アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

モチっとジューシー〜栃木、福島連泊ロンツー①

ここ数ヶ月、仕事が多忙を極めていました。

 

休日出勤によりお休みは週一日のみ。

平日は当然のように残業があり、それだけでは飽き足らず早出出勤までもがある始末。

帰宅してから家のことだってあります。

朝から晩まで働き、夜は明日に備えて泥のように眠る──。

そんな日々でした。

 

 

ですが、そんな仕事も夏季休暇はきっちり連休が貰えるのです。

その連休中、ちょっと遠くまでツーリングに行こうと、ワクワクしながら過ごして来ました。

 

 

どこがいいかと地図を眺め、まずは栃木県にしようと決めたのです。

栃木は関東で唯一、まだ行っていない県でした。

栃木と言えば、やはり日光が有名です。

でも、どうせならば他の地域も見てみたい。なんせ今回、時間はたっぷりあります。

「あ」

そして那須塩原の地名を目にして、ピンと来るものがありました。

 

 

 

「おはよう」

「おはよー、いい天気だねぇ」

連休初日の早朝、待ち合わせ場所でヨシさんと挨拶を交わします。

お互いバイクに跨るや、高速道路に乗って那須塩原を目指しました。

「あそこ、11時オープンだからこのままだとだいぶ早く着いちゃうかも」

ヨシさんが言います。

「あ、そうなんだ? なら先に他の場所に寄ってく?」

「そうしよっか」

 

那須塩原と言えば、ヨシさんがよく行っているライダーズカフェがあります。

ヨシさんは仕事でそちら方面へ向かった際、そのカフェに立ち寄っているらしく、しょっちゅうそのお店の写真をSNS上にアップしていました。

それを目にして、私もいつか行ってみたいと思っていたのです。

今回の連泊ロンツー最初の場所は、是非そこにしようと決めました。

ヨシさんにそう持ちかけたところ、一緒に行っていただけることになったのです。

 

 

高速道路で200km以上を走り抜け、矢坂インターで降ります。

給油を済ませるや、県道161号『下河戸片岡線』を進みました。

片側一車線の和やかないい道です。

「わぁ〜。初めての栃木〜」

感無量で走り進めます。

 

 

田園の中を突っ切る真っ直ぐな道を進みます。

「この辺り、田んぼが広がっているけど。ふっとああいう林があって」

ヨシさんが遠くに見える林を指さします。

「今から行く滝も、そういう所にあるんだ」

「へぇ〜。この辺りは平坦だし、滝があるようには見えないね」

「うん、そうなんだよね。それが面白くて。まぁ、小さな滝だけど」

 

滝を見るのが好きだから、ソロだとつい見に行っちゃうと話したところ、ヨシさんも滝が好きなのだと教えてくれました。

ただしヨシさんの場合は有名な滝ではなく、ひっそりと流れる静かな滝が好きなのだとか。

 

 

「あ、ここだ」

のどかな細いあぜ道を進み、道脇にバイクを停めます。

 

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林は見えど、滝の姿も流れる音すらも聞こえてきません。

 

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林の奥の細道を歩き進めると、水の音が細く聞こえてきます。

木々の間を降りると、滝がひっそりと流れ落ちていました。

 

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「昨日雨が降ったのかな。流れがいつもより激しいな」

「そうなんだ?」

「うん」

滝は見に行く度に違う表情を見せるのだとか。それが見たくて、何度も足を運んでしまうのだそうです。

 

僅かに風が運んでくる霧状の水しぶきを浴びながら、私達はしばしその滝を見入りました。

 

 

 

県道259号線から少し外れて進んだ先に、そのカフェはありました。

 

『ridersCafé Bobby』さんです。

いつもなら賑わうそうですが、まだ開店30分前なのでバイクが一台も駐輪されていません。

私とヨシさんは奥に並べて駐輪させ、お店の向かいにある車両の建物に入っていきます。

 

テーブルのようなものにお湯が張られてあります。手を浸して温める『手湯』だそうです。

 

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お店の外観を眺めながらお湯に浸かることが出来ます。

 

「ヨシさん、どうぞ〜。店に入っていいですよ〜」

お店から出てきた女性がそう声をかけて下さいました。

「あ、そうですか。ありがとうございます」

ヨシさんがそう言って腰を上げたので、私もそれに倣います。

 

店内に足を踏み入れると、お洒落な空間が広がっていました。

 

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カウンターで紙に書いて注文する形式のようです。

「ちうさん何にする?」

ヨシさんが紙とペンを持ち聞いてきます。

「う〜ん、何がオススメ?」

「やっぱり、バーガーかなぁ」

「じゃあバーガーで!」

「ビッグサイズ?」

「こらこら」

最近、私の食い意地をヨシさんから把握されつつありましたが、さすがに初めてのお店なので普通サイズのものにしました。

 

ヨシさんは少し迷いながらも、大きめフランクフルトが二本も入っている特大サイズのフランクバーガー、『ネプチューン』を注文。

 

「あ、ちうさん食べるの手伝ってね!」

「うん、分かった」

少食なヨシさんは食べ切れるか自信がなくて、毎回気になりつつも注文出来ずにいたのだとか。

今回は私がいるため、ようやく注文出来たようでした。

 

 

ヨシさんが店主や奥様方と挨拶を交わしています。

ただの『店員とその客』というだけでなく、こういった心の交流も持てるのは、ライダーズカフェならではだと思いました。

やり取りから、お店の方々のお人柄も伺えます。

ヨシさんの嬉しそうな表情を見て、微笑ましく感じました。

 

やがてやって来たバーガーとフランクバーガー

 

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「わぁ〜、美味しそう!」

持ち上げると、バーガーバンズの豊かな小麦の香りが鼻腔をくすぐりました。

「パンの香りが豊かだね」

「そうそう。ここ、パンも美味しいんだよね」

「へぇ〜」

 

「いただきまーす」

声を揃えてかぶりつきます。

ジューシーな肉の食感と、香り豊かなパンの旨味とが口いっぱいに広がります。

パンは柔らかいながらもモチっとした食感があり、肉やソースの旨味を挟み込んでいるのです。

一口噛むごとにそれらが溢れ出てきます。

「美味しっ。これはホントに美味しい」

食べ進めるほどに食欲が増し、バーガー1個をペロリと平らげてしまいました。

 

「ちうさん、はい」

ヨシさんが自分のフランクドッグをちぎって分けてくれました。

その量、ほぼ半分。

「おぉ、ありがとう」

有り難く頂戴します。

「あ〜!こっちも超美味しい!」

ジューシーで極太なフランクフルトを、やはり風味豊かなパンで挟んであります。

そちらも綺麗に平らげてしまいました。

 

 

やがてやって来たお客様の中に、ヨシさんのフォロワーさんがいたらしく、しばしお話しされていました。

こういった客同士の交流が持てるのも、同じバイク趣味同士が集うライダーズカフェならではなのでしょう。

 

 

「じゃあ、ご馳走さまでした」

ヨシさんがカウンターの向こう側に声を掛けます。

「え、もう行っちゃうの?」

店主がそう応えていました。

「えぇ、はい…」

ヨシさんが曖昧に応えます。

「ご馳走さまでした。また遊びに来ます」

私がそう言うと、笑顔で手を振ってくれました。

 

バイクを出す時、わざわざ店の外に来てまで手を振って送り出して下さいました。

 

振り返しながら私は、来て良かったなぁと思えました。

 

「ところでヨシさん? 食べてすぐ出たけど、いつもはもっとゆっくり過ごしてるんじゃ?」

今日はカフェで、もっとゆっくりさせてもらう予定でした。

「ご、ごめん…。なんか『自分の行きつけ』に人を連れて行ったのが妙に恥ずかしくて」

「そっか。もうちょっとお話ししたかったなと思って」

お店の方々とも他のお客様とも、ほぼ話せず出てきてしまったのが心残りでした。

「ごめん、ごめんね」

「ううん〜。まぁ、また行くよ」

 

 

また来たい──。

そう思える場所が、また一つ増えました。

それは心躍るあたたかな感覚でした。