アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

新たなる出逢いと共に~御荷鉾山林道ツーリング

「セローを買おうと思う」

 

ヨシさんから打ち明けられたのは、5月GW明けの平日のことでした。

驚くのも束の間、そのわずか3日後にヨシさんはファイナルエディション購入契約を結び、その約2週間後、28日には納車の運びとなりました。

とんとん拍子に進んでいく話に幾分たじろぎつつも私は、ヨシさんに新たなる相棒が加わることを嬉しく感じます。

納車当日、私のセローで店舗へと向かいヨシさんの納車に付き合いました。

ヨシさんが納車手続きをしている最中、携帯電話を確認すると、一件のメッセージが届いています。

 

 

『おはようございます。31日月曜日はお休みですか? 珍しく平日休みとなったので良ければ一緒にみかぼに行きませんか?』

 

あきにゃんさんからでした。

みかぼ、とは。

群馬県御荷鉾山のことです。そしてオフ車乗りにとってそこは、『御荷鉾山スーパー林道』を指します。

 

林道…。

一瞬、臆する心が芽生えましたが、すぐに『行こう』と思えました。

その日はちょうど仕事が休みだからというのもありますが、そろそろオフロードに対する恐怖心を克服したいという思いがあったからです。

 

それに、御荷鉾山はあきにゃんさんから連れられ過去2回走った事があります。

見知らぬ道よりも、以前の自分が無転倒で走った道の方がリラックス出来るような気がしたのです。

『休みです! 是非ご一緒させて下さい』

返信すると、

『了解です。では詳しい日程は後ほど』

あきにゃんさんからすぐにメッセージが届きました。

 

 

「月曜日、あきにゃんさんと御荷鉾山に行くことになった」

納車後、ランチの席で私がそう告げると、

「へぇ~いいねぇ。楽しんでおいで~」

とヨシさんが応えてくれました。

「でも、ダートに緊張しちゃうんだよね」

怪我から復帰して以来、フラットダートすら怖くて未だ走れずにいました。

「自分のペースで走れば大丈夫だよ。あきにゃんさんなら無理はさせないだろうし」

「うん…」

確かに、今まであきにゃんさんとご一緒させていただいて無理だと感じたことは一度もありませんでした。その心強さもあります。

 

「あ、そう言えば。セローファイナルエディションはどうよ? 私のセローと、やっぱり運転の感覚は違う?」

私が聞くと、「う~ん」とちょっと考え、

「そんな違わないかなぁ」

と応えました。

私のセローは2018年式、対して今回ヨシさんが買ったのは2020年の最新式であり、セロー最後のモデルなのです。

「ただ、まだ新車だからサスペンションが硬いのと、ブレーキの利きが悪い。でもまぁ、それくらいかなぁ」

 

私も新車で納車したばかりの時、ブレーキが中々利かなくて焦ったのを覚えています。その頃のことを思い出して懐かしくなりました。

ですが、まさかたったこれだけのバイク歴で、私が人の納車に付き添うことになろうとは、思いもよりませんでした。

「そっか。これからヨシさんのセローには、ヨシさんだけの軌跡が刻まれていくんだねぇ」

感慨深くなります。

「うん。でもまずは慣らしを終えなきゃね」

一般的に、新車の慣らしは1000kmくらいと言われています。2、3日でそれをやってしまう強者もいますが、ヨシさんはそれをゆっくりやっていくつもりのようでした。

「うん、楽しんでね」

 

心から、楽しんで欲しいと思いました。

 

アメリカン乗りが、セカンドバイクにオフ車を選ぶのは珍しいことではないのだと聞きます。

ですが、長いバイク歴で今までアメリカンバイク以外見向きもしなかったヨシさんが別の車種に惹かれたのも、何らかの転機なのかもしれません。

それは私ではなくヨシさん自身のストーリーなので、ここでは書きようもないのですが。

バイクの数ほどライダーの物語があるのだと思いました。

 

私も、きちんと自分のバイクと向き合いたいと決意を新たにします。

 

 

 

31日の朝──。

集合場所に到着すると、やがてあきにゃんさんを乗せたCRFが滑り込んで来ました。

「おはようございます」

「おはようございます。すみません、ギリギリでした」

ヘルメットを脱ぎながらあきにゃんさんが申し訳なさそうに言います。

「いえ、遅れてないですよっ。時間きっかりなだけですから」

相変わらず、時間にきっちりとした方でした。

 

 

「あっ! 新車にしたんですよね? こっちのCRFもカッコイイですね~」

覗き込んでそう言います。あきにゃんさんはCRFを新型に買い換えたばかりでした。

「ありがとうございます」

と応えた後、

「2速3速のパワーが違うんですよね」

と嬉しそうでした。

ここにも新たなバイクとの出逢いがある、と嬉しくなりました。

 

「では、まずは給油に向かいますか」

「はーい」

インカムを繋ぎ、エンジンを始動させて出発します。

 

 

 

新たなる出逢い、それぞれのストーリー。

私にとって、セローとの出逢いは大いなる希望でした。私の、唯一無二の愛車です。

そしてきっとツーリングの数だけセローとの絆を深めることが出来る。

今日のツーリングもそうであって欲しい──。

 

 

そう願い、あきにゃんのCRFを追って走り出したのでした。