次は、Sさんお勧めの吉見百穴(よしみひゃくあな)です。
事前の下調べで、現在は点検と調査のため中には入れないことは把握していました。
でも、外から見るだけでも充分に価値があると踏み、予定に組み込んでいたのです。
道に少し迷いながらも無事に到着します。
駐車場は広く、無料開放されていました。
入館料300円を払って中に入ります。
吉見百穴は、今から約1400年前の古墳時代後期の横穴墓群だそうです。大正12年に国史跡にも指定されています。また、現在、確認されている219基の穴数は、国内最大規模となっています。
こうした横穴に、次々と死者を葬る追葬が行われたのだそうです。その長い歴史と、発掘した多くの人々の歴史も感じ、敬意を表します。
ヒカリゴケ発生地や地下軍需工場跡は、上にも述べた通り、残念ながら立ち入りが禁止されていました。その代わり、周囲をぐるりと回って丹念に観察します。
一番端っこまで来ると、謎の階段がありました。
こういう惹かれる道を進まない選択肢はありません。私はワクワクしながら登っていきます。
一番上まで登り景色を見渡すと、すぐ下に降りていきました。
ここは登りつめた先ではなく、そこまでの過程そのものを楽しむ場所でした。
下に戻ると、売店のおばさんが土産品の味見を進めてくれたので、頂くことにします。
『五家宝』というそうです。美味しかったので、一箱購入しました。
「寒いでしょう? あったかいお茶でもどお?」
と言ってくれたので、有難く頂戴することにしました。
休みたかったのと、温かい飲み物が恋しくなったのです。
勧めてくれた椅子に腰掛けると、おばさんはお茶を出しながら
「バイクに乗ってるの?」
と聞いてきました。
セローはそこから見えない場所に停めてあったのですが、どうもライダーの装いというのは分かりやすいようです。
「あ、はい。そうです」
「あら、寒いのに偉いわねぇ。どこから来たの?」
私が神奈川の湘南からだと言うと、「それなら高速乗ってすぐだもんねぇ」と笑っていました。
でもすみません、高速道路は使ってないんです。
時計を確認するとまだ10時半でした。16号線が空いていたからでしょうか、計算よりもずっと早く着いたのです。
実はここ以降の目的地は決めてきていませんでした。
「あの、どこかお勧めの観光スポットとかありますか?」
聞くと、吉見町の観光案内パンフレットを出して広げてくれました。
「やっぱり、吉見観音がオススメかしらね。この、岩殿山安楽寺」
「へぇ〜」
「ここ、三重塔もあるしお地蔵様もいるのよ。ちょっと今日は初詣で混んでるかもしれないけど」
それでも、せっかくなので行ってみようと思いました。私がそう言うと、「あ、ならちょっと待って」と奥に行き、赤ペンを持って戻ってきました。
パンフレットに載っている、簡易地図を赤ペンで囲みながら、位置情報とルートの説明をしてくれます。
「ここをこう行って、この交差点をこう行けばこの辺りで看板が出ると思うから。あ、でもバイクで走るなら川沿いの道の方が気持ちいいかもしれない。そのルートなら、ここをこう行ってこの辺りに出て…」
なんとバイクに適した道まで教えて下さいました。
私は丁寧にお礼を言って、空になった湯飲み茶碗をお返ししました。
「いえいえ。気を付けてね」
笑顔で手を振って送り出して下さいました。
ツーリング先でのこうしたやり取りは、とても心に残るものです。胸が温かくなりました。
また来たいと思いました。
吉見観音までのルートをあれほど丁寧に説明してもらったにも関わらず、結局かなり迷ってしまいました。
ぐるぐると同じ所を回り、行ったり来たりしてしまいました。結局見つけることが出来たのは、初詣に向かうらしき人々の流れがあったからです。
細い道を登っていくと、すぐにありました。
ここも素晴らしい神社でした。
参拝し、お御籤を引いた後、除夜の鐘の列に並びます。鐘を打つのは生まれて初めてです。力強く鳴らし、誇らしげな気持ちになりました。
お地蔵様の柔和なお顔に癒されます。
境内を散策し、三重塔を見に行きます。
決して華美ではありませんが、歴史と威厳を感じさせるいい造りだと思いました。
売店のおばさんは混雑していると言っていましたが、そこまでではないと感じたのは、人口密度の高い神奈川に住んでいるからでしょうか。
私の住む辺りでは、初詣一つ行くのもひどく行列しており、毎年一苦労でした。そして列に並ぶ人達も年始早々からギスギスすることもありました。
でもここでは時間がゆったりと流れている──。
居心地の良さを感じながら、そこを後にします。
セローの元に戻ると、出発です。
実は、ここから先はノープランな上に帰り道のルートすらも紙に書いてきていません。
これはフォロワーさんの、おやじ一徹さんが提案して下さった手法で、『目的地からのノープランツーリング』です。
目的なしに走ることそのものは、前回の三浦半島ツーリングでやりました。
でも、まだ慣れていない道でそれをやると、本当にただ一日迷って何も出来ないまま終わりそうです。せっかく行くのにそれではあまりに淋しいので、目的地に着き、そこから先を気の向くままに走行しようと思ったのです。
行きで道や地名を覚えようとしたのもそのためでした。気の向くままに走り、記憶を辿って家に帰ってみる。
──その手法が果たしてどう転ぶのか、不安と高揚を覚えながら、セローのエンジンを始動させます。
最初は緊張しながら来た道を戻っていただけでした。
標識を見ながら入間市方面を目指し、まずは坂戸市、その次が鶴ヶ島市と、案内標識の通りに進みます。
でもそれでは意味がないと思い、国道407号線に差し掛かるや思い切って道を逸れてみます。楽しそうだと感じた道を進むことにしたのです。
農道の真ん中を突っ切ったり、民家が立ち並ぶ住宅地を抜けたりします。完全に方向が違っていては困るので、一応不安になったら地図を開いていました。
これが出来たのも、後ろから煽って来るような車もいない、ゆったりした道だったからでしょう。
やがて入間市に入ります。
道の両側、遥か向こう側にまで茶畑が広がっていました。
「うわぁ〜」
歓声を上げながら進みます。
道端にセローを停車させて、写真を撮りました。
セローも喜んでくれているように感じました。
そして狭山市ではなく入間市にこういった茶畑が広がっていたことに驚きます。
確認しましたが、『茶どころ通り』というそうです。ツーリングマップルにも表記されていない道でした。
そのまま進むと瑞穂町に出たので、16号線に合流します。後は来た道を進むだけでした。所々、記憶が薄れていたのですが、そこは道を逸れて停車してゆっくり地図を確認します。
今回のツーリングでの一番の収穫は、地名を覚えて標識を見ながら進んで行けたことだと思います。
まだまだうろ覚えではありますが、こうやって積み重ねていけば、自在に色々な道を走れるようになるのではないかと思います。
思えば、バイク操作そのものの不安や恐怖心を書くことはなくなってきました。知らない道を走ることのそれも、いずれ書かなくなってくるのでしょう。
それでも、ツーリング毎に新たな発見と感動があります。
自分の成長とともに、ツーリングの在り方もどんどん進化させていけたらと思います。