ライダーズカフェ『Bobby』さんを後にし、ヨシさんがよく行くもう一つの滝を目指して走ります。
「そこもすごく小さな滝なんだけどね」、と前置きしながら先導してくれました。
そしてびっくりするほど真っ直ぐな道を進んで行きます。
「この道は何度も走ってるけど。下道でこれほどまでに真っ直ぐな道、他に知らないんだよね」
「確かに! まるで高速道路だね〜」
直線の長い道は他にもあるのでしょうが、大抵途中で緩やかなりともカーブがあるものです。
でもこの通りは、何km先をも見通せるほどの、ひたすら真っ直ぐな道路でした。
標識によると、『ライスライン』という通りのようでした。
そこから右折し、県道192号線に入ってほどなくして到着します。
『不動の滝』です。
ヨシさんから案内されなければ、とても気付けなさそうな所に階段がありました。
降りて行くと、目の前で滝が流れ落ちています。
「ここは小さいんだけど、ホントに滝のすぐ近くまで行けるんだよね」
「うん、ホントだね〜」
流れる水は澄んでいました。
陽射しも明るく入り込み、水音だけが響き渡ります。
「ちょっと探検してみる?」
「うん! そうしよう」
バイクに跨り出発です。
ヨシさんのツーリングの仕方は独特です。
常にナビは作動させているのですが、大抵その通りには進みません。
ナビ画面で、現在地周辺の地図を見ながらあちらの道が楽しそう、そちらの道から通り抜けられる、と情報を読み取り、そこから判断して好きにバイクを走らせるのです。
『ナビ=目的地までの道案内』という固定概念を持っていましたが、物は使いようなのだということを、ヨシさんと走ることで知りました。
そうして横道に入り混むや、バイク一台通るのがやっとの細さになります。所々、砂利や土か散らばっていました。
「ちうさん大丈夫〜?」
「うん、このくらいなら全然」
実際、林道より遥かに走りやすく整備された道でした。
「さすがオフ車乗り」
「まぁね〜。でもこれ、この先行き止まりにならないかな?」
さすがにこの細さで行き止まりになったら、Uターン出来る自信がありませんせんでした。
ヨシさんがナビ画面で地図を確認してから答えます。
「大丈夫、通り抜けられるみたいだよ」
そうして何度か道を折れ、とある廃墟の前でバイクを停車させます。
「人、住んでるのかな?」
「窓ガラスが割れてるし、これは住んでないと思うよ」
降車してじっくりと眺めます。
廃墟巡りが好きなヨシさんは、こういう家屋を見るとじっと観察してしまうそうです。
そして、その建物の最盛期はどんなだったのか、どのようにして使われどんな経緯があり廃墟になったのか、思いを巡らせるのだとか。
「こんな所に住んで、生活はどうしてたんだろうね?」
周囲にはコンビニはおろか民家もありません。トラックが入れるような大通りすら近くにないのです。
「ホントだね〜。買い物とか、通院とか。ちょっと出掛けるのも大変そう。電気は通ってたのかな?」
私が言うと、
「多分通ってたと思うよ」
部屋の奥に見える、割れたブラウン管テレビを指差しながらヨシさんが応えます。
「なるほど。でも、どんな生活してたんだろうねぇ」
他所の土地での、どなたかの生活様式──。
私の生活は私にとっては当たり前の日常ですが、ほんの少しバイクを走らせれば、私には思いもよらない日常を送っている人にも出逢えるのでしょう。
「じゃあ」
「うん、気を付けて〜」
手を振ってヨシさんが帰って行きました。
それを見送り、私もバイクを走らせます。
走りながら、陽が沈みかけた田園の中を突っ切って行きます。
まだ帰らなくていいんだ。
その思いが、なんとも言えない多幸感を込み上げさせます。
まだバイクに乗っていていい。まだ色んな道や景色を堪能していい。
それはなんと贅沢で有難い事なんでしょう。
宿に着き、一夜明けての翌朝。
二日目です──。
朝の涼しい風を感じながら出発です。
国道4号線を突き進みます。
複数車線の広い緩やかな道ですが、両側に山が広がり景色を楽しむことも出来ました。
県道63号線『藤原宇都宮線』を進み、国道121号線に合流して鬼怒川沿いを走ります。
龍王峡を超えた辺りから、車通りが多くなってきました。
日光市です。
もちろん日光の名前は知っていましたが、私は初めて来ました。
どんな所なのかと、一気にテンションが高まります。
県道169号線『栗山日光線』はつづら折りの続く楽しい道でした。
山々の連なりを眺めながら勾配を上っていきます。
そうして到着した『霜降り高原 大笹牧場』。
駐輪場は坂を下りた先にあるようなので下って行くと、驚くほど多くのバイクが停められていました。
どうやらここはツーリングスポットのようです。
セローを駐輪して上がって行くと、美味しそうな食べ物がたくさん売られています。
羊肉の串焼きは、羊独特の臭みがほとんどなく、脂も乗っていました。
牧場と言えばソフトクリームだと思い、ソフトクリームの販売窓口に並びます。
一口食べるや、濃厚なクリームが口の中で蕩けていくのを感じました。
採れたての牛乳を使っているのでしょう。その濃厚さは牛乳というより、むしろ生クリームに近い味わいでした。
水分補給をしながら休憩です。
その間にも、色々なバイクが敷地内に入って来ています。
人気のツーリングスポットなんだなぁ。
しみじみそう思いながら、確かに、ここまでの道は楽しかったもんなぁと微笑みます。
ですが、日光にはまだまだ楽しい道があったのだということを、このすぐ後に実感したのでした。