キャンプを始めるにあたり、キャンプ場情報を調べるのは当然の流れでした。
様々なキャンプ場がある中で、ひときわ強く惹かれた所があります。
それが、長野県にある陣馬形山キャンプ場でした。
昼は南アルプス、夜は夜景が望める、絶景に次ぐ絶景のロケーションらしく、ここのキャンプ場を利用された方々は皆、口を揃えて絶賛されているのです。
是非、行ってみたい。
そう思いながらここの情報を調べていくと、新型コロナウィルスの影響により現在は閉鎖されているとのこと。テント泊のみならず、デイキャンプ、見学すらも禁止されているようでした。
「ん?」
ですが更に調べていくと、6月から見学だけならばOKとなっています。
見学、というのは、このキャンプ場に隣接されている展望台のことでしょう。
絶景が望めるという『南アルプス展望台』。
普段ならば、テント泊やデイキャンプの人達で賑わっているとの事ですが、今なら静かに堪能出来るのではないか──。
それこそが、今しか見れない景色、今しか味わえない経験なのでは?
そう思うと居ても立ってもいられず、6月最初の週末に、長野へとロングツーリングすることに決めたのです。
長野は初めてです。
目的地までの道路状況や自分の疲労具合も予測しにくいので、念の為宿泊することにします。
決行の3日前、バイク屋さんからETCを取り付けて貰っていました。
2泊させたセローを迎えに行ったところ、ついでにあちこちのメンテナンスと念入りな洗車をして下さっていました。
「すみません、ありがとうございます」
店主に頭を下げると、
「いえいえ。でもちゃんとケアされてますよね〜」
笑ってくださいました。
ツーリングから帰る度、疲れていても洗車は欠かさず行います。油に塗れながら、チェーン掃除もこまめにしているからでしょう。
「そうなんですかね…。なんか、中々慣れなくって」
実際、プロの方がやってくれたチェーン清掃は完璧で、チェーンが輝いているのが見えました。私ではこうはいきません。
「いえ、バイクが初めての女性がお一人でこれだけ出来ていれば充分です。林道も行かれてますよね?」
「はい」
「大事にされてるんですね」
私は心の底から嬉しくなりました。
「はい、大事なんです」
私の率直な言葉に、店主が思わず笑ってしまっていました。
そんなプロの方からメンテナンスしてもらったばかりのセローに跨り、土曜日の早朝から出発します。
滑らかな走りが、チェーン状態の良さを物語っていました。
その日は暑くなる予報だったので、上着の中は半袖のみ。寒くなった時用に、中に着込む長袖も用意してあります。
国道246号線を走り進めます。
ETCは取り付けましたが、下道で向かうことに決めていました。
初めての場所に行くのなら、のんびり景色を楽しみながらにしたかったからです。
いつもの事ながら、246号線は渋滞しており、ノロノロ運転でした。
早朝に出発したというのに、日差しの強さに辟易します。
今日通るルートはわりと強い拘りを持って決めていました。
県道147号線、『山中湖小山線』に入ります。
美しい峠道を登って行きます。
ここは、以前Sさんと一緒に走ったことがありました。まだ免許取得して納車から2週間後のことです。
そのツーリングで初めての立ちゴケを経験し、絶景に息を呑んだのでした↓
https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2019/12/08/181514
https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2019/12/10/121525
あの時はまさか、その数ヵ月後にソロで、しかも、ただの通り道としてここを走ることになろうとは。
予想だにしませんでした。
まだ早朝でしたが、さすがに名所なだけあり、バイクがちらほら走っています。
やがて見覚えのある景色が開け、ここだったと確信出来る場所に差し掛かります。
そこは富士山が美しく望める山中湖『パノラマ台』。…の、手前の道。
パノラマ台よりもそこの景色の方が素晴らしく、それを分かっているライダーさん達がバイクを停車させて無心に写真を撮っていました。
でも私はそこを通り過ぎ、パノラマ台をも通過します。
富士山が綺麗に望めました。
降りて撮影すれば、いい写真が撮れたのかもしれません。
ですが、道のりはまだまだ長いのです。見た景色はしかと目に焼き付け、セローを停めることなく走り進めます。
山中湖を眺めながら走り、国道137号線の河口湖のそばで給油と休憩を取ります。
ここで、ようやくの朝ご飯です。
前日から用意していたゆで卵をスライスし、サンドウィッチを作って来ていました。
食べ終わると、ドラムバックから長袖を出して中に着込みます。
246号線を走っている時には暑かったのですが、山を走った辺りから冷え始めていました。寒さを感じるくらいに冷えたのです。
137号線の『御坂みち』は、綺麗な街路樹でした。ほどよいワインディングが運転を楽しませてくれます。
そして国道20号線に入ります。
20号線と言えば、私の中ではのどかなワインディングロードのイメージでした。でもここの20号線は『勝沼バイパス』と呼ばれ、複数車線の交通量の多い道路のようです。
同じ20号線を進んでいるというのに、やがて道の名称が『甲州街道』に変わります。
その辺りから、再び暑くなってきました。
同じ日に全く条件下で走っていても、気温の変化はどうしても起きてしまいます。バイクに乗るのなら、その対策もしなくてはいけません。
富士川の『新国界橋』を渡るや、ようやくの長野県です。富士見町を走り抜けます。
道も穏やかで車の流れもスムーズになりました。
茅野市に入るや、もう一度給油と休憩を取ります。
暑すぎたので、先程中に着た長袖を脱ぎたくなりましたが、ここからまたすぐに山に入ることを考え、悩みました。
結局、水分補給をしてこのままの格好で進むことにしたのです。
山は、やっぱり冷えるだろうと思ったのです。
峠道の途中では、バイクを停めて服を重ねることなど出来ないかもしれません。
──さぁ、いよいよだ。
気が引き締まるのを感じます。
『南アルプス展望台』まであと少し。
抑えきれない高揚感を胸に、セローに跨りエンジンを始動させたのでした。