アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

美の曲線〜清水、アートツーリング 後編

日本平を後にし、売店の店主がオススメしてくれた場所へと赴きます。

 

『清水日本平パークウェイ』のなだらかなワインディングを下り、国道150号線、別名『しみずマリンロード』へと入ります。

「風が気持ちいい〜」

「そうだね〜。それに、磯の香りがする」

潮風が気持ちよく吹く道を爽快に走り抜けます。

 

やがて到着したのは、清水港に隣接されている清水魚市場「河岸の市」の『まぐろ館』──。

 

まぐろ館は日本一のまぐろ水揚げ量を誇る清水魚市場の直営店で、新鮮なまぐろを楽しむことが出来る飲食店街です。

案内された駐輪スペースには、バイクがたくさん停められていました。

館内には沢山の店舗が建ち並んでおり、店員さん達が店頭で呼び込みをしています。

 

「活気があるねぇ」

「うん。どこのお店にする〜?」

各店舗が店頭に出しているメニューを見て歩きますが、どこも美味しそうで今ひとつ決め手に欠けました。

「う〜ん、何処にしようかね? 多分どこも美味しいだろうから、深く考えず目に止まったお店でいいと思うよ」

ヨシさんが言うので、

「よし! じゃあここにしよう」

目の前のお店に決めました。

 

 

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注文し、出てきた海鮮丼はとても新鮮で、舌が蕩けそうなほどに美味でした。

 

館内にはソフトクリームなども販売されていたのですが、

「まぁ、いただいた冷凍みかんがあるし」

と言い合い、辞めておくことに。

バイクに積んでいた冷凍みかんは、ちょうどいい半解凍状態になっていました。

 

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デザートにはうってつけです。

 

 

食事も終え、いよいよ本日のメインイベント、美術館へと向かいます。

 

そこから美術館までは近かったのですが、先導するヨシさんはあえて遠回りして色んな道を通ってくれました。

「清水の色んな道が走れて嬉しいな」

私が言うと、

「あー…。これは世に言う『迷ってる』状態?」

「迷ってたんかいっ」

でもお陰で、色んな道と色んな景色を見ることが出来ました。

 

 

そうして到着した美術館は敷地が広く、たくさんある駐車場のどこに駐輪しようかで迷ったくらいでした。

 

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広い庭園には色んな芸術作品が展示されており、それを見ながら散策するだけで見応えがありそうです。

 

館内に入ります。

新型ウィルスの影響でしょうか、展示内容が人気画家であるにも関わらず、館内は空いており、スムーズに観覧することが出来ました。

 

「凄い…。これは俺も初めて見た」

ミュシャへの思い入れが私よりずっと強いヨシさん。

全作品のポストカードも持っているそうなのですが、ミュシャのラフスケッチなども展示されていた為、さすがにそれは初めて目にしたようでした。

 

歩き進めると、ミュシャの代表作が立ち並ぶ展示会場へと移ります。

等身大の作品は私の身長程あり、見るほどに惹き付けられました。

ミュシャならではの美しい曲線と優美な世界観を存分に堪能します。

「まさかこの作品を、生で見れる日が来るとは…」

隣でヨシさんが感嘆の声を漏らしていました。

 

 

有名な画家の作品は画集を見れば載っています。

でも、やはり生の作品は訴えかけて来るものが違うのです。

私がわざわざ観覧料を払ってまで美術館に出向くのもその為で、それは以前からやっていたことでした。

 

ですが、こういった地方の美術館となると公共交通機関で行くのは難しく、例え惹かれる展示企画をやっていても見に行くのは諦めてきました。

バイクを手にしたことで、こうして気軽に見に来ることが可能になったのです。

その幸せを、改めて実感します。

 

 

「うわぁ〜。もうこんな時間か」

「ね〜。結構じっくり見たよね」

バイクの元に戻る頃には17時前になっていました。3時間以上は観覧していたことになります。

 

本当は売店の店主がオススメしてくれた所へ行こうかと話していたのですが、美術鑑賞が思いの外かかってしまったので帰路につくことにしました。

 

 

「あ〜、やっぱり富士山は見えないか」

本来ならば富士山が間近に見えるはずなのに、とヨシさんが嘆きます。

往路同様に、雲がかかっていて富士山を拝むことは叶いませんでした。

「まぁ、また来いということなんだよ」

私が言うと、ヨシさんが笑いながら同意します。

 

 

雲行きが怪しいと思ったら、御殿場の辺りで雨に降られました。

「全く。一日快晴というわけにはいかないのか」

雨男のヨシさんがそう零します。

高速道路で横殴りの雨に打たれながら、今日一日のツーリングを振り返りました。

 

 

日本平の展望台から眺めた景色も美しく、久能山東照宮は素晴らしい建造物でした。

海の幸に舌鼓も打ちました。

そして、美術展──。

どんな展示でも、一生ものの財産として心に刻まれますが、ツーリングと絡めて行けたのは初めてです。

自分自身のバイクで出向き、それが観覧出来たのです。その自信までもが漲ります。

 

前方を走るヨシさんに目を向けます。

「この辺り、カーブだから気を付けて」

「はーい」

高速道路とはいえ、カーブやアップダウンが続くため、事故の多い区間なのだとか。

 

今日当たり前のように高速道路に乗りましたが、高速道路はまだ数える程しか走っていないのです。

今、雨に打たれながら何の抵抗もなく走行出来ているのも、ヨシさんがアドバイスしながら先導してくれているお陰なのでしょう。

気が付けば、以前より恐怖心もなくスピードが出せるようになっていました。

 

今日のツーリングで体験出来たこと全てに感謝しようと思いました。

今、私や路面に降り注いでいる雨にすらも。

「ヨシさんといると、空の色んな表情も体験出来て楽しいよ」

「おっ、いい表現するね〜。覚えておこっと。えっと、『空の体験…色んな』」

「空の色んな表情。を体験ね」

「なるほど」

こりゃ3日後には忘れるな。

私がそう言うと、

「何を言う。3秒後には忘れてるよ!」

「ダメじゃん」

 

ならば全てをブログに書いてやろうと思いました。

自らのバイクで出向き、じっくり鑑賞した美しき絵画たちの記憶も含め──。

 

 

これからも相棒セローと共に、私ならではのツーリングを楽しんで行こうと改めて決意したのでした。