霧の中──。
過去何度か走った、御荷鉾林道のダートを走り切ります。
霧のせいで視界も悪く、前日の雨で多少ぬかるんではいましたが、タイヤが取られることもなく落ち着いて走り抜ける事が出来ました。
舗装路に出ると坂を上り、御荷鉾山展望台へと向かいます。
「分かってはいたけれど、景色が全然見えないね…」
晴れていたなら絶景が見えるはずの展望台も、霧のせいで全くそれが望めません。
「まぁこの霧だし仕方ない」
荷物を解いてお昼ご飯です。
「ヨシさんの分、先にお湯沸かしていいよ~」
私のバーナーを差し出しながら言いました。
「あ、ありがとう。これどう使うんだっけ?」
組み立て方を伝えるとヨシさんはお湯を沸かし、自身のカップラーメンに注ぎました。
その向かいであきにゃんさんはカレーうどんを作り、ともさんはお握りを頬張っています。
考えてみれば不思議です。
オンロードツーリングでは美味しいお店を巡るのに、林道ツーリングでは大抵皆、インスタントラーメンやお握り等、簡素な食事のみで済ませます。
これで満足感が得られるのですから、とても経済的かつシンプルなツーリングなのかもしれません。
ヨシさんのお湯が沸いた後、私の分も沸かして注ぎます。
「午後からは、もう一つのダートに行ってみようと思います」
あきにゃんさんが言いました。
「あ、今まで行ってなかった方のやつですか?」
「はい」
先程走ってきたダートはとてもフラットなので過去何度も走って来たのですが、もう一つのダートは天候により道が荒れてしまい、『ちうさんにはまだ無理』と言われ、走った事がなかったのです。
「え、でも私大丈夫なんでしょうか…」
不安に思いそう訊ねます。
『無理』と言われた時代から、自分が上達したとは到底思えないのです。
「多分大丈夫です。あそこの道、最近ようやく整備されたらしいんで」
「あ、そうなんですか?」
「はい、だから行ってみようかと」
いつもツーリング先で食べるカップラーメンはとても美味しく感じるのですが、珍しく途中から喉を通らない感覚でした。
あれ?
と思いましたが、なるほど私は緊張しているんだなぁと納得します。
初めて走るダートへ今から入るというだけで、未だこんなに緊張してしまうのです。
いつになったらこの感覚に慣れるのかなぁ、とちょっと不安になりました。
「すみませんっ、 無理です! 引き返してもいいですか!?」
叫ぶように私が聞きます。
もう一つのダートに入り、陥没と轍とゴロゴロの石とに進み続けるのが怖くなったのです。
事前に言われていた、『無理そうだったら引き返しましょう』とのあきにゃんさんの言葉に、縋り付く思いでした。
「あ、無理ですか? じゃあ分かりました」
でもここだとUターンが難しいから、もう少し進んだ先で引き返しましょうとあきにゃんさんが言ってくれます。
正直、もう少し進むのも引き返してここをまた走るのも怖かったのですが、そのくらいは頑張らないとと走り進めます。
「あれ? でもこの辺りはフラットですね」
少し進んだ先で、あきにゃんさんがそう言います。
確かに、土砂や石が端に積み上げられており、フラットになっていました。
「あ、ホントだ。荒れていたのはあのエリアだけだったんですかね?」
そうなのだとしたらこのまま進もうという事になります。
その後は私でも走れるくらい、平坦なダートでした。
「あぁ~良かった。このくらいなら楽しめます」
私が言うと、あきにゃんさんとヨシさんから笑い声が起こります。
前方を走るあきにゃんさんのバイクが滑りました。
「おわっ! 滑りました」
「大丈夫ですか~?」
余裕ぶって質問した私も、同じ箇所で横滑りします。つるんとした感覚にヒヤッとしました。
幸い私もあきにゃんさんも転倒せずに済みました。
「お二人とも大丈夫ですか? 落ち葉が濡れてるんで…おわーっ!!」
後方を走るヨシさんからも悲鳴が上がります。
「だ、大丈夫?」
「うん、滑った」
どうやら皆で仲良く滑ったようです。
「後ろのともさんは平気かな?」
私が聞くと、
「転倒はしてないようだよ。でも、案外『前の三人滑ってるなぁ』って思ってたりして」
ヨシさんの言葉に笑ってしまいました。
ダートを抜けるとホッとひと息吐きます。
私にとっては結構な難易度でしたが、これでもまだまだ『初級レベル』なのでしょう。
舗装路の長い峠道を抜けると、ようやく里に下りてきました。
道の駅で停車し降車すると、
「いやぁ~大冒険でしたね!」
「ホントに!」
と笑い合います。
そうして4台のバイクが泥だらけになっているのを確認し、また4人で笑い合いました。
「じゃあお気を付けて!」
「はい、今日はホントにありがとうございました」
私だけ高速を使って帰らないと無理な距離だったので、あきにゃんさんとともさんに手を振って別れました。
ヨシさんは近くのコイン洗車場まで付き合ってくれます。
高速に乗るのに、こんな泥だらけのバイクでは恥ずかしいと私が言ったからです。
「楽しかったね~」
ヨシさんの言葉に大きく同意します。
「何より、あのダートをちゃんと走りきった事でまた少しだけ自信が持てた」
「そっか、それは良かった」
「いい? 行っくよ~!」
「はーい」
放射される高圧洗浄の水流を受け、セローにこびりついていた泥汚れがたちまち流れ落ちていきます。
それを見て、あぁ泥まみれで遊んだんだなぁとほんわかしました。
グルメもファッションもそっちのけで遊び回るツーリング。
それはオフ車ならではの楽しみ方なのかもしれません。