アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

都心の桜たち〜夜桜ツーリング②

その木を見上げると、花弁を身にまとった枝たちが、天高く伸びていました。

青空に向けて広がる無数の花々が、風に揺られています。

「ここの桜の木、すっごく大きいよね…」

圧倒されながら私が言うと、「ですね」とSさんが応えます。

私が知っている一般的な桜の木よりも、ずっと背が高かったのです。

背丈だけではありません。

桜の枝が、カーテンのように足元にまで降りています。

「これ、剪定していない?…のかな」

普通、公園の桜は横に広がりすぎないよう、真横に伸び始めた枝を剪定してしまいます。だから大抵は花との距離が遠いのですが、ここの桜は自由に枝が伸ばされたままなのです。

その為、私の目線の高さにも沢山花が咲いていました。

 

 

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見回すと、他の桜の木との距離も充分にあります。

枝はもちろん、土の下で木の根もぶつかり合わないように、充分なスペースが確保されているのでしょう。

木の一本一本が、のびのびしているように私には見えました。

 

大事にされているんだなぁ。

 

桜は、人の目を楽しませる為に花開かせているわけではありません。懸命に生きているだけなのでしょう。

ですが、人はそれ目的で桜の木を植えます。

人の生活の邪魔にならないよう、広がりすぎないように剪定され、窮屈に並べられてしまうのです。

ここの桜達も人により植えられ管理されているのでしょうが、とても自由に『生きて』いるように私には感じられました。

 

 

私もSさんもそこを立ち去り難く、座り込んでそれを暫く眺めます。

 

「あ、食べる?」

今日のお花見の為に、和菓子屋さんで買っておいたお菓子を差し出します。

本当はお弁当を広げたかったのですが、ご飯時ではなかったので、せめてと思い用意していたのです。

「あ、じゃあいただきます」

 

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口の中で広がるほんのり甘いその和菓子を堪能しながら、しばらく砧公園の桜に見入りました。

 

Sさんが携帯画面を開き、次の目的地を考え始めます。

「どうします? 次は目黒川の桜並木を見に行きますか?」

「あ、うん。行きたい!」

目黒川の桜並木は、都内の有名な桜スポットです。

私が個人的に立てたお花見ツーリングでもルートに組んでいたのですが、結局それが実現することはなかったので、目にしたことはありませんでした。

 

 

 

バイクに跨り出発です。

環八通りを戻り、国道246号線に入ります。

ナビの案内に従い進むと、都道416号線『駒沢通り』という道路を走ることに。

「この道は俺も初めてです」

嬉しそうに声を上げるSさん。

 

都内には色々な通り名があり、その通りごとに特色があるのだと以前Sさんが言っていました。

片側一車線の静かなその通りを進み、いよいよ目黒川の桜並木です。

 

目黒川の河川敷両側に、桜の木が植えられています。川沿いを歩いても勿論お花見は出来るのですが、やっぱり両側に咲く桜たちを眺めたい、という人達がその橋の上、『中里橋』に集まっていました。

 

目黒川の桜並木はまだ満開ではありませんでした。それでも桜の本数が多いため迫力があり、見る人を惹き付けます。

 

バイクを停車させ、降車もヘルメットを脱ぐこともせず、バイクに跨った状態で写真を撮ります。

そのままでは良く見えなかったので、停車したセローのステップに立ち上がって撮りました。

 

 

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「こういう時、オフ車はいいですよねぇ」

Sさんから言われて、ちょっと誇らし気な気分になりました。

 

あまり長時間いられる場所ではなさそうなので、すぐに移動します。

 

 

次なる目的地は、港区赤坂にある『ミッドタウン』。そのまま橋を渡り、新茶屋坂通りを進みます。

「うわぁ、お洒落な街並み〜」

「ここは何もかもが洗練されてますよね」

言いながら恵比寿や西麻布を走り抜けます。首都高の下を走りながら、六本木へ向かいました。

 

そろそろ日も暮れて来ます。

やがて到着したミッドタウン。

通りには桜がたくさん植えられており、毎年桜の季節になるとライトアップされるのだそうです。

今年は自粛のためライトアップはされておらず、街灯と月明かりのみでの鑑賞となりました。

そのためか、人はおろか車通りもほとんどありません。

私とSさんはバイクを停めて降車し、通りとバイクとの写真を撮ります。

 

 

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黄昏時の桜並木を走り抜けます。

 

 

そして、本日最後の目的地へと向かいました。

「だいぶ寒くなって来ましたね」

「そうだねぇ」

日が沈むと一気に気温が下がりました。風も冷たく感じます。

一枚上着を重ねて、出発です。

ものの数分で到着した、『六本木アークヒルズ』。

 

 

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ここも毎年のライトアップは自粛されていました。

 

そしてSさんから写真を見せてもらい、私が羨ましがった場所でもあります。

あの写真では、満開の桜がライトを浴びてピンク色に輝いていました。それが夜空に映え、ビルの明かりも相俟って最高に美しかったのです。

それを背景に佇んでいたSさんのバイクもまた、最高に格好良く見えました。

 

 

「どうですか?」

「うん…」

Sさんからこの景色の感想を求められましたが、正直私は曖昧に返事をすることしか出来ませんでした。

最初に見た、砧公園の桜が良すぎたのかもしれません。それと、まだ満開ではなかったからでしょうか。

でも、都内のネオン煌めく街中で桜を堪能するのなら、やっぱりライトがないと淋しいと感じたのです。

 

ここも、また来年かなぁ。

 

そう思い、アークヒルズの桜達に再会を誓ったのでした。

 

Sさんのインカムの充電が切れそうだったので、バイクを邪魔にならない場所へと移動させ、しばらく休憩です。

 

帰りのルートを検索しているSさんに、おずおずと話しかけます。

「あの…。トイレ行きたい」

そう、都内ツーリングをしていた時、もっとも困ったのがトイレ休憩でした。

都内のコンビニはビルの中にあり、駐車場がないところばかりなのです。

「トイレですか…」

若干困った顔をして色々調べていたSさんですが、それらしき施設が近くになかったのか、

「まだ我慢出来ますか?」

と聞いてきます。

「うん、まだ大丈夫〜」

 

 

とはいえ。

この後私がトイレに行けるまでに、1時間はかかったのでした。