走り出すと、後ろから3台のセローも付いてきてくれます。
今朝はフリーズしていたナビ画面でしたが、今度はちゃんと動いてくれました。
なるほど、確かにこれは便利です。
音声では次の道順を説明してくれ、画面でも地図を表示しながらルートを教えてくれます。
そんなナビの誘導を受けながら私は、人生初、マスツーリングの先導に挑戦中です。
「ツーリングの先導は、ただ先頭を走ればいいってわけじゃないんですよ」
以前Sさんが言っていた言葉を思い出します。
「ちゃんと後ろが付いてきているか、力量以上の運転をさせていないか、常に気にかけてあげなきゃいけないんです」
そして、何度も何度も言っていました。
「とにかく、事故が起きたら全てが台無しなんで」
全員が無事故で帰ること。
それは、先頭を走る人間がどういう走りをするかにかかっているのでしょう。
責任の重さとプレッシャーとで、押し潰されそうになります。
「ちうさん、ウィンカー付けっぱなしですよ」
赤信号で横並びになった時、ぴけさんが教えてくれました。ハッとします。
「ひいぃ、すみません! ありがとうございます」
初歩的すぎるミスを、まさかのタイミングでやってしまいました。恥ずかしさで顔が火照ります。
「あはは、大丈夫ですよ〜」
ぴけさんがコロコロ笑いながらそう言ってくれます。その笑いには、私を馬鹿にするようなニュアンスは全く感じられませんでした。
ふとミラーを見やると、ヨシローさんと雪さんが、やはり横並びでお喋りに興じていました。
改めて眺めます。オレンジ、グリーン、ブルーのセロー…。
そっか、セローが全色揃ったんだ。
今更ながらそのことに気付いたのです。
──楽しもう。
そう思いました。
せっかくセロー仲間で集まったのだから、今の走りを楽しまなければ損です。
海軍通りの桜並木は確かに綺麗だったのですが、さすがにまだ早すぎたのか4分咲きくらいでした。
少しだけ残念でしたが、それでも咲き始めの桜を眺めながらの走行は楽しかったです。
県道18号線を通り過ぎ、やがて国道246号線へと入ります。長い渋滞を抜けるや246号線を出て、川沿いの道に出ました。
そのすぐの公園に到着です。駐車場にセローを駐輪させます。
県立相模三川公園です。
相模川、中津川、小鮎川の3つの川の合流点の上流につくられた公園です。
桜の名所としてはあまり知られていませんが、川沿いには桜の花が咲き誇る穴場スポットとなっているらしいのです。
私も初めて来ました。
「風が強くて怖かったぁ」
「ホントにね〜。今日、風強すぎ〜」
言い合いながら降車します。
風が吹くたびセローが揺れるのも、男性より体重の軽い、セロー乗り女子ならではの悩みのようです。
「私は花粉症が心配…」
雪さんがスカーフで布製簡易マスクを作りながら呟きました。
川沿いの公園を、4人で歩き進んでいきます。
「凄い! 筋トレ器具が充実してますよ」
滅多にお目にかかれない、高い鉄棒を指差し声を張り上げ駆け寄りました。
後ろから、私のその様子をヨシローさんが撮ってくれていました。
他の皆さんもチャレンジです。
「自分の身体が重いわぁ」と皆で笑い合います。
筋トレしながら歩き進み、川の合流地点に辿り着きました。
公園の名前が書かれた石碑があります。
「これを背景に、皆で写真を撮りたいな」
私が言うと、「それいいですね〜。でも、う〜ん…」
ぴけさんとヨシローさんも、周囲に頼める人がいないかキョロキョロしてくれます。
「あ、この方が撮って下さるそうですよ」
雪さんが既に、通りかかった男性にお願いしていました。
「雪さん、さすがです」
そうして撮って貰った写真がこちら。
桜の木の下でお弁当を広げる家族連れがちらほら見受けられました。
公園内の『さくら橋』を渡り、反対側の川沿いを歩いて行きます。
「このまま歩いていって、あっち側にも橋ありますかね?」
私が言うと、
「いざとなったら川を渡れば大丈夫!」
ヨシローさんが応えます。さすが、林道を走ってるだけのことはあります。
「そりゃ、ヨシローさんは脚が長いから越えられるでしょうけど、私がやったらビシャビシャですよ。
あ、私を担いで渡って下さい」
「いいですよ!川に落としちゃってもいいのなら」
「ひっどぉ」
笑いながらふざけていると、鮮やかなピンク色の桜の木が一本だけある、芝生広場に差し掛かります。
「なんだろう? あそこの桜だけ色が鮮やか」
私がそう言って立ち止まると、
「桜の品種が違うんじゃないですかね?」
と雪さんが応えます。
ヨシローさんがその桜を間近に見に行ったので、皆も続きました。
「綺麗な色ですねぇ。可愛らしい咲き方」
皆でその桜の写真を撮ります。
そして芝生もあることですし、人も少ないので、皆でそこでブリッジをする流れに。
髪も服も草まみれになります。
「私、大人になってこんな草まみれになったの初めてですよ」
ぴけさんが笑いながら言うので、「ですよね〜」と私も同意しました。
トレーニングが終わると芝生にそのまま座り込み、またもお喋りタイムです。
まるでUFOでも召喚しようとしているかのよう。
気が付けば「えっ、もうこんな時間?」という程に、長いこと話し込んでしまいました。
「また集まりましょうね」
「はい、是非是非! 次は何やるか考えておきましょう」
「じゃあ、お気を付けて」
それぞれの経歴、それぞれの環境があり、そんな中でも同じバイクに乗っているといるという、たった一つの共通点を持ち集まった4人。
それでも話しが尽きない程に打ち解けました。
「さようなら」ではなく、これは出逢いの始まり。
それぞれの色彩を放つ4台のセローは、それぞれの帰路に就くべく散っていったのでした。