アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

焦らず停まらず〜初林道ツーリング①

三月の始め頃──。

 

セロー女子仲間のヨシローさんから、

「来月始めに林道ツーリングに行くんですが、よろしければ一緒にいかがですか?」

とお声かけいただいたきました。

まだ林道を走ったことのない私は少しだけ不安でしたが、

「林道初心者向けの道を走るから全然大丈夫ですよ!」

と言って貰えたことで、参加することに決めたのです。

善は急げとばかりに、当日中に全身のプロテクターを購入します。

 

 

林道はずっと興味があり、いつか走りに行きたいと思っていました。

ですがお世話になっているバイク屋の店主から、

「林道は一人で入っちゃ絶対にダメです! 仲間を作って一緒に行きなさい」

とキツく言われていました。

なので今回のお誘いはまさに、渡りに船だったのです。

 

バイク屋の店主もセロー乗りです。

お仲間さん達とあちこちの林道に行かれているようで、私がお店に立ち寄る度にお茶とお茶菓子を出し、その様子をつまびらかに語って聞かせて下さいます。

 

納車するや一人であちこち走り回っている私を、陰ながら心配してくれ、林道に興味があることを口にする度、ずっとそう釘を刺してきて下さいました。

そして毎回、

「オフロードは、オンロードをひたすら走って、今のタイヤを走り潰してから考えればいいんです」

という言葉で締めくくられてきたのです。

 

 

私はその忠告を、半分は聞き入れ半分は無視することになるわけです。

仲間とは走りますが、タイヤは新車の時のままです。それでも別に大した問題はないと思っていました。

 

 

ですが、私はこの店主の言葉の重みを、後に身をもって実感することになるのです。

 

 

その数日後、またもヨシローさんから連絡がありました。

「ちうさん、どんなルートで向かいます? どこかで待ち合わせて一緒に現地に行きません?」

私が現地へ向かうルートを伝えると、

「高速は使わないんですか?」

と聞かれます。

「えっ、高速ですか? 全然考えてなかったです」

高速道路は乗ったことがありませんでした。

やっぱり怖かったのと、Sさんからの課題も下道ルートが多かったので、縁がなかったのです。

ですがそろそろ高速道路を走ってみようかなと思っていた所でした。

「ヨシローさん、高速で行くのでしたらご一緒してもよろしいですか?」

いい機会だと思いました。

同じ軽さと車高のバイク、しかも女性ライダーと一緒に高速を走れます。

軽量で車高の高いセローは、体重の軽い女性ライダーだと特に風の影響を受けやすいようです。スピードを出せば出すほどそれが顕著になります。

そこをヨシローさんはどう乗りこなしているのか、よく見てみたいと思いました。

何より、現地までは片道約120kmもあったのです。

「いいですよ〜。じゃあ一緒に高速で行きましょう!」

待ち合わせのPAと時間を指定し、「あ、物欲さんも来てくれるそうですよ」

と教えてくれました。

「へぇ〜、それは楽しみです!」

 

物欲さんとは、私もSNS上で絡みのあるお方です。オフロードをよく走りに行っており、面白そうな方だなと思いつつも今まで面識を持てずにいました。

ヨシローさんとは既に顔馴染みのようです。

 

 

新たな出会いと初体験とに胸躍らせながら迎えた当日の朝──。

 

 

プロテクターを全身に装備します。汚れると思い、いつものドラムバックはリアキャリアから外しました。

昼食用のおにぎりをリュックに詰め込み、出発です。

 

待ち合わせはPAのため、一人で高速道路に入って向かわなければいけません。

緊張しながら、これまでは避けてきた緑の標識に従い、走り進めます。

ゲートをくぐり、いよいよ高速道路です。

アクセルを開いて流れに乗ります。

 

「おお〜」

案に相違して、高速道路での走行は快適でした。

確かにスピードを上げなければいけない分、風の抵抗は受けやすいのですが、赤信号での停止もカーブも右左折もなく、真っ直ぐ走ればいいだけなので何とでもなりました。

目的地に向けてぐんぐん走り進めるこの感覚は爽快です。

 

 

ですが。

『この先、Uターンです』

「えっ!?」

唐突に告げられるナビ音声に驚きます。

画面を見ると、進んだ先で折り返している表示が。

何何、なんで?

逆方向に乗っちゃった? 間違えた? でもここまでナビの誘導通りに進んで来たのに。

ていうか。Uターンって、一体どこでどうやって!?

 

ヨシローさん達との待ち合わせ時間が迫っているのもあり、パニックになりかけました。

ここは高速道路。バイクを停めてゆっくり経路を確認している時間も場所もありません。このまま走り進めるしかないのです。

こうなったら、焦っても仕方ない。間違えたなら、どこかで降りて引き返そう。そう思い、走り続けました。

 

「…ん?」

でも標識を見るに、方向は間違っていないようでした。過ぎていくジャンクションも記憶の通りです。

どうやら間違えていないらしい、と確信するや、ホッとひと息つきます。

ナビのバグのようでした。

念の為ルートを軽く下調べしていて良かったです。

 

ナビの便利さ、高速の利点を実感すると共に、そのデメリットもこの短時間で味わえたようでした。

 

やがて待ち合わせのPAに入ります。

駐車場を横切り、バイク駐輪場へと進み、

あ、セローだ!

と一台のバイクへと近付いて行きます。

ん? セロー…だよね?

近付くにつれ自信がなくなって来ました。

違っていたら恥ずかしいので、少しだけ離れて隣に駐輪します。

隣のバイクを横目で見ながら、

やっぱりセロー?

う〜ん、でも形はセローなのになんか違うなぁ…。

と一人考え込みます。

「おはようございます」

そのバイクの持ち主である男性が、声をかけて来てくださいました。

どうやら、この方が物欲さんのようです。そして、ということはやはり、そのバイクはセローで間違いないようでした。

「あ、おはようございます」

私も応えながらヘルメットを外します。

軽く自己紹介をし合うや、

「ヨシローさんは少し遅れて来るみたいですよ」

と物欲さんが言います。

「そうなんですね」

物欲さんはセローをあちこちカスタムしているようでした。通りで、印象が違った筈です。

 

世間話をしながら待っていると、オレンジのセローがやって来ました。ヨシローさんです。

泥だらけのセローがどこか誇らしげに見えました。

真ん前に停止するやヘルメットを外し、

「おはようございます。なんか、遅くなっちゃってすみませんっ!」

と頭を下げます。

「おはようございます、大丈夫ですよ〜」

応えながら、笑ってしまいました。

ヨシローさんと会うのは3回目ですが、3回とも同じセリフを口にして登場しているからです。

「遅れておいて何なんですが、ちょっとトイレ行って来てもいいですか? ダッシュで行って来るので」

「そんな慌てなくても大丈夫ですよ、まだ時間に余裕があるんで」

物欲さんが優しい口調で応えていました。

 

 

現地までの経路を確認します。

そして走る順番を決めました。ヨシローさんが先導、私は2番目で物欲さんが後ろを走って下さるそうです。

いよいよ、出発です。

 

ヨシローさんの走りを見るのは初めてでしたが、想像通りの安定したいい走りでした。

無理のないスピードで、ブレずに走行しています。見習わなくてはと、それをよく観察しました。

 

途中、桜が咲いていたり山が連なっていたりと、高速道路のイメージに反して景色も楽しめました。

 

目的地のインターを降りて下道になるや、今度は物欲さんが先導してくれます。

物欲さんの走りは、物静かなのに卒(そつ)のない、熟練者のそれでした。安心して付いて行けました。

 

 

やがて到着した集合場所。

この時点で私は、既に大冒険を終えたような気持ちになっていたのですが、本日のメインイベントはまだまだこれからだったのです。