10月後半の日曜日。
寒い寒いと言いながら集合場所に到着した私とヨシさんは、
「さすがにまだ誰も来てないね~」
と言いながらバイクを停めました。
集合時間の40分も前に着いたのです。
「俺ちょっと、トイレに行ってくるわ」
「あ、うん」
ヨシさんがトイレへと歩き去りほどなくすると、2台のオフロードバイクが隣に入って来ます。
「おはようございまーす」
ヘルメットを脱いだお二人に挨拶すると、
「お~、おはよう」
「おはようございます」
と返してくれました。
静岡林道ツーリングのKさんと総監督です。
↓ 『生まれいづるおののき~箱根林道ツーリング』
https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2021/10/03/195612
今日は寒いですねぇと世間話をしていると、ヨシさんがトイレから戻って来ました。
「初めまして、ヨシと申します」
今日はよろしくお願いしますとぺこりと頭を下げます。
Kさんと総監督も、「こちらこそよろしくお願いします」と返し、軽く自己紹介し合いました。
前回の箱根林道ツーリングに参加した際Kさんから、
「こじかさんは普段誰と走ってるの?」
と質問され、私は当然のようにヨシさんの名前を上げたのです。
「じゃあ今度良かったら、そのお友達も誘っておいで」
と言って下さいました。
ヨシさんにはちょっと遠いしどうかなぁと思いながら伝えてみたところ、それは是非とも参加してみたいと返ってきたのです。
ヨシさんはセローを買ってまだ3ヶ月。
新しく得たオフロードバイクに気持ちが昂っているというのに、林道の情報は中々得られず、私では案内出来る所もない為、そうしたお誘いは私にとってもとても有難く感じました。
バイクのエンジン音と共に、更に2台のオフロードバイクがやって来ました。
セロンさんとトシさんです。
ヨシさんがお二人にも挨拶をしに行きました。
「お~、俺とバイク一緒ですね」
「あ、ホントですね~」
セロンさんの言葉にヨシさんが応えます。
そう、セロンさんとヨシさんは二人ともセローのファイナルエディション。カラーも同じ赤で、しかも2台ともツーリングセローでした。
しかも。
「あれ? ウェアも一緒じゃない?」
「あ! ほんとですね」
なんと、お二人のウェアも全く一緒だったのです。
「マジですか~。こんな事ってあるんですね~」
笑いながらセロンさんとヨシさんを見比べる私。
「どうも、初めまして」
もう一人の男性、トシさんが声を掛けて下さいます。
「あ、初めまして~。トシさんですね?」
トシさんとは初対面ですが、LINEではたくさん会話を交わしていました。
「はい。コジマさんですね?」
「こじかですっ!」
某お笑い芸人のネタをオマージュしたやり取りを、過去何度かLINEで重ねていたので、リアルでもすかさずツッコミを入れます。
ひとしきり笑い合いました。
「どうも~。今日はよろしくお願いします」
「あ、こうちゃんさん。今日はよろしくお願いします」
本日の参加者が全員揃ったのを確認し、出発です。
Kさんと総監督が走り出したので、私もその後に続き走り出しました。
ヨシさんとはインカムが繋がったままですが、他の皆さんとは前回同様、インカムを繋げませんでした。
「あっ。私この走り順で良かったのかな?」
もしこのまま林道に入った場合、私のペースが遅くて後ろが詰まっちゃうのではないかと思ったのです。
「ん~…大丈夫じゃない?」
「ヨシさんは今、どの位置で走ってるの?」
「ちうさんの、後ろの後ろ」
バックミラーで確認すると、私の後ろはトシさんでした。
「なるほど。じゃあ、後ろから見ててなんか気付いた事あったら教えて」
「了解~」
大きな通りを折れ、長閑な道へと入ります。
「おぉ~、すごい綺麗!」
「ホントだ」
すすきがとても綺麗でした。
向こうの山々も鮮やかに見渡せます。
「ていうかこの道、ちうさん一緒に走ったことあるよ」
「え、そうだっけ?」
ヨシさんのセリフに首を傾げます。
こんな絶景、目にしたら忘れるかなぁと疑問に思ったのです。
「そう。その時は雨が降ってたからこんな綺麗な景色じゃなかったけど」
「あぁ…なるほどね」
雨男のヨシさんとツーリングすると、雨に見舞われることがしょっちゅうなのです。
お陰で、雨対策万全でツーリングに出る習慣もつき多少の雨でもたじろぐ事がなくなりました。
ですが、景色ばかりはどうしようもありません。
交差点を折れ、未舗装路が始まります。
「え! こんな所から入れたんだ? 俺、ここ入るの初めてだよ」
この辺りへ何度かツーリングに来ているらしきヨシさんが、「こんな身近なところに」と興奮しています。
私はというと。
唐突に始まったオフロードに身体をこわばらせました。
「あ、でも。ホントにどフラットだね」
ホッとしながら肩の力を抜きます。
路面は砂利ではなく土でしたが、硬く踏み固められており、ぬかるんで滑る心配もなさそうでした。
「ここいいね~。林道初心者に最適だよ」
「うん、ここなら安心して走れる」
土の上でしたが、千里浜なぎさドライブウェイのような安心感がありました。
景色も綺麗です。
と。
Kさんが立ち乗り姿勢で両腕を広げます。
「えぇ!?」
「ど、どうしたちうさん?」
「Kさんが」
勿論、Kさんの両手はハンドルから離れています。その状態でも、バイクが倒れることなく進んでいるのです。
「す、凄い…」
ヨシさんもそれに気付いて感嘆します。
いくらフラットとは言え、凹凸もカーブもあります。
立ち乗り姿勢で両手放し運転をし、身体が投げ出されないのが私には不思議でした。
「きっと、すごい体幹なんだろうね」
「うん、やっぱり鍛えられてるんだろうなぁ」
木漏れ陽を受け両腕を広げて走るKさんはとても気持ち良さそうです。
それを眺めていると、私も徐々に開放的な気持ちになっていったのでした。