アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

旅の(強制的)終わり〜栃木、福島連泊ロンツー⑤

磐梯吾妻スカイラインを更に走りすすめます。

ヘアピンカーブを2〜3回超えました。

 

「凄い凄い! 何これ〜?」

一人大はしゃぎになります。

景色がガラリと変わったのです。

先程までは緑豊かな中を走っていました。それはそれで美しかったのですが、感覚は『いつもの山道』だったのです。

 

でも浄土平を過ぎてからの道は、見たこともないような別世界でした。

 

写真を撮りたかったのですが、道脇に

『火山性ガス発生の恐れあり。停車しないで下さい』

という注意書きが掲げられていました。

 

確かに、硫黄のような匂いが漂っています。人体に影響があるのかもしれません。

 

それでも撮りたかったのでしょう、バイクを停止させ写真を撮っているライダーさんがいました。

気持ちは分かるのですが私はそこまでやる気はなく、ルールに従うことにします。

 

残念に思いながらそこを走り抜けます。

その分、目に焼き付けようと思いました。

 

ヘアピンカーブが続きます。

ワクワクしました。

あのカーブを曲がったら、その先に何が見えるんだろう? あそこを上り切ったらどんな景色が広がっているんだろう?

そう思いながらバイクを走らせます。

ひとカーブひとカーブごとに全く別の表情を見せてくれるこの道に、すっかり夢中になっていました。

 

 

やがて大きな橋を渡ると、『つばくろ谷』という標識があったので入ってみることに。

そこから、先程渡った橋が見えました。

 

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「あぁ…ここも綺麗だなぁ」

『不動沢橋』という橋なのだそうです。

ここから見える渓谷も迫力があったので、息を呑んでしばらく見入ったのでした。

 

 

 

『…と、いうわけで。景色凄い綺麗だった〜』

『それは良かった』

宿に入って落ち着くや、ヨシさんに報告LINEを送ります。

旅が順調であることと私の息災を知らせる意味で、毎日経過報告していたのでした。

 

『それにしても、福島かぁ。俺は結局、1回しか行ってないなぁ。しかもその1回も、とんぼ返りだったし』

『えっ? どういう事?』

そしてヨシさんが語り出します。

 

曰く。

ヨシさんがバイクを購入して初めてのマスツーリング先が会津だったのだとか。

向かう道すがら雲行きが怪しくなり、遅れて合流するもあまりの悪天候のため引き返したのだそう。

以来一度も福島へは行っていないそうです。

 

『勿体ない、こんな綺麗なとこなのに』

『そうなんだよね、なんか行く機会がなくて』

『あっ、じゃあ…』

私は思い付いたことを即座に提示してみます。

『一緒に巡る? 福島』

 

 

「おはよーヨシさん」

「おはよう」

翌朝。

4日目の朝です。

夜明け前に出発したヨシさんと福島市内で合流し、挨拶を交わします。

「で、今日はどこ行く予定なの?」

ヨシさんが携帯電話のナビを作動させながら聞いてきました。

裏磐梯を巡りたくて」

行きたい箇所を幾つか提示しました。

ヨシさんは、ふむふむなるほどと言いながらナビをセットし、じゃあこの道をこう行ってこのルートで行こう、と道順を決めてくれます。

 

 

ヨシさんの先導で走ります。

国道115号線を突き進み、信号機もない交差点から左折しました。

細い魅惑的な道です。

「ここ、旧国道なんだって」

「へぇ〜」

昨日までは私一人だったので主要道路ばかり走っていましたが、ヨシさんが面白い道を見つけてくれるので今日は楽しく走れそうでした。

 

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緑が綺麗で快適な道でした。

そこをしばらく進み、やがて『照南湖』に到着します。

小さな湖でしたが、湖一面に広がる蓮の葉の見応えは充分で、他に人もいないためじっくり堪能する事が出来ました。

「蓮の花も咲いてる」

「ホントだ〜。可愛いなぁ」

 

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湖の周りを徒歩で一周出来そうでしたが、途中から道がなくなったので諦めて引き返します。

 

 

「じゃあ、行っくよ〜」

「はーい」

バイクに跨り出発です。

 

国道115号線に合流し、『土湯バイパス』を進みます。

やがて県道70号線『磐梯吾妻レークライン』に入りました。

緩やかなワインディングを楽しく進んで行きます。

 

 

「ちうさん、この数日で随分運転が上達したよね」

ヨシさんがミラー越しに私の運転を見ながらそう褒めてくれました。

「え、ホントに〜?」

「ホントホント。ちゃんとバンク出来てるし、カーブでも不必要な減速もせず曲がりきれてるし」

「そっか。自分じゃ分からないけど、上達してるんだとしたら嬉しいな」

ちょっと誇らしい気持ちになりながらバイクを走らせます。

 

道は下りに差し掛かり、急カーブも続きます。

 

「あっ、あそこ寄ってみる?」

ヨシさんがバイクを停められそうなスペースを見つけて聞いてきたので、

「うん」

と応えます。

二人でそこへ入って停車しました。

 

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『三湖パラダイス』と書いてありましたが、草木が生い茂っていて何も見えませんでした。

他の季節に来ればまた違った景色が見れたのかもしれません。

 

 

とりあえずと記念に一枚写真を撮り、では出発しようとバイクに跨ります。

エンジンを始動させ、後はギアを入れるだけです。

 

ところが──。

 

「あっ、ちょっと待って!」

ヨシさんのテンパった声をインカムが拾いました。

「ん? どうかしたの?」

「いやぁ…これは…」

 

ただならぬ気配を感じた私は、ヘルメットを外してヨシさんの次なる言葉に耳を傾けます。

ヨシさんはかがみ込んで、何やら愛車フューリーを弄ってました。

 

 

「これは…走行不能

 

走行不能

えっ、走行不能!?

 

ヨシさんのこの言葉により、私の4日間にも及ぶロングツーリングは強制終了となった訳ですが、それはそれで忘れ得ぬ強烈な思い出となったのでした。    

 

そして日本列島全体を襲う記録的猛暑日となったこの日。

頭部から伝ってくる汗を拭いながら私は、それでも何とかなるのだろうと、まだどこか楽観的な気持ちでヨシさんの元へと駆け寄ったのです。

火口の散策〜栃木、福島連泊ロンツー④

日光市内のツーリングを終え宿で地図を開くや、次なるルートを考えます。

 

実は、今回のツーリングはそこまで綿密に計画を立てていませんでした。

初めての連泊ロンツーで自分の体力も読めなかったため、状況や気分次第で行き先を柔軟に変更しようと思っていたのです。

もし疲れたならば、適当に切り上げて帰ることも想定していました。

 

そのため明日以降の予定は未定。

さてどこへ行こうかなと考えを巡らせます。

場所的には群馬が近いかなと思いました。

群馬も、林道ツーリングでしか行ったことがないため見どころが沢山あります。

 

ですが私は、福島にも惹かれていたのです。

福島の猪苗代湖は是非とも見たいと思っていました。

猪苗代湖まででしたら、ここからそう遠い距離ではありません。

福島は自宅からですと距離もありますし、冬は積雪や凍結もしてしまう地域のため、この機会を逃すと行けなくなるかもしれません。

 

「よしっ!」

行き先は福島へと決定しました。

 

 

 

3日目の朝──。

国道4号線を進んで県境を超えます。

福島県内です。

東北地方のツーリングは初めて。

それだけで気分が高揚しました。

 

国道294号線に入り、やがて県道9号線と交わります。

「おぉっ」

進んでいくと、キラキラとゆらめく水の広がりが見えて来ました。

猪苗代湖です。

県道9号線は、猪苗代湖のすぐ隣を走れる道でした。

よく晴れた空を、猪苗代湖の水面が映し出しています。

 

 

バイクを停めて湖畔を散策です。

水着で泳いでいる家族連れもいました。

この日の気温は35℃超え、天気も快晴で、その分真夏の陽射しが照りつけます。

確かに泳いだら気持ち良さそうだなと思いながら、水の中へと手を浸します。

 

冷たい水が火照った掌に心地よく絡みついてきました。

 

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海と違って波や水の塩辛さもなく、川と違って流される心配もありません。

小さい子供たちがキャッキャ言いながら水浴びしている様に和みました。

 

 

バイクに跨り出発です。

 

湖畔沿いを走っていると道の駅の標識があったので立ち寄ることにします。

『道の駅 猪苗代』でバイクを駐輪させ、水分補給とトイレ休憩を取りました。

 

ふと、道の駅構内にあるパンフレットに目が止まります。この辺りはそば処なようで、色々なお蕎麦屋さんが紹介されていました。

「お蕎麦…」

 

もうすぐお昼時です。

せっかくだから食べて行こうと思いました。

何処のお蕎麦屋さんにしようかと、そのパンフレットを手に取り吟味します。

十割蕎麦を謳ってる所がいいと思い、1軒のお蕎麦屋さんに決めました。会津産のそば粉を100%使ってるという情報が決め手でした。

 

そこまでのルートを調べ向かってみます。

 

そのお蕎麦屋さんは人気店なようで車が沢山停まっており、順番待ちの人達が店の外にまで溢れていました。

 

ですが店員さんに一人だと告げると、すぐに席へと案内して貰えました。

私は順番待ちしている方々に会釈しながら店内へと足を踏み入れます。

 

一人の身軽さは、こういう時有利に働くものです。

 

 

やがてやって来た、ざる蕎麦と天ぷら盛り合わせ。

 

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風味豊かなお蕎麦と、サクサクの天ぷらに舌鼓を打ちます。

 

 

食事を終え、国道115号線を更に進みます。

 

ふと目に入った遥か向こうに聳える山の、存在感に圧倒されました。山のてっぺんにだけ緑がなく、土のような色がさらけ出されていたのです。

「凄い!  景観だなぁ」

 

 

徐々に、街中から山道へと移り変わります。

そして県道70号線に入りました。

日本の道100選』のゲートをくぐり、いよいよ始まります。

 

 

磐梯吾妻スカイライン』です。

 

 

なんて美しい道なんだろうと思いました。

そして、他の時期も見てみたいとも。

今は夏なので草木か深く生い茂っていますが、これが新録なら? 紅葉していたらどうなんだろうと、この道の色んな表情を想像してしまいます。

 

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更にワインディングを進むと、先程目にしたあの山に迫ってきていました。

 

 

 

『浄土平ビジターセンター』の駐車場へ入ろうとする、車やバイクが列をなしていました。

料金所で駐輪代を払いバイクを停めます。

 

 

そして見上げました。

 

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『吾妻小富士』です。

吾妻小富士は、福島県福島市にある標高1,707mの吾妻連峰の一つで、すり鉢状の大きな火口があります。麓の福島市側から見るとそれがあたかも小型の富士山のように見えることからこの名が付いたそうです。

 

階段で山頂まで上れるようなので、迷うことなく上って行きます。

 

階段は丸太で作られていましたが、それが朽ちていたり不揃いだったりで、歩くのに注意が必要でした。

小石や土も滑りそうです。

階段の長さと急斜面の上り、夏の暑さも相俟って汗だくになります。

 

 

「わぁ!」

最後の1段を上がり切ると、一気に景色が広がりました。

 

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火口の上は歩けるようで、たくさんの人が歩いていました。

 

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まさか歩けるとは思わなかったので、はしゃぎながら歩き進めます。

 

 

ここまで階段を上って来た時とは想像もつかないほどに、涼しく心地いい風が吹いています。

無数のトンボが飛び交っていました。

 

 

火口の上を歩く。

それも、バイクに出逢ったことで実現出来た、人生初の経験でした。

チャレンジのいろは〜栃木、福島連泊ロンツー③

大笹牧場を後にして走り出すと、山あいの向こう側から白い靄(もや)が発生しています。

霧が濃いなぁと思い見てましたが、よく観察するとそれは雲のようでした。

雲海が出来つつあります。それはそれで美しい光景でした。

先程までくっきりと景色が見れていましたが、沸き起こる雲たちが波のように流れています。

 

 

『栗山日光線』のワインディングを爽快に走り進めます。

山を下りきって県道247号線に合流する交差点に差しかかるや、驚きの声を上げることに。

「えっ、マジでか…」

 

青信号にも関わらず、合流する道の向こう側がひどく渋滞しているため全く進めないのです。

 

 

日光は混んでいる──。

それは聞いてはいたのですが、まさかここまでとは思いませんでした。

 

お盆休みの真っ只中、普通に考えれば混雑は当たり前なのですが、今年は新型コロナウィルスの影響もあり、どうなっているのか予想が付かなかったのです。

例年ならば大渋滞するという高速道路もスムーズに走行出来ていたのもあり、一種の賭けで日光の街中までやって来ました。

でもやはり、人気の観光地は変わりない混雑ぶりなようでした。

 

前が詰まっているため動きたくても動けず、なのに容赦なく夏の陽射しは照りつけます。

停車とノロノロ運転との繰り返しに、バイクのエンジン熱がブーツやパンツの布越しに伝わってきました。

「暑い…。とにかく走りたい」

でも耐えるしかありません。

免許取得後の初めての夏──。

この時私は、真夏のバイクの過酷さを痛感したのです。

 

 

ですが混雑もその筈で、そこはかの有名な『日光東照宮』のすぐそば。

世界遺産にもなっているほどの寺院です。

世が世なので外国人観光客こそいないのでしょうが、やはりこの連休で全国から押し寄せて来る人達は多いのかもしれません。

 

もし空いていたら東照宮を見たいと思っていましたが、その混雑ぶりからそれは諦め先へと進みます。

 

 

なんとか渋滞を抜け122号線を更に進み、『細尾大谷橋』を直進するや国道120号線に変わりました。

ここで対向車線が見えなくなります。

対向車、つまり下りの車は別のルートを走るのです。

大きくカーブして山を登っていきます。標識には『い』の文字が。

 

 

そう、『いろは坂』の始まりです。

 

 

いろは坂』とは。
日光市街と中禅寺湖・奥日光を結ぶ観光道路です。
下り専用の第一いろは坂と上り専用の第二いろは坂の二つの坂を合計すると48か所もの急カーブがあることから「いろは48文字」にたとえてこの名がつきました。
カーブごとに「い」「ろ」「は」・・・の看板が表示される急坂が続きます。

 

道そのものは普通の山道なのですが、上りと下りでルートがわかれ対向車もなく片側二車線なことにより、逆にゆったりとした気持ちで運転することが出来ました。

私の運転がたとえ遅くとも、隣の車線から追い抜いてもらえるのです。

 

いろは坂は、交通量はそこそこあるものの、片側二車線の走りやすい山道──。

 

この時私が抱いたいろは坂への印象は、ただそれだけでした。

 

 

明智平展望台』でバイクを駐輪して休憩を取ります。

 

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男体山が望めました。

ロープウェイに乗っている人達が、満面の笑みで手を振ってくれます。

 

売店があったので、またもここで腹ごしらえです。

 

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名物だという明智だんごも気になりますが、えびの湯葉巻きも捨て難く…。

私にはどちらかを選ぶことなど出来ず、両方食べることにしました。

 

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明智だんごは大きめお餅に甘辛の醤油たれが付いており、表面の焼き目を噛み進めると柔らかさと醤油の旨味が口に広がりました。

えびの湯葉巻きは焼き上げた湯葉の風味と、えびのプリプリとした食感が絶妙にマッチしています。

 

 

ご満悦で食べ終えるや、この先のルートを確認します。

 

華厳の滝』を見たいと思っていたのですが、交通情報によるとその近辺の道もひどく渋滞しているようでした。

滝は昨日ヨシさんの案内でたくさん見たので、辞めておくことにします。

その奥にある中禅寺湖と、戦場ヶ原を目指すことに決めました。

 

走り進めると中禅寺湖が右手に見えて来ます。

県道250号線もなだらかなワインディングの楽しい道でした。

山を上っていき、やがて『中禅寺湖展望台』に到着しました。

 

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高台にあるため、涼しく心地よい風が吹いています。

 

戦場ヶ原は日光国立公園内にある高層湿原です。

広く真っ直ぐな道のすぐ脇に湿原が広がっていました。

背の低い植物が松の木のように生い茂っていたので、立ち乗りでそれを眺めながら走り進めます。

 

 

 

引き返し、再びのいろは坂

今度は下りルートです。

 

上りと同じような道なのだろうとたかを括っていましたが、最初のカーブで驚愕しました。

 

それは完全なるヘアピンカーブだったのです。

曲がりきれずガードレールを突き破りでもしたら、断崖から真っ逆さま。まず無事では済まないでしょう。

勾配もキツいため、エンジンブレーキをしっかり利かせ、リアブレーキも踏みながら進まなければたちまち加速してしまいます。

 

ですが何より怖いのは、その交通量でした。

もっと激しい峠道はたくさんあるのでしょうが、いろは坂は日本有数の観光道路であるため、他の車も至近距離でたくさん走っています。

 

もしこの急カーブで転倒でもしようものなら、真後の車から轢かれてしまう恐れもありました。

 

 

幸い、二車線分はある道幅に、車線が引かれていません。

前の車が道幅いっぱい使ってカーブを曲がっていたので、私もそれに倣うことにしました。

左カーブ、右カーブと、カーブが来る度慎重に運転します。

緊張のあまりグリップを握る掌に力がこもっていたので、意識してリラックスさせました。

 

もう何回目なのか分からなくなる程のカーブを曲がりきった直後、後ろから来たバイクが追い越して行きました。

 

凄いなぁ。よくこんな道で追い越していけるな。

 

そう感心しましたが、よく見たら周囲の車もスピードを上げ始めています。

直線が続いたことにより、ようやく私も悟ったのです。

 

終わった。

無事終わったんだ、いろは坂の下りカーブが。

 

 

安堵するとともに、一種の達成感がありました。

バイクまみれの幸せ〜栃木、福島連泊ロンツー②

ライダーズカフェ『Bobby』さんを後にし、ヨシさんがよく行くもう一つの滝を目指して走ります。

 

「そこもすごく小さな滝なんだけどね」、と前置きしながら先導してくれました。

そしてびっくりするほど真っ直ぐな道を進んで行きます。

 

「この道は何度も走ってるけど。下道でこれほどまでに真っ直ぐな道、他に知らないんだよね」

「確かに! まるで高速道路だね〜」

 

直線の長い道は他にもあるのでしょうが、大抵途中で緩やかなりともカーブがあるものです。

でもこの通りは、何km先をも見通せるほどの、ひたすら真っ直ぐな道路でした。

 

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標識によると、『ライスライン』という通りのようでした。

そこから右折し、県道192号線に入ってほどなくして到着します。

 

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『不動の滝』です。

ヨシさんから案内されなければ、とても気付けなさそうな所に階段がありました。

降りて行くと、目の前で滝が流れ落ちています。

 

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「ここは小さいんだけど、ホントに滝のすぐ近くまで行けるんだよね」

「うん、ホントだね〜」

流れる水は澄んでいました。

陽射しも明るく入り込み、水音だけが響き渡ります。

 

 

「ちょっと探検してみる?」

「うん! そうしよう」

バイクに跨り出発です。

 

 

ヨシさんのツーリングの仕方は独特です。

常にナビは作動させているのですが、大抵その通りには進みません。

ナビ画面で、現在地周辺の地図を見ながらあちらの道が楽しそう、そちらの道から通り抜けられる、と情報を読み取り、そこから判断して好きにバイクを走らせるのです。

『ナビ=目的地までの道案内』という固定概念を持っていましたが、物は使いようなのだということを、ヨシさんと走ることで知りました。

 

そうして横道に入り混むや、バイク一台通るのがやっとの細さになります。所々、砂利や土か散らばっていました。

「ちうさん大丈夫〜?」

「うん、このくらいなら全然」

実際、林道より遥かに走りやすく整備された道でした。

「さすがオフ車乗り」

「まぁね〜。でもこれ、この先行き止まりにならないかな?」

さすがにこの細さで行き止まりになったら、Uターン出来る自信がありませんせんでした。

ヨシさんがナビ画面で地図を確認してから答えます。

「大丈夫、通り抜けられるみたいだよ」

 

そうして何度か道を折れ、とある廃墟の前でバイクを停車させます。

 

「人、住んでるのかな?」

「窓ガラスが割れてるし、これは住んでないと思うよ」

降車してじっくりと眺めます。

廃墟巡りが好きなヨシさんは、こういう家屋を見るとじっと観察してしまうそうです。

そして、その建物の最盛期はどんなだったのか、どのようにして使われどんな経緯があり廃墟になったのか、思いを巡らせるのだとか。

 

「こんな所に住んで、生活はどうしてたんだろうね?」

周囲にはコンビニはおろか民家もありません。トラックが入れるような大通りすら近くにないのです。

「ホントだね〜。買い物とか、通院とか。ちょっと出掛けるのも大変そう。電気は通ってたのかな?」

私が言うと、

「多分通ってたと思うよ」

部屋の奥に見える、割れたブラウン管テレビを指差しながらヨシさんが応えます。

「なるほど。でも、どんな生活してたんだろうねぇ」

 

 

他所の土地での、どなたかの生活様式──。

私の生活は私にとっては当たり前の日常ですが、ほんの少しバイクを走らせれば、私には思いもよらない日常を送っている人にも出逢えるのでしょう。

 

 

 

「じゃあ」

「うん、気を付けて〜」

手を振ってヨシさんが帰って行きました。

それを見送り、私もバイクを走らせます。

 

走りながら、陽が沈みかけた田園の中を突っ切って行きます。

 

まだ帰らなくていいんだ。

 

その思いが、なんとも言えない多幸感を込み上げさせます。

 

まだバイクに乗っていていい。まだ色んな道や景色を堪能していい。

それはなんと贅沢で有難い事なんでしょう。

 

 

 

宿に着き、一夜明けての翌朝。

二日目です──。

朝の涼しい風を感じながら出発です。

 

 

国道4号線を突き進みます。

複数車線の広い緩やかな道ですが、両側に山が広がり景色を楽しむことも出来ました。

県道63号線『藤原宇都宮線』を進み、国道121号線に合流して鬼怒川沿いを走ります。

 

龍王峡を超えた辺りから、車通りが多くなってきました。

日光市です。

もちろん日光の名前は知っていましたが、私は初めて来ました。

どんな所なのかと、一気にテンションが高まります。

県道169号線『栗山日光線』はつづら折りの続く楽しい道でした。

山々の連なりを眺めながら勾配を上っていきます。

 

 

そうして到着した『霜降り高原 大笹牧場』。

駐輪場は坂を下りた先にあるようなので下って行くと、驚くほど多くのバイクが停められていました。

どうやらここはツーリングスポットのようです。

 

セローを駐輪して上がって行くと、美味しそうな食べ物がたくさん売られています。

 

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羊肉の串焼きは、羊独特の臭みがほとんどなく、脂も乗っていました。

 

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牧場と言えばソフトクリームだと思い、ソフトクリームの販売窓口に並びます。

一口食べるや、濃厚なクリームが口の中で蕩けていくのを感じました。

採れたての牛乳を使っているのでしょう。その濃厚さは牛乳というより、むしろ生クリームに近い味わいでした。

 

 

水分補給をしながら休憩です。

その間にも、色々なバイクが敷地内に入って来ています。

人気のツーリングスポットなんだなぁ。

しみじみそう思いながら、確かに、ここまでの道は楽しかったもんなぁと微笑みます。

 

ですが、日光にはまだまだ楽しい道があったのだということを、このすぐ後に実感したのでした。

モチっとジューシー〜栃木、福島連泊ロンツー①

ここ数ヶ月、仕事が多忙を極めていました。

 

休日出勤によりお休みは週一日のみ。

平日は当然のように残業があり、それだけでは飽き足らず早出出勤までもがある始末。

帰宅してから家のことだってあります。

朝から晩まで働き、夜は明日に備えて泥のように眠る──。

そんな日々でした。

 

 

ですが、そんな仕事も夏季休暇はきっちり連休が貰えるのです。

その連休中、ちょっと遠くまでツーリングに行こうと、ワクワクしながら過ごして来ました。

 

 

どこがいいかと地図を眺め、まずは栃木県にしようと決めたのです。

栃木は関東で唯一、まだ行っていない県でした。

栃木と言えば、やはり日光が有名です。

でも、どうせならば他の地域も見てみたい。なんせ今回、時間はたっぷりあります。

「あ」

そして那須塩原の地名を目にして、ピンと来るものがありました。

 

 

 

「おはよう」

「おはよー、いい天気だねぇ」

連休初日の早朝、待ち合わせ場所でヨシさんと挨拶を交わします。

お互いバイクに跨るや、高速道路に乗って那須塩原を目指しました。

「あそこ、11時オープンだからこのままだとだいぶ早く着いちゃうかも」

ヨシさんが言います。

「あ、そうなんだ? なら先に他の場所に寄ってく?」

「そうしよっか」

 

那須塩原と言えば、ヨシさんがよく行っているライダーズカフェがあります。

ヨシさんは仕事でそちら方面へ向かった際、そのカフェに立ち寄っているらしく、しょっちゅうそのお店の写真をSNS上にアップしていました。

それを目にして、私もいつか行ってみたいと思っていたのです。

今回の連泊ロンツー最初の場所は、是非そこにしようと決めました。

ヨシさんにそう持ちかけたところ、一緒に行っていただけることになったのです。

 

 

高速道路で200km以上を走り抜け、矢坂インターで降ります。

給油を済ませるや、県道161号『下河戸片岡線』を進みました。

片側一車線の和やかないい道です。

「わぁ〜。初めての栃木〜」

感無量で走り進めます。

 

 

田園の中を突っ切る真っ直ぐな道を進みます。

「この辺り、田んぼが広がっているけど。ふっとああいう林があって」

ヨシさんが遠くに見える林を指さします。

「今から行く滝も、そういう所にあるんだ」

「へぇ〜。この辺りは平坦だし、滝があるようには見えないね」

「うん、そうなんだよね。それが面白くて。まぁ、小さな滝だけど」

 

滝を見るのが好きだから、ソロだとつい見に行っちゃうと話したところ、ヨシさんも滝が好きなのだと教えてくれました。

ただしヨシさんの場合は有名な滝ではなく、ひっそりと流れる静かな滝が好きなのだとか。

 

 

「あ、ここだ」

のどかな細いあぜ道を進み、道脇にバイクを停めます。

 

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林は見えど、滝の姿も流れる音すらも聞こえてきません。

 

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林の奥の細道を歩き進めると、水の音が細く聞こえてきます。

木々の間を降りると、滝がひっそりと流れ落ちていました。

 

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「昨日雨が降ったのかな。流れがいつもより激しいな」

「そうなんだ?」

「うん」

滝は見に行く度に違う表情を見せるのだとか。それが見たくて、何度も足を運んでしまうのだそうです。

 

僅かに風が運んでくる霧状の水しぶきを浴びながら、私達はしばしその滝を見入りました。

 

 

 

県道259号線から少し外れて進んだ先に、そのカフェはありました。

 

『ridersCafé Bobby』さんです。

いつもなら賑わうそうですが、まだ開店30分前なのでバイクが一台も駐輪されていません。

私とヨシさんは奥に並べて駐輪させ、お店の向かいにある車両の建物に入っていきます。

 

テーブルのようなものにお湯が張られてあります。手を浸して温める『手湯』だそうです。

 

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お店の外観を眺めながらお湯に浸かることが出来ます。

 

「ヨシさん、どうぞ〜。店に入っていいですよ〜」

お店から出てきた女性がそう声をかけて下さいました。

「あ、そうですか。ありがとうございます」

ヨシさんがそう言って腰を上げたので、私もそれに倣います。

 

店内に足を踏み入れると、お洒落な空間が広がっていました。

 

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カウンターで紙に書いて注文する形式のようです。

「ちうさん何にする?」

ヨシさんが紙とペンを持ち聞いてきます。

「う〜ん、何がオススメ?」

「やっぱり、バーガーかなぁ」

「じゃあバーガーで!」

「ビッグサイズ?」

「こらこら」

最近、私の食い意地をヨシさんから把握されつつありましたが、さすがに初めてのお店なので普通サイズのものにしました。

 

ヨシさんは少し迷いながらも、大きめフランクフルトが二本も入っている特大サイズのフランクバーガー、『ネプチューン』を注文。

 

「あ、ちうさん食べるの手伝ってね!」

「うん、分かった」

少食なヨシさんは食べ切れるか自信がなくて、毎回気になりつつも注文出来ずにいたのだとか。

今回は私がいるため、ようやく注文出来たようでした。

 

 

ヨシさんが店主や奥様方と挨拶を交わしています。

ただの『店員とその客』というだけでなく、こういった心の交流も持てるのは、ライダーズカフェならではだと思いました。

やり取りから、お店の方々のお人柄も伺えます。

ヨシさんの嬉しそうな表情を見て、微笑ましく感じました。

 

やがてやって来たバーガーとフランクバーガー

 

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「わぁ〜、美味しそう!」

持ち上げると、バーガーバンズの豊かな小麦の香りが鼻腔をくすぐりました。

「パンの香りが豊かだね」

「そうそう。ここ、パンも美味しいんだよね」

「へぇ〜」

 

「いただきまーす」

声を揃えてかぶりつきます。

ジューシーな肉の食感と、香り豊かなパンの旨味とが口いっぱいに広がります。

パンは柔らかいながらもモチっとした食感があり、肉やソースの旨味を挟み込んでいるのです。

一口噛むごとにそれらが溢れ出てきます。

「美味しっ。これはホントに美味しい」

食べ進めるほどに食欲が増し、バーガー1個をペロリと平らげてしまいました。

 

「ちうさん、はい」

ヨシさんが自分のフランクドッグをちぎって分けてくれました。

その量、ほぼ半分。

「おぉ、ありがとう」

有り難く頂戴します。

「あ〜!こっちも超美味しい!」

ジューシーで極太なフランクフルトを、やはり風味豊かなパンで挟んであります。

そちらも綺麗に平らげてしまいました。

 

 

やがてやって来たお客様の中に、ヨシさんのフォロワーさんがいたらしく、しばしお話しされていました。

こういった客同士の交流が持てるのも、同じバイク趣味同士が集うライダーズカフェならではなのでしょう。

 

 

「じゃあ、ご馳走さまでした」

ヨシさんがカウンターの向こう側に声を掛けます。

「え、もう行っちゃうの?」

店主がそう応えていました。

「えぇ、はい…」

ヨシさんが曖昧に応えます。

「ご馳走さまでした。また遊びに来ます」

私がそう言うと、笑顔で手を振ってくれました。

 

バイクを出す時、わざわざ店の外に来てまで手を振って送り出して下さいました。

 

振り返しながら私は、来て良かったなぁと思えました。

 

「ところでヨシさん? 食べてすぐ出たけど、いつもはもっとゆっくり過ごしてるんじゃ?」

今日はカフェで、もっとゆっくりさせてもらう予定でした。

「ご、ごめん…。なんか『自分の行きつけ』に人を連れて行ったのが妙に恥ずかしくて」

「そっか。もうちょっとお話ししたかったなと思って」

お店の方々とも他のお客様とも、ほぼ話せず出てきてしまったのが心残りでした。

「ごめん、ごめんね」

「ううん〜。まぁ、また行くよ」

 

 

また来たい──。

そう思える場所が、また一つ増えました。

それは心躍るあたたかな感覚でした。

美の曲線〜清水、アートツーリング 後編

日本平を後にし、売店の店主がオススメしてくれた場所へと赴きます。

 

『清水日本平パークウェイ』のなだらかなワインディングを下り、国道150号線、別名『しみずマリンロード』へと入ります。

「風が気持ちいい〜」

「そうだね〜。それに、磯の香りがする」

潮風が気持ちよく吹く道を爽快に走り抜けます。

 

やがて到着したのは、清水港に隣接されている清水魚市場「河岸の市」の『まぐろ館』──。

 

まぐろ館は日本一のまぐろ水揚げ量を誇る清水魚市場の直営店で、新鮮なまぐろを楽しむことが出来る飲食店街です。

案内された駐輪スペースには、バイクがたくさん停められていました。

館内には沢山の店舗が建ち並んでおり、店員さん達が店頭で呼び込みをしています。

 

「活気があるねぇ」

「うん。どこのお店にする〜?」

各店舗が店頭に出しているメニューを見て歩きますが、どこも美味しそうで今ひとつ決め手に欠けました。

「う〜ん、何処にしようかね? 多分どこも美味しいだろうから、深く考えず目に止まったお店でいいと思うよ」

ヨシさんが言うので、

「よし! じゃあここにしよう」

目の前のお店に決めました。

 

 

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注文し、出てきた海鮮丼はとても新鮮で、舌が蕩けそうなほどに美味でした。

 

館内にはソフトクリームなども販売されていたのですが、

「まぁ、いただいた冷凍みかんがあるし」

と言い合い、辞めておくことに。

バイクに積んでいた冷凍みかんは、ちょうどいい半解凍状態になっていました。

 

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デザートにはうってつけです。

 

 

食事も終え、いよいよ本日のメインイベント、美術館へと向かいます。

 

そこから美術館までは近かったのですが、先導するヨシさんはあえて遠回りして色んな道を通ってくれました。

「清水の色んな道が走れて嬉しいな」

私が言うと、

「あー…。これは世に言う『迷ってる』状態?」

「迷ってたんかいっ」

でもお陰で、色んな道と色んな景色を見ることが出来ました。

 

 

そうして到着した美術館は敷地が広く、たくさんある駐車場のどこに駐輪しようかで迷ったくらいでした。

 

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広い庭園には色んな芸術作品が展示されており、それを見ながら散策するだけで見応えがありそうです。

 

館内に入ります。

新型ウィルスの影響でしょうか、展示内容が人気画家であるにも関わらず、館内は空いており、スムーズに観覧することが出来ました。

 

「凄い…。これは俺も初めて見た」

ミュシャへの思い入れが私よりずっと強いヨシさん。

全作品のポストカードも持っているそうなのですが、ミュシャのラフスケッチなども展示されていた為、さすがにそれは初めて目にしたようでした。

 

歩き進めると、ミュシャの代表作が立ち並ぶ展示会場へと移ります。

等身大の作品は私の身長程あり、見るほどに惹き付けられました。

ミュシャならではの美しい曲線と優美な世界観を存分に堪能します。

「まさかこの作品を、生で見れる日が来るとは…」

隣でヨシさんが感嘆の声を漏らしていました。

 

 

有名な画家の作品は画集を見れば載っています。

でも、やはり生の作品は訴えかけて来るものが違うのです。

私がわざわざ観覧料を払ってまで美術館に出向くのもその為で、それは以前からやっていたことでした。

 

ですが、こういった地方の美術館となると公共交通機関で行くのは難しく、例え惹かれる展示企画をやっていても見に行くのは諦めてきました。

バイクを手にしたことで、こうして気軽に見に来ることが可能になったのです。

その幸せを、改めて実感します。

 

 

「うわぁ〜。もうこんな時間か」

「ね〜。結構じっくり見たよね」

バイクの元に戻る頃には17時前になっていました。3時間以上は観覧していたことになります。

 

本当は売店の店主がオススメしてくれた所へ行こうかと話していたのですが、美術鑑賞が思いの外かかってしまったので帰路につくことにしました。

 

 

「あ〜、やっぱり富士山は見えないか」

本来ならば富士山が間近に見えるはずなのに、とヨシさんが嘆きます。

往路同様に、雲がかかっていて富士山を拝むことは叶いませんでした。

「まぁ、また来いということなんだよ」

私が言うと、ヨシさんが笑いながら同意します。

 

 

雲行きが怪しいと思ったら、御殿場の辺りで雨に降られました。

「全く。一日快晴というわけにはいかないのか」

雨男のヨシさんがそう零します。

高速道路で横殴りの雨に打たれながら、今日一日のツーリングを振り返りました。

 

 

日本平の展望台から眺めた景色も美しく、久能山東照宮は素晴らしい建造物でした。

海の幸に舌鼓も打ちました。

そして、美術展──。

どんな展示でも、一生ものの財産として心に刻まれますが、ツーリングと絡めて行けたのは初めてです。

自分自身のバイクで出向き、それが観覧出来たのです。その自信までもが漲ります。

 

前方を走るヨシさんに目を向けます。

「この辺り、カーブだから気を付けて」

「はーい」

高速道路とはいえ、カーブやアップダウンが続くため、事故の多い区間なのだとか。

 

今日当たり前のように高速道路に乗りましたが、高速道路はまだ数える程しか走っていないのです。

今、雨に打たれながら何の抵抗もなく走行出来ているのも、ヨシさんがアドバイスしながら先導してくれているお陰なのでしょう。

気が付けば、以前より恐怖心もなくスピードが出せるようになっていました。

 

今日のツーリングで体験出来たこと全てに感謝しようと思いました。

今、私や路面に降り注いでいる雨にすらも。

「ヨシさんといると、空の色んな表情も体験出来て楽しいよ」

「おっ、いい表現するね〜。覚えておこっと。えっと、『空の体験…色んな』」

「空の色んな表情。を体験ね」

「なるほど」

こりゃ3日後には忘れるな。

私がそう言うと、

「何を言う。3秒後には忘れてるよ!」

「ダメじゃん」

 

ならば全てをブログに書いてやろうと思いました。

自らのバイクで出向き、じっくり鑑賞した美しき絵画たちの記憶も含め──。

 

 

これからも相棒セローと共に、私ならではのツーリングを楽しんで行こうと改めて決意したのでした。

梅雨も明け〜清水、アートツーリング 前編

ミュシャ展』の情報を得たのは、梅雨のシーズン真っ只中でのことでした。

 

ミシャといえばアール・ヌーヴォーを代表する画家の一人。

星、花、宝石、植物など、様々な概念を女性の姿を用いて表現する独特のスタイルが特徴で、私の好きな画家の一人でもあります。

 

その展示があるのは静岡県立美術館──。

地図を見ると、美術館近辺には色々なツーリングスポットがありました。

これは行かねばと思ったのです。

 

ツーリング計画を立てながら、そういえばヨシさんもミュシャが好きだと言っていたことを思い出します。

前回のツーリングにおいて、美術館であれほど熱心に鑑賞をしてくれていたヨシさんです。お誘いすれば来てくれるのではと思いました。 

 

「おぉ〜、それは是非とも行きたい」

案の定そう応えていただけました。

 

ですが、あまりの悪天候により中止にしたり、別の地域へのツーリングへと変更したりしていました。

 

 

『雨雲を呼ぶ男〜勝浦、雷雨ツーリング』↓

https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/07/28/064631

 

 

 

8月最初の日曜日、めでたく梅雨も明け、ようやく決行の運びとなったのです。

 

 

待ち合わせ場所でヨシさんと落ち合うや、高速道路に乗って出発です。

 

「いやぁ、晴れて良かったねぇ」

「ホントだね〜。久々にいい天気で嬉しいな」

 

青空が広がり、陽射しもあたたかです。

東名高速道路は空いており、快適な走行が楽しめました。

 

ヨシさんは高速道路の運転にまだ慣れていない私に合わせ、90kmくらいの速度で運転してくれます。

「東名は景色が綺麗だよね」

「うん、そうだねぇ」

道が山の間を縫うように作られているため、その景色を堪能しながら走ることが出来ます。

 

ですが雲が多いためか、富士山を望むことは叶いませんでした。

 

以前東名を走った時には富士川インターまでだったので、その後の景色は知りませんでした。

富士川インターを通り過ぎるや、途端に海が広がったので驚きます。

「高速走りながら海が望めるって最高の贅沢だよね」

ヨシさんが言ったので同意しました。

今日の海は真っ青で波も静かです。

その真隣を走ることが出来るだなんて、確かにとても贅沢なことだと思いました。

 

「ちうさん、前の車抜くね」

「あ、うん」

前を走る車があまりに遅かったため、追い抜きをかけるようでした。

高速での追い越しは初めてです。

隣の車線に移り、一気に加速します。

「追い抜く時には、しっかりアクセル回して加速すること」

「はい」

追い抜き、元の車線に戻ります。

「抜いた後も、しばらくはスピード緩めない方がいいよ」

「うん」

「後ろが詰まっちゃう事があるから」

「なるほど、分かった」

 

やがて清水ICで高速を降り、下道で向かいます。

今度はなだらかな山道を進んで行きました。

「ここは程よいカーブで走りやすいね」

「そうだねぇ」

確かに。程よいカーブが続き、なだらかな坂を登っていきます。

 

 

やがて到着した『日本平』。

日本平は、静岡市駿河区清水区の境界にある丘陵地です。

 

まだ朝の8時半過ぎだと言うのに、駐車場には既にたくさんのバイクが停まっていました。

 

展望台まで歩き、景色を眺めます。

伊豆半島駿河湾越しに見え、北には赤石山脈も望めます。眼下には清水区の街並みと清水港が広がっています。 

本来ならば富士山も見えるそうなのですが、残念ながらその日は雲が掛かっていて見えませんでした。

 

「綺麗だねぇ〜」

すっかり夏の陽射しの照りつける季節となりましたが、そこでは涼しい風が吹いていました。

しばしその景色を堪能します。

 

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「ところで。ちうさんの立てたツーリングプランだと、この後すぐ美術館に移動することなってたけど…。東照宮は見ないの?」

「とうしょうぐう?」

 

美術館ありきで立てた今回のツーリング計画、近辺のツーリングスポットは軽く調べただけでした。

今ヨシさんから言われた単語も、咄嗟に漢字変換出来ずにオウム返ししてしまったのです。

 

久能山東照宮日光東照宮の原型となったとこ。ここからロープウェイで行けるんだけど…」

「え、行きたい!」

せっかくここまで来たのなら、どうせならそこも見たいと思いました。

その後のスケジュールは変更して、まずは『久能山東照宮』まで足を伸ばすことにします。

 

 

ロープウェイの往復チケットを購入し、案内に従いロープウェイに乗ります。

扇状に連なる山々を見下ろしながらロープウェイを進みました。

ロープウェイを降りるや、脛くらいまである高さの階段を登って行きます。

 

 

久能山東照宮は、徳川家康公が祀られている東照宮の元祖であり、静岡で唯一の国宝建造物として知られているそうです。

それ程までに由緒ある場所なのですが、まだ時間が早い為なのか、はたまたコロナのせいなのか、空いていました。

 

「うわぁ…」

まず、鮮やかな色彩の門に圧倒されます。

『楼門』です。

 

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 更に登り、『御社殿』に到着します。

 

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まだ金色に輝いており、装飾も艶やかで威厳がありました。

感嘆の声を上げながら見入ります。

こちらは国宝だそうです。

丁寧に参拝し、先へと進みます。

『廟所参道』を歩き進め、『神廟』にたどり着きました。

ここは御祭神徳川家康公の御遺骸を埋葬し奉った所で以前は御宝塔と称えられていたそうです。

逆光のため写真は撮れませんでしたが、厳粛な気持ちになる場所でした。

 

 

その後、博物館を見て回り、休憩を取ります。

気温は30度を超え、つい先日までの梅雨はどこへやら、急に暑さが感じられました。

「ちうさん、大丈夫? 暑さにやられてない?」

日差しを避けて水分補給をしながら、ヨシさんが聞いてきます。

「うん、暑さは大丈夫なんだけど…」

しばし躊躇い、切り出します。

「お腹が空いた」

ヨシさんは笑いながら、

「じゃあ何か食べようか」

と応えてくれました。

 

 

ロープウェイで戻ってすぐの所に売店がありました。

そこで販売されていた、エビ饅頭を注文します。

「暑いだろうけど、揚げたてが美味しいから」

と揚げ直して下さいました。

 

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「お二人はどこから来たんですか?」

店主らしき男性の質問に、ヨシさんが自分の居住地を答えます。

「あ、でも親は静岡出身なんです」

ヨシさんの言葉に相好を崩しました。やはり地元繋がりの人が来るのは嬉しいのかもしれません。

「天ぷら、揚げたから食べてって」

店頭に立っていたお婆さんがわざわざ天ぷらを揚げてくれました。

「すみません、ありがとうございます」

有難く頂戴するや、揚げたてのエビのかき揚げが口いっぱいに広がりました。

その後、地元の方しか知らない観光名所や美味しいお店を教えて下さいます。

バイクで来たと言ったら、バイクでのルートまで事細かにレクチャーしてくれました。

 

「じゃあお昼ご飯はそこに行こうか」

「うん、そうしよう」

私たちがそう話していると、

「あ、冷凍みかんあるから持って行って」

店主が出して来てくれました。

「えぇっ? ありがとうございます」

2個の冷凍みかんを受け取ります。

「まだカチカチだから、ちょっと解凍させてから食べるといいよ」

「すみません、すっかりご馳走になっちゃって」

「いやいや。道中お気を付けて」

手を振って送り出して下さいました。

 

 

バイクの元に戻り、出発の準備です。

「とりあえず、ご飯にしよう」

「うん、そうしよう」

「ちうさんの腹ごしらえも済んだことだし」

笑ってしまいます。

確かに、ご飯の前に軽く腹ごしらえしてしまいました。

でもそのお陰で、素敵な出逢いもありました。

手にしたみかんはひんやりと冷たかったのに、心はじんわり温かくなったのでした。