アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

初めてのバイク〜タンデム編〜

きっかけは些細なことでした。

 

Sさんのブログに出ていたとあるお店に私は興味を持ち、行ってみたいと思ったのです。当初は電車やバスを駆使して一人で行くつもりで、詳しい場所などをSさんに聞いたところ、

「じゃあ、後ろ乗ってみます?」

と。

そのお店は電車もバスも通っていない山の中にあるとのことで、車も持っていない私は行く術がなかったのです。バイクの後ろに乗せ、連れて行ってくれるとのこと。

Sさんに感謝し、ご好意に甘えることにしました。

 

二人乗りとはいえ、バイクに跨ること自体が人生初体験。どんな感覚なんだろうと、ドキドキワクワクです。

 

ですが、決行の数日前、Sさんと私とが共有する趣味のオフ会がありました。

それは湘南の海沿いで行われたオフ会で、解散後、バイクで来ていたSさんから急遽乗せていただいたのです。

まず、手渡されたヘルメット。

Sさんが余分に持っていたハーフヘルメットでしたが、ヘルメット自体が初めての私は、ベルトの固定にすら手間取りました。

そしていよいよ、後ろのシートに跨りスタンバイ完了。

「じゃ、出発します」

とのセリフにより動き出す機体。

すぐに小さな悲鳴が喉から漏れました。

当たり前ですが、自転車よりずっと速い!

まるで地面から浮いた所で、身体をスライドさせて運ばれているような、そんな不思議な感覚でした。

その感覚にも慣れ、興奮も落ち着いてきた頃、海沿いの道に入りました。

広がる海と、全身に吹き抜ける潮風、そして照りつける陽射し。聴こえてくるのは波の音と、サーファー達の喧騒。

これは確かに車では味わえないと、私は思い切り新鮮な空気を吸い込みました。

 

ところが、周辺の車は次第にノロノロ運転になり、ついに停止してしまいました。混雑による渋滞です。

「ああ、この辺りの道はいつも渋滞するからなぁ」

と嘆息気味にこぼした私。

爽快に走り抜けたくても、混雑しているのなら仕方ない、渋滞が抜けるのをひたすら待つしかないと諦め半分に思いました。

「ま、バイクにそれは関係ないんですが」

ん?

それはどういう意味なのかと口を開きかけた時、バイクが発進。でも前方の車は相変わらず止まったまま、そう、遥か向こうまで長い列をなし止まったままです。

発進したバイクは、止まっている車と車の隙間を縫うように進み、何台も何台も追い越して行きます。

そう、「すり抜け」です。

私は今度こそ悲鳴を上げました。それは驚きと、楽しさと、ちょっぴり恐怖心を綯い交ぜにした複雑な悲鳴でした。

でも身動き出来ない車達を追い越していく優越感は病みつきになりそうです。

長い渋滞をものともせず、バイクはどんどん進み、ほどなく渋滞を抜け爽快な走りに切り替わりました。

 

なるほど、バイクってそんな利点もあったのかと、思いもよらぬ収穫が得られた人生初バイク、初タンデム(二人乗り)の日となりました。

 

そしていよいよその数日後。

向かうは山梨の道志村です。

その日の天気予報は正直、不安定でした。ですが、降るとしても小雨程度だろうとたかを括り、合羽の用意だけしてきて予定通り出発したのです。

最初は順調でしたが、次第にポツポツ雨が降ってきたので、停車し、念の為カッパを着て再出発。雨足は強まってきましたが、カッパも着たし大丈夫、と思っていました。

ところが、山道に入りほどなくして、完全なる豪雨に見舞われました。

雨は、痛い。とにかく痛いんです。

車と同じ速度で進み、生身で雨粒を浴びるので、雨の一粒一粒が凶器のように皮膚に当たってきます。

この日も借りていたハーフヘルメットだったので、顔全体に雨が当たります。

そして、豪雨ともなると大量の雨が目にも入り混んできます。コンタクトレンズを装着している私は、それが流されちゃうんじゃないかとギュッと目を閉じそれを防ぎます。これ、後部席だから出来ますが、運転席でこれやったら自殺行為ですね。

当然化粧も全部流れ、カッパを着ていない下半身全体がすぶ濡れです。

溜まりかねたSさんは、安全な所にバイクを寄せて停車し、私にも下りるよう促しました。

「作戦会議をしましょう」

と言い、携帯電話を取り出して雨雲レーダーを調べ、

「ここまで来て癪ですが、今から引き返しますか? それか、もう少し待てば進行方向の雨雲が去っていくようなので、待ってまた出発するか」

私は、もちろん再出発を選択。

その頃には雨足も弱まり、空も少しずつ明るくなって来ていました。

その後も目的地までやっぱり降られましたが、なんだかそこまで降られると、もはや楽しくすらなってきていました。

目的地に着いてからは雨はやみ、この日の帰り道は晴れました。帰りに寄った休憩所では虹が見え、あの時浴びた雨粒たちのお陰でこんな綺麗な虹が見れたんだなと思うと、一層美しく愛おしく感じられました。

 

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Sさんは何の責任もないのに、私をずぶ濡れにしてしまったことをひどく申し訳なさそうにして、「バイク移動の悪いところが出てしまいました」とこぼしていました。

心地よい風を一身に感じることが出来るのがバイクの利点なら、悪天候をモロに受けてしまうのがバイクの欠点。楽しく安全に走行するためには、細心の注意と下調べ、そして対策が必要ということですね。

 

ちなみに、その後も何度かタンデムでツーリングに連れて行ってもらいましたが、どれも驚異的な好天でした。雨予報をも覆す、Sさんの晴れ男パワーを思い知ることとなったのです。

ですが、多少の雨予報でも怖気ず行こう行こうと言えるのは、この初回ツーリングがこんな悪天候だったお陰で、怖いもの知らずになれたからかもしれません。

 

※すり抜けは明確な道路交通法違反ではありませんが、グレーとされている行為です。なので今回書くべきか迷いましたが、事実インパクトのあった出来事だったのと、小回りのきくバイクの特性をよく表していたのであえて残しました。

Sさんは追い越し可能な幅のある車線で、充分に安全確認を行った上で実行しておりました。