アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

冒険後の安らぎ~トンネルツーリング②

「この先にも、もうひとつトンネルがあるみたいだよ」

ヨシさんの言葉通り、進んでほどなくすると、もう一つのトンネルが姿を現しました。

 

「あ、ここからダートだ」

「ホントだ」

「しかも結構ヌメってるよ。滑るから気を付けてね」

「う、うん」

ヨシさんからの忠告を受け、少しだけ気を引き締めます。

そこは短めのトンネルですぐにくぐり抜けてしまえました。

 

 

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「ここも雰囲気あるね~。この路面状態も写真に撮っておきたいな~」

ローアングルで写真を撮ります。

「あの先は進めるのかな?」

ヨシさんが指さした先には、ダートが続いています。

「行ってみる?」

「うん」

 

 

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凸凹があり大きめの石もゴロゴロ、おまけにどこからともなく水が流れて来ます。

「無理無理、もぉ引き返す!」

「あはは。そうだねぇ、それがいい」

 

 

 

引き返した私達が月崎トンネルを通り過ぎる時、SSバイクがやって来ました。

あの人も写真を撮るのだろうと見ていたら案の定、トンネル内で停車しています。

 

こうやってこのトンネルは、多くのバイク乗り達に愛されて来たのでしょう。

徒歩で来るにはあまりに遠く、車で来るにはあまりに道が狭い。バイクだからこそ楽しみながら入って来れる。

ひっそりと佇む、そんなトンネルでした。

 

 

 

「さて、じゃあもう一つ行きたいトンネルがあるから。そこ目指そう」

「はーい」

私が前を走ります。

「あっ! ねぇねぇ、停まっていい?」

「ん? いいよ~」

でもどうしたの? 停止しながらヨシさんが聞きますが、見回してすぐに納得したようでした。

曼珠沙華の季節だねぇ」

そう、道端に曼珠沙華が咲き誇っていたのです。

 

セローをバックに、写真を撮ります。

 

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こういう季節の花々をじっくり堪能出来るのも、ツーリングの醍醐味でしょう。


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そうして県道32号線『大多喜君津線』を進み、国道465号線に入ります。

国道を折れると、急にダートになりました。

草こそ刈られていましたが、ヌメヌメとした苔がそこかしこで繁殖しており、ちょっと不気味な所です。

 

「あ、ダメだ…」

ヨシさんが呟いたように、トンネル手前にゲートが取り付けられていました。

通り抜けは勿論不可能ですし、写真を撮ろうにもゲートにピントが合ってしまいトンネルが上手く写りません。

「あら~、残念」

「ま、仕方ない。崩落とかの危険性があるのかもねぇ」

 

 

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ゲートに『猪注意』の看板があったのもあり、写真を撮るとすぐに引き返しました。

 

 

「さて、お昼ご飯にしますか」

「うん。あ、私行きたいお店があって」

携帯を操作しながら、私が切り出します。

「ここ」

行きたかったお店の画面を見せました。

「おぉ~いいねぇ。じゃ、そこに行ってみよう」

「うん!」

 

 

465号線を南下して行きます。

「あ、抜け道があるみたいだから入るね~」

ヨシさんのセリフに、

「はーい」

と返事しながら付いて行きます。

国道から細道へと入りました。

 

ところが。

そこは舗装路でしたが、信じられないくらいに荒れていました。

道の両側どころか、真ん中にも草がぼうぼう生えていて、カーブの度にその草が視界を遮るのです。

勾配もキツく、うっすら生えている苔が水分を含んでいるので酷く滑ります。

タイヤがきちんとグリップしていない感覚がありました。

「怖い~…怖いよぉ~」

半泣きでこぼしますが、自分のバイクを運転出来るのは自分しかいないのがツーリングというものです。

ヨシさんがしきりに「ごめんよ~」と謝りながらも、「あと数メートルで大きな道に出るから」と鼓舞し続けてくれました。

 

ようやく大きな通りに合流した時、

「はぁ~…」

と二人で安堵のため息を吐きました。

「今日いちの悪路だったわ」

私がこぼします。

「そこいらのダートより怖かった…」

ヨシさんから笑われてしまいました。

 

 

県道182号線『もみじロード』を伸びやかに走っていくと、多くのライダーさん達がヤエーしてくれました。笑顔で手を振り返します。

とても気持ちのいい道です。

『鏡ヶ浦通り』に出ると海が見えました。

ヨシさんが「目的のお店、もうすぐだよ~」と言った通り、程なくしてお店の看板が見えて来ました。

 

『とまや食堂』さんです。

 

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店の前の駐車スペースがいっぱいだったので、さてバイクはどこに駐輪したものかとキョロキョロしていたら、店名の入った看板を見付けました。

「あっ、ヨシさんここ! こっちにも停められるみたいだよ」

「あ、ホントだ。ちうさんお手柄」

 

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駐輪して店内へと向かいます。

 

お店の中はとても明るく広々としており、案内された席も海の見渡せる居心地のいい空間でした。

「ここ、『とまや磯定食』っていうのがオススメなんだって~」

「じゃあ俺、それにしよっかな~」

「私も~」

定食を二つ注文します。

 

やがて運ばれてきた『とまや磯定食』。

「わぁ~!」

 

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魚のあら煮と新鮮そうなお刺身が3種、サザエの壷焼きまで付いています。

女性店員さんが、お刺身の魚を丁寧にひと品ずつ説明して下さいました。

 

「いただきまーす」

お刺身がどれも新鮮でした。あら煮の味付けも絶妙です。サザエなんて身がぷりぷりしていました。

ヨシさんと二人、美味しい美味しいと繰り返しながら食べていると、

「あの~、お客様はバイクでお越しですか?」

女性店員さんから話しかけられました。

「え? あ、はい」

一瞬、お店の敷地外に駐輪してしまったのかと焦りました。バイクを移動して欲しいと言われるのかと覚悟します。

「やっぱりそうなんですね! うち、ライダーさんにはコーヒーをサービスしているんです。食後にお持ちするのでゆっくり過ごしてくださいね」

「え、そうなんですか。はい、ありがとうございます!」

 

お料理に舌鼓を打った後、先程の女性店員さんがアイスコーヒーを運んで来て下さいます。

「私と主人もバイクに乗ってるんですよ~」

テーブルにアイスコーヒーを置きながらそう言いました。女性店員さんはどうやらここの女将さんのようです。

「なるほど、そうだったんですね」

乗っている車種など軽く話し、「では、ごゆっくりどうぞ」と笑顔で立ち去って行きました。

 

 

食後のアイスコーヒーを味わいながら、ゆっくり海を眺めます。

「…すごく落ち着く」

ヨシさんの言葉に、

「うんうん。こうしてツーリング先でゆっくり休める時間は貴重だよね」

と返しました。

 

 

美味しい料理と広々とした明るい店内、あたたかいおもてなしと美しい眺め。

 

──またここに来たいなぁ。

 

お店を去る前から私は、既にそんな風に感じていたのでした。