにゃんさんがハザード焚いて走ってくれたのでなんとかなったんでした」
そんな会話をしている最中も、どんどんシールドが白くなっていきます。
やむを得ずシールドを全開にしました。
いよいよダートに入ろうという場所で、バイクを停めて私とヨシさんがタイヤのエアを抜きます。
「いや~、寒いですねぇ」
降車したともさんがそう言って両肩をさすります。
「ですねぇ。やっぱり山の上は気温下がりましたよね」
「でもこれからオフロードなので、暑くなるかもしれないですね」
ヨシさんがそう言い、
「よし! 今日こそ、ちうさんに置いてかれないよう頑張らなきゃ」
と続けました。
「え、ちうさんてお速いんですか?」
ともさんが目を丸くして聞いてきます。
「いやいやいやっ、ぜんっぜん遅いですよ。いつもマイペースでゆっくり走ってるので」
慌てて答えた後、
「もう! ホントに辞めてよね、そういう事言うの!!」
ヨシさんに声を荒らげました。
「私がどれだけ怖がりながら走ってるか知ってるでしょ」
「あぁ、ごめんごめん」
笑いながら謝られました。
ヨシさんにとっては軽い冗談のつもりなのでしょうし、実際そこまで目くじら立てる程のことでもないのかもしれません。
でも、特にオフロードにおいては、一緒に走る人のレベルに誤った認識を持ってしまうと危険なのです。
安全に走りきる為にも、ノリや脚色なく自分の力量は仲間に正確に明かすべきべきだと思いました。
「では、準備はいいですか?」
あきにゃんさんが、引率の先生よろしく問い掛けて来たので、
「はーい」
「オッケーでーす」
私とヨシさんはインカムを通して返事をします。
最後尾のともさんも準備が完了したのを確認し、バイクを走らせました。
相変わらずの走りやすいダート。
ですが今日は深い霧が立ち込めています。雨上がりの為路面も悪く、水溜まりもあちこちにありました。
「曇ってるせいで先が見えない」
ヨシさんのセリフに、
「うん、霧で見えにくいよね。私も前を走るあきにゃんさんのテールランプがないと…。あれ? あきにゃんさん?」
「どうした、ちうさん?」
「あきにゃんさんのテールランプがない! ヤバい、ちぎられた!」
途端にパニックに。
私達の会話を聞いていたらしきあきにゃんさんが、前方で速度を落とし待っててくれました。
その後ろ姿がどことなく、苦笑しているような気がします。
「あ、待っててくれてありがとうございまーす」
いつものダートも、ほんの少し気候が変わると全く別の顔を見せてきます。
決して驕らず油断せず、だけど恐怖に捉われすぎず。
慎重に入念に、そして楽しく。
私達のツーリングはまだまだ続きます。