アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

林道を得たオフ車〜初林道ツーリング③

先導の人がヘルメットを装着し始めたので、私も準備をします。休憩時間の終わりです。

 

バイクに跨り、再出発です。

走りながら、先程物欲さんがアドバイスして下さったことを思い起こします。

なるほど、と思いました。

ステップに真っ直ぐ体重を下ろすことで、安定しやすくなりました。

カーブでは可能な限りエンジンブレーキを使い、フロントブレーキは使わないようにします。

 

と、陥没した箇所に嵌り、そこから乗り上げてバランスを崩しそうになります。

あっ、転ぶ!

思わず身体を硬くし身構えたのですが、なんとか持ち直しました。

その後も、グラつきはしますが、その度になんとか体勢を立て直します。

 

そうか、空気圧だ。

そう、いつもならこんな状況になったら間違いなく転倒しているのですが、今それを持ち直せているのは、空気を抜いているお陰なのでしょう。

路面の凹凸や障害物があっても、タイヤが柔軟に変形することで上手くいなせているのです。

 

いや、それだけではないのかも。

 

私は細く狭まったガタガタ道をカーブしながら思いました。

セローです。セローが優秀なのです。

どんな悪路をも恐れず突き進むセローの走りに、私は得も言われぬ頼もしさを感じ始めていました。オンロードでは知り得なかった、セローの一面を垣間見た気がします。

 

それもそのはず、セローはオフロードバイクなのです。『水を得た魚』ならぬ、『林道を走るオフロードバイク』。

セローの今までにない生き生きとした走りに、私のテンションもどんどん上がって行きます。

 

気が付けば、ジョギングをしている時並に息が上がっていました。

バランスを取るために使っている太ももには、筋肉のだるさが感じられます。

「林道ツーリングは運動」

と言っていたヨシローさんの言葉の意味が、今ようやく分かりました。

 

 

ひとしきり走ると、またも小休憩です。

休憩だと言われているのに、枝や雑草だらけの林の中をバイクで駆け回る人もいて、「やっぱりオフ車乗りは変態が多いなぁ」と微笑みました。

「ちょっとここから移動して、その先でお昼休憩にします」

との言葉で、再び出発です。

林道を出て、舗装路を走ります。

オンロードがとても走りやすく感じました。

他の方々もその感覚なのでしょう、爽快に走り抜けて行きます。

舗装路なだけで普通の山道、いわゆる峠道なのですが、カーブも急勾配もまるでものともせずに、のびのびと走りました。

 

途中、富士山がよく見える所で休憩を取ります。

十文字さんが、私とヨシローさんとのツーショット写真を撮ってくれました。

 

 

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そして再び林道に入るや、拓けた所に出ます。

バイクを停めるや、思い思いの場所に座り込み、お昼ご飯です。

 

 

「あーお腹空いた」

と言い、おにぎりにかぶりつくヨシローさん。

ついさっき1個食べていたようなと思いつつ、私も空腹により自分のおにぎりを食べ始めます。

十文字さんが、何故かカップラーメンの容器を取り出したので、

「え、お湯沸かすんですか?」

と聞くと、

「いいや?」

と応えながら水筒を取りだし、中のお湯を注ぎ始めました。

「水筒? ぬるくないんですか?」

「大丈夫、ほら、湯気も出てるし」

そりゃ、湯気は出るでしょうけれども。

「その水筒、アウトドア用とかですか?」

ヨシローさんが聞くと、

「いんや、会社用」

会社用って何なんですかと、私とヨシローさんとで爆笑です。

この状況下で、お昼ご飯にわざわざカップラーメンをチョイスする十文字さんが、妙にツボでした。

こんな面白い人が、林道ではあんな走りをするのだと思うと感慨深いです。

十文字さんのバイクは250kg近くあると言っていました。そんなバイクで林道を自在に走り抜けていたのです。

 

 

食べ終わるや、横になります。

お行儀が悪いのは百も承知ですが、それを咎める煩わしい目線もここにはありません。

「あぁ、原っぱが気持ちいい…」

「ホントですねぇ」

初めての高速道路と林道ツーリングの疲れでしょうか、本当に睡魔が襲ってきます。

 

 

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その様子を十文字さんが撮影していました。

 

次第に。

お腹も膨れ休憩にも飽きてきた人達が、バイクに乗り始めます。

ここはただの広場ではなく、草も生え茂り、ぬかるみや陥没のあるれっきとした『林道』。でも彼らはそれをものともせずに自在に乗りこなしていました。

華麗にウィリーしている人もいます。

「すっご〜」

思わず感嘆の声を漏らします。隣でヨシローさんがウズウズし始め、

「あ〜いいなぁ。私もやるっ!」

と言うや、荷物も上着も脱ぎ捨てたまま、ヘルメットを装着しセローに跨り走り出したのです。

 

隣で休憩している物欲さんに、

「そういえば。物欲さんはどうして『物欲』というアカウント名にしたんですか?」

と質問します。

「物欲にまみれているからですね」

「な、なるほどっ」

簡潔なお答えでした。

「なにかに嵌ると、とことん突き詰めてしまうんですよね。そのためにどうしても、色々買ってしまうので」

セローをカスタムしていることでも伺えます。

そしてその感覚は、なんとなく分かりました。

それほどまでに打ち込めるものに出逢えるのは、とても素敵なことだと思います。

 

 

「ねぇねぇ! 今の見たぁ?」

目の前を、ヨシローさんが聞きながら走って行きます。

「あ、ごめん。見てなかったわ」

物欲さんが答えますが、既にヨシローさんは通り過ぎていました。

見ると、僅かな時間ですがヨシローさんがウィリーをしていました。

それを目にした物欲さんも立ち上がり、ご自身のセローに跨ります。

二人で走り始めました。

 

 

私はその様子を笑いながら見つめていました。

 

子供は、原っぱがあるだけで楽しそうに走り回ります。ゲームや遊具がなくても、ただ自由に動ける空間があるだけで楽しくて仕方がないといった様子で。

今この時、その感覚を思い出していたのです。

オフ車乗りはバイクとそれを乗りこなす空間があるだけで、楽しくて仕方がないのでしょう。

この時感じました。

バイクは『目的地へ移動する為の道具』ではなく、『自分の手足も同然のもの』なのだと。

たとえどんな悪路でも、自在に動き回れるだけでそこが自分の遊び場となるのです。

 

 

と。

ヨシローさんがぬかるみにタイヤを取られ、転倒してしまいました。

よりにもよって、泥水めがけてしたたかに転びます。

彼女の防水ウェアは隣に脱ぎ捨てられたままです。

「あっ」

思わず立ち上がりました。

明らかに、ヨシローさんは泥水まみれです。遠目でも分かりました。

 

ですが。

周囲には笑い声が沸き起こりました。

「写真撮ろうぜ〜」

とカメラを構える人までいます。

ヨシローさんは、

「えぇ〜? もぉ〜」

と言って起き上がり、一人でさっさとセローを引き起こしていました。

 

私は。

驚いたというよりも、ショックを受けました。

仮にも転倒した人がいるというのに、それを皆で笑ったことにも、あろうことかそれをからかうようにカメラを向けたことにも。

泥水にまみれた彼女を気遣うことも、引き起こしを手伝う人も誰一人いませんでした。

 

 

でも、私はまだまだ分かっていなかったのです。

 

そこにこそ『林道仲間』特有の絆と信頼があるのだということを。

そして、林道ツーリングの魅力もそこにあったのでした。