まず、レンタルバイクを勧められました。
車の免許を持っている私は、一応50ccでしたら運転出来ます。小型のバイクを借りて少し乗ってみてはどうかと言われたのです。
「乗せてもらうのと運転するのとでは、全然違いますから」
既にバイクの虜となっていた私、Sさんのこのセリフが決定打となり、そうしてみることにしたのです。
どこでどの機体を借りようかと調べている時、Sさんがバイク仲間の方からとある情報を仕入れてきました。
https://www.honda.co.jp/HondaGO/
それがこちら、HONDA GO バイク無料試乗プロジェクトです。
昨今のバイク離れに歯止めをかけるべく、HONDAさんが身を乗り出した一大プロジェクト。なんと、無料でバイクを貸し出してくれるとのこと。
車の免許しか持たない人向けに、50ccバイクも用意されているようでした。
しかも、私の住んでいる湘南からほど近い、鎌倉でも行っておりました。
これを利用しない手はないと、早速その週の週末に予約を入れました。
当初私は、一人で行き一人で乗ってくるつもりでした。Sさんには散々お世話になっていますし、Sさんの貴重なお休みを潰してしまうのも申し訳なかったから、というのも勿論ありますが。何より私は、それほど難しく考えていなかったのです。
プロジェクトというくらいなので、バイクを貸してくれる際に、何かしらのレクチャーと練習場所、練習時間があるのだろうと思い込んでいました。
そこで覚え、ちょっと走らせたら帰るつもりでした。
バイクは事前予約が必要です。
電話をし、週末に予約したい旨を伝えると、カブとスクーターどちらがいいかを聞かれたので、よく分からないまま以前Sさんがレンタルバイクしてみたらと薦めてくれた、カブを選択。時間は10時からなんと18時まで借りられます。
Sさんには、事後報告で予約日時と機体がカブであることを伝えました。すると、その日は仕事が休みだから付き添ってくれると言うのです。申し訳ないと思いながらも、やはりいてくれると心強いので、お願いすることにしました。
試乗当日。
私の住む湘南まで迎えに来てくれたSさんのバイクに乗せてもらい、貸し出し現地へ向かいます。そこは鎌倉の由比ヶ浜海岸の近くにありました。
建物の地下駐輪場に、それと思しきバイクがありました。
「きっとこれですよ、これがクロスカブです」
とSさんが指さしたバイク。
目にしてギョッとしました。
それは想像以上にちゃんと「バイク」だったのです。正直、車の免許を持っているだけで特別な教習もなく乗れる50ccバイクなら、私の持つ電動自転車の延長線上くらいのものなのだろうとたかを括っていました。
ところが、今目の前にあるバイクは意外にどっしりしていて装備も複雑、存在感と威厳もありました。
若干怖気付きながらも、とりあえず貸し出し手続きをしに三階へ。ひとしきり済ませると、ポンとキーだけ手渡され、
「バイクは下にありますので。では、行ってらっしゃい」
と送り出されました。
ここで私はようやく、自分の考えの甘さに気付かされたのです。バイク知識のレクチャーも練習時間も練習場所も、一切用意はされていませんでした。
とりあえずキーを持って先程のバイクの元へ。
なに? これは何をどうしたら動くの?
クロスカブを前に呆然とする私。Sさんはこれを予想していたのか、まずはバイクを地上に出すよう指示してくれました。
まず、スタンドの上げ方すら知らなかった私にそのやり方を教え、引いて地上に上げました。
店舗の前には広い歩道スペースがあり、しかもほぼ歩行者も通らない空間でした。とりあえずそこにクロスカブを停めます。
陽の光の下で改めて眺めたクロスカブ。
可愛らしいデザインながらも、やはり威厳と格式があり、燦然と陽光を跳ね返す機体は美しく、容易く触るのが躊躇われるくらいでした。
いえ、躊躇ったのはそのせいだけでなく、単純に何をどうしたらいいのか分からなかったからです。
キーは何処に差してどうすればいいのか?エンジンはどうやってかけるのか、アクセルはどちら向きにひねり、ブレーキはどこにあるのか?
その一切が分かりません。
Sさんはそんな私を笑いもせず、真面目に静かな口調でレクチャーしてくれました。
バイクの跨り方、立ち方、後方確認、スタンドの立て方から解除の仕方まで。
キーやエンジン、アクセル、ブレーキの場所はすぐに分かりました。一番苦戦したのはギアです。
ギアを入れてから、アクセルを回さないと動かない、ある程度スピードが出たらギアを上げていく。そのタイミングとやり方は、口頭説明ではなかなかピンと来なかったのです。
路上に出れる状態ではとてもなかったので、その場で少し練習していくことになりました。
「では、乗ってみてください」
と言われ、恐る恐る跨る私。跨った段階での乗り心地は、電動自転車とそこまで違わなかったです。
エンジンをかけ、ギアを入れてゆっくりアクセルをひねります。
次に、少しずつスピードを上げ、ギアを上げていく練習です。ギアを上げるタイミングが掴めないものの、やり方はなんとか覚えてきました。
その次に、ブレーキのかけ方。バイクはアクセルと同じくらいブレーキが大事なのだとSさんが言います。前輪のみの急ブレーキは前のめりになるからだそう。これも、ある程度スピードを出しブレーキをかけ、の反復練習。
そうやって、店舗の前を何往復もしました。
だいぶコツが分かって来たなぁと思った頃には、なんと一時間も経過していたのです。
「じゃあ、そろそろ路上に出てみますか」
Sさんの言葉で、いよいよ公道に出ることになりました。