アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

二回目の初心者〜足尾、鹿沼、荒川ツー①

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                     出逢いはいつも唐突です

 

 

 

「さむっ…」

それは4月第2週目の、平日早朝のこと──。

 

今年は例年よりもあたたかい春となった為、ここ数日街中では薄手のコートが目につきました。

ですがその朝は吐く息も白く、肌寒さも感じたため、冬物ジャケットを引っ張り出して上に重ねます。

 

セローに跨り、まだ空が白んでいる時間に出発です。

高速道路を走っていると冷たい風が吹き付けて来たので、厚手のジャケットを選んで良かったと思いました。それでも、待ち合わせ場所に着く頃には、すっかり身体が冷えていました。

 

 

「おはよー」

時間通りに到着したヨシさんが、ヘルメットを脱ぐなり挨拶してくれます。

「おはよう。さっむいね」

両腕を擦りながら私が応えると、

「えっ、そうかな?」

と返されました。

「大丈夫? ホッカイロあげようか」

「ううん、いい。大丈夫」

陽も出てきたので気温は上がって来ていました。天気は良好です。

 

 

「じゃ、出発しよう」

「おー!」

今日は下道でまったりツーリングにしようと決めていました。

 

東京都の外れにある下道をゆったり進み、やがて埼玉県内に入ります。

「桜、もう散っちゃったね〜」

街中に点在している桜の木は、既に花弁を落とし新緑の葉が色付いていました。

「ホントだ。もう完全に葉桜だね」

ヨシさんも見上げて応えます。今年は春の訪れが早かった為、桜の見頃も早めに来たのです。

 

 

県道30号線『飯能寄居線』を走り抜け、国道17号線に出ます。交通量の多い複数車線の国道を少しだけ走り、

「じゃあ、次の交差点を右折するね〜」

と道を折れます。

そうしてやって来たのは、群馬県

 

なだらかな峠道となりました。

「ちうさん大丈夫〜? 怖くない?」

「うん、大丈夫〜」

「しっかりニーグリップしてね」

「はーい」

カーブの度にヨシさんがそう声をかけてくれました。

 

実は…。

数ヶ月前のオフロードツーリングにおいて派手な転び方をして以来私は、オフロードはおろか、オンロードの峠道すらも怖くなっていました。

ちょうど緊急事態宣言下であったこと。そして私自身、転職したばかりでもし怪我をしても有給休暇がないことも理由となり、軽くバイク離れを起こしていたのです。

 

「楽しいと思えないなら無理しなくていいんじゃないかなぁ? でも、また乗りたくなったら付き添うから声かけてよ」

ヨシさんがそう言ってくれましたが、私はまた乗りたくなるのか不安でした。

だけどひと月も経つと、ふと、またバイクに乗りたくなったのです。

もちろんオンロード、気ままに近所を走っただけでした。

でも潮風を感じながら、

 

──あぁ、やっぱり私はバイクが好きだなぁ。

 

と感じたのです。

ヨシさんにお願いし、何度か軽いツーリングに出ました。

カーブの度に萎縮して必要以上に減速してしまう私を見て、ヨシさんがニーグリップやバンクの仕方など、バイク乗りの基礎の基礎から根気よく教え直してくれました。

 

「う〜…。頭では分かってるはずなのに、カーブになるとどうしても身体が萎縮しちゃう」

練習中、何度もヨシさんにそうこぼしました。

「あぁ、身体に染み付いた恐怖心は中々消えないんだろうねぇ。でも、怖いと感じるのは悪いことではないんだと思うよ」

「これじゃ、免許取り立ての頃の方がずっと怖いもの知らずだったなぁ」

「…そっちの方がよっぽど怖いよ」

 

 

オフロードはまだフラットダートすらも走れないけれど、こうしてロンツーに出て峠道を走れるようになれたことにホッとしました。

 

国道122号線を走りすすめます。

「おっと、ここだ」

言いながらヨシさんがウィンカーを出して入った先は、自販機の立ち並ぶ小屋の前でした。

バイクを並べて停め、自販機を見て回ります。

「何食べよっかな〜? お腹空いちゃった」

 

少し早いけど、お昼ご飯はここで食べると決めていたのです。

そこはうどんやお蕎麦、ラーメンやトーストが調理された状態で出てくる『丸美屋自販機』という場所。

私は天ぷら蕎麦、ヨシさんは唐揚げラーメンとチーズトーストを買います。

 

 

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「懐かしい味〜」

「確かに、昭和の味がする」

食べ終わる頃には、駐車場がいっぱいになるほど賑わっていました。安価で出来たてが食べられる為、人気なのかもしれません。

 

 

昼食を終え、再び122号線を走りすすめます。渡良瀬川に沿って造られた道路のため、川を望みながら走ることが出来ました。

 

 

やがて到着した『足尾銅山』。

約400年の歴史を誇り、かつて“日本一の鉱都”と呼ばれ大いに栄えた足尾銅山の坑内観光施設です。

駐車場にバイクを停め、受付でチケットを買うとトロッコに乗ります。坑道まで運んでもらえるのです。

着いた先でトロッコを降り、そこから先は歩いて観光です。

 

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年代ごとにリアルな人形が配置され、炭鉱採掘の様子が再現されていました。

 

 

「あー面白かった!」

バイクに戻り、大満足でそうこぼします。

「ホントに。結構見応えあったねぇ」

出発の準備をしながらヨシさんが、

「さて。ここからだよ」

と言いました。

 

バイク歴の長いヨシさんは、足尾銅山にも何度か来たことがあるのだそうです。でもそれは観光目的ではなく、近辺の細く険しい道を求めてなのです。

今回私達がここへ来た目的も、観光よりもむしろその道を走ることの方でした。

「私、大丈夫かな…?」

最近ようやく峠の恐怖心を克服してきたばかりなのです。少し不安げにヨシさんに尋ねます。

「大丈夫! 今まで俺と一緒に走った道の方がもっとずっと激しいから」

「うん、そっか」

どのみち、いつまでも怖がっていては先へ進めません。

 

 

セローのエンジンを始動させるや、ヨシさんの先導に続き、県道15号『鹿沼足尾線』を走り出していったのでした。