アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

大地の誘(いざな)い〜千葉ロングツーリング①

年末年始休暇も終わったその週、仕事をしながら私はふと、卒検から2ヶ月が経とうとしてることに気付きました。

 

年始の埼玉吉見町と大都会でのツーリングを経て、少しずつ自信を付け始めた私は、そこになんらかの節目のようなものを感じ、そろそろ距離を伸ばしていこうかなと思ったのです。

今までの走行距離はせいぜい200km前後、少し物足りなさも感じていました。もっと走りたい、もっと違う道を走り、もっと色んな景色も見てみたいと思いました。

 

 

そこで、前々から言われていた『下道で千葉に』というSさんの課題を、再度挑戦することに決めたのです。

 

千葉の課題を出された時から、行きたい所はいくつか調べ上げていました。

中でも気になったのは、館山市にある『野島埼灯台』です。

千葉の最南端に位置するその灯台は、中に入ることも可能で、周辺には綺麗な公園もあることが分かりました。また、そこへ向かうまでの道もとても美しいのだとSさんから聞かされています。

何より、『最南端』というのがライダーの征服意欲を掻き立てます。

 

ただし、当然ながらそこは千葉県の端っこです。

湘南の海近くに住む私は、神奈川県を横断し、東京都を突っ切り、更には千葉県をも横断して行かなければなりません。下道でのルートでは、東京湾をぐるっと一周しなければならないのです。

──さすがに無謀か?

地図と睨めっこしながら考えこみます。

時間や距離は計算できても、なんせ初めてのロングツーリング。自分の体力や力量までは分からないのです。

とりあえず、もう一つの行きたい所である富津岬まで行ってみて、その後館山方面まで向かってみ、もし無理そうなら引き返すというプランでルートを考えました。

 

ですが、ルートを紙に書き上げながら、その途方もない情報量に戸惑ったのです。

なんせ距離が今までの倍近く。

今までのように手書きの地図や、交差点の名前、目印の全てを書いていたら、紙が何枚あっても足りません。

う〜ん、どうしようかと考え込み、思い切ってルートの書き方を簡略化させていきます。

 

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地図も目印も書くのはやめ、ただ道路の名前と向かう方向、右左折する交差点のみをしたためました。

幸い、東京都内を抜けるルートは前回のツーリングで走っています。

第一京浜からを書けばいいので、だいぶシンプルにまとめることが出来ました。

 

当日も夜明け前に出かける予定でしたが、お弁当は前日の夜に仕込んでいました。

 

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メニューは一品料理のオムライスです。

 

 

当日の朝、深夜並の暗さの中で出発です。

頭上ではまだ星が煌めいていました。

 

前回は年始だったのでやはり空いていたのでしょう。

今日はまだ早朝5時過ぎだというのに、国道1号線第一京浜も混雑していました。大型トラックがビュンビュン飛ばしています。

その風圧を受けながら第一京浜を抜け、東京港臨海トンネルを走り、東京ゲートブリッジを渡ります。

 

その頃には空がほんのり白んできていました。

その朝焼けと、都会の煌びやかな夜景とを、ゲートブリッジのトラスの合間から眺めやることが出来ました。

その初めて見る光景に、私は静かに感動します。

橋を渡り終わると、前回散策した『若洲公園』の脇を通り過ぎます。

Sさんが、何故この公園を勧めたのかが分かるような気がしました。

東京都内を下道で抜けるなら、ここは必ず通る道だからでしょう。一度走った道なら、不安感も軽減されます。

 

 

千葉県内に入る頃にはだいぶ明るくなってきていました。16号線を真っ直ぐに走り抜けます。

三連休の初日だからでしょうか、ここも混んでいました。

さすがに身体の冷えと空腹を覚えたので、市原市に入るや休憩を取ります。おにぎりを頬張りながら、地図を確認しました。富津岬まででしたら、ここまでの距離で約3分の2は進んで来たことになります。

 

富津岬──。

写真でしか知らない憧れの地へ、自分の運転で向かうことが出来る幸せを、おにぎりの食感と共に改めて噛み締めました。

その多幸感が、早々と休憩を切り上げさせ、再度セローの元へと駆り立てます。

 

16号線を更に進んでいくと、大型トラックの姿は少なくなりました。

木更津市を抜け、県道90号線に入ると、のどかで真っ直ぐな道になります。どこまでも広がる田園風景に、思わず笑みが零れます。

私好みの素敵な道でした。

富津岬の標識が出始めます。

 

やがて緑豊かな公園の中を通り抜けます。

富津公園』です。

両側に公園があり、その真ん中に公道があるという、少し変わった造りの公園でした。

そのお陰で、のどかな林の中を駆け抜けることが出来ました。

 

走り進めてまず目に飛び込んで来たのは、富津岬のシンボルとも言える『明治百年記念展望塔』です。Sさんが『巨大ジャングルジム』と勝手に呼んでいるように、目にした者の好奇心を駆り立てる迫力のある造りでした。

明治百年記念展望塔とは、富津岬の最先端にある、五葉松をかたどった展望塔です。
東京湾を一望できるだけでなく、冬の空気の澄んだ日には、富士山もくっきりと観ることができ、関東の富士見百景にも選ばれているそうです。

残念ながらこの日は曇っていたので富士山を臨むことは出来ませんでした。

 

 

すぐ隣の駐車場にセローを停め、写真を撮ります。

 

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撮影の後は、さっそく展望塔に登って行きます。

入り組んだ階段のどこを上がっていってもいいので、どのルートで行こうかなとワクワクしながら上がりました。

 

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陸側の今来た道と、富津岬が見渡せます。

てっぺんまで上がり、海を見渡し深呼吸すると、ここでいつものブリッジです。

 

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東京湾を一望しながらのブリッジは最高でした。

セローの元に戻ると、軽く休憩して自分の身体と相談です。

メーターを確認すると、ここまでの距離で140kmでした。このまま真っ直ぐ帰ったとしても合計280km、今までのツーリングを考えたら、ここから引き返したのだとしてもそこそこの距離となります。

 

でも、私はもっと走りたいと思いました。

思えば、都内を抜けてからもしばらくは、国道16号線のバイパスを走って来ました。まだ『千葉らしい』道をほとんど走っていません。

もっと千葉の景色を見たい、もっと千葉の空気を感じたいと思ったのです。

 

時刻はまだ朝の9時──。

自分の体力を鑑みても、まだ走れると判断しました。

「よし、行こう!」

声に出し、セローと自分に高らかに宣言します。

 

後の出来事を思うに、これが最初の分岐点だったのでしょう。

ツーリングの出来事をこうして文字に起こして振り返るたび、いくつかの分岐点や反省ポイントが見つけられるのですが、それはその時点では分からないものです。

 

でも私は、この時の自分の判断は決して間違えていなかったのだと思います。

 

行きたい場所も走りたい道もこの先に待ち受けていて、しかもそこへ走りに行けるだけの時間も体力も、そして燃料だって充分にある──。

その状況に置かれたのならば、走りに行かないライダーはいないのではないでしょうか。

 

千葉の大地に誘(いざな)われるがまま、私はセローのアクセルをそっと回したのでした。