アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

旅の(強制的)終わり〜栃木、福島連泊ロンツー⑤

磐梯吾妻スカイラインを更に走りすすめます。

ヘアピンカーブを2〜3回超えました。

 

「凄い凄い! 何これ〜?」

一人大はしゃぎになります。

景色がガラリと変わったのです。

先程までは緑豊かな中を走っていました。それはそれで美しかったのですが、感覚は『いつもの山道』だったのです。

 

でも浄土平を過ぎてからの道は、見たこともないような別世界でした。

 

写真を撮りたかったのですが、道脇に

『火山性ガス発生の恐れあり。停車しないで下さい』

という注意書きが掲げられていました。

 

確かに、硫黄のような匂いが漂っています。人体に影響があるのかもしれません。

 

それでも撮りたかったのでしょう、バイクを停止させ写真を撮っているライダーさんがいました。

気持ちは分かるのですが私はそこまでやる気はなく、ルールに従うことにします。

 

残念に思いながらそこを走り抜けます。

その分、目に焼き付けようと思いました。

 

ヘアピンカーブが続きます。

ワクワクしました。

あのカーブを曲がったら、その先に何が見えるんだろう? あそこを上り切ったらどんな景色が広がっているんだろう?

そう思いながらバイクを走らせます。

ひとカーブひとカーブごとに全く別の表情を見せてくれるこの道に、すっかり夢中になっていました。

 

 

やがて大きな橋を渡ると、『つばくろ谷』という標識があったので入ってみることに。

そこから、先程渡った橋が見えました。

 

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「あぁ…ここも綺麗だなぁ」

『不動沢橋』という橋なのだそうです。

ここから見える渓谷も迫力があったので、息を呑んでしばらく見入ったのでした。

 

 

 

『…と、いうわけで。景色凄い綺麗だった〜』

『それは良かった』

宿に入って落ち着くや、ヨシさんに報告LINEを送ります。

旅が順調であることと私の息災を知らせる意味で、毎日経過報告していたのでした。

 

『それにしても、福島かぁ。俺は結局、1回しか行ってないなぁ。しかもその1回も、とんぼ返りだったし』

『えっ? どういう事?』

そしてヨシさんが語り出します。

 

曰く。

ヨシさんがバイクを購入して初めてのマスツーリング先が会津だったのだとか。

向かう道すがら雲行きが怪しくなり、遅れて合流するもあまりの悪天候のため引き返したのだそう。

以来一度も福島へは行っていないそうです。

 

『勿体ない、こんな綺麗なとこなのに』

『そうなんだよね、なんか行く機会がなくて』

『あっ、じゃあ…』

私は思い付いたことを即座に提示してみます。

『一緒に巡る? 福島』

 

 

「おはよーヨシさん」

「おはよう」

翌朝。

4日目の朝です。

夜明け前に出発したヨシさんと福島市内で合流し、挨拶を交わします。

「で、今日はどこ行く予定なの?」

ヨシさんが携帯電話のナビを作動させながら聞いてきました。

裏磐梯を巡りたくて」

行きたい箇所を幾つか提示しました。

ヨシさんは、ふむふむなるほどと言いながらナビをセットし、じゃあこの道をこう行ってこのルートで行こう、と道順を決めてくれます。

 

 

ヨシさんの先導で走ります。

国道115号線を突き進み、信号機もない交差点から左折しました。

細い魅惑的な道です。

「ここ、旧国道なんだって」

「へぇ〜」

昨日までは私一人だったので主要道路ばかり走っていましたが、ヨシさんが面白い道を見つけてくれるので今日は楽しく走れそうでした。

 

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緑が綺麗で快適な道でした。

そこをしばらく進み、やがて『照南湖』に到着します。

小さな湖でしたが、湖一面に広がる蓮の葉の見応えは充分で、他に人もいないためじっくり堪能する事が出来ました。

「蓮の花も咲いてる」

「ホントだ〜。可愛いなぁ」

 

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湖の周りを徒歩で一周出来そうでしたが、途中から道がなくなったので諦めて引き返します。

 

 

「じゃあ、行っくよ〜」

「はーい」

バイクに跨り出発です。

 

国道115号線に合流し、『土湯バイパス』を進みます。

やがて県道70号線『磐梯吾妻レークライン』に入りました。

緩やかなワインディングを楽しく進んで行きます。

 

 

「ちうさん、この数日で随分運転が上達したよね」

ヨシさんがミラー越しに私の運転を見ながらそう褒めてくれました。

「え、ホントに〜?」

「ホントホント。ちゃんとバンク出来てるし、カーブでも不必要な減速もせず曲がりきれてるし」

「そっか。自分じゃ分からないけど、上達してるんだとしたら嬉しいな」

ちょっと誇らしい気持ちになりながらバイクを走らせます。

 

道は下りに差し掛かり、急カーブも続きます。

 

「あっ、あそこ寄ってみる?」

ヨシさんがバイクを停められそうなスペースを見つけて聞いてきたので、

「うん」

と応えます。

二人でそこへ入って停車しました。

 

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『三湖パラダイス』と書いてありましたが、草木が生い茂っていて何も見えませんでした。

他の季節に来ればまた違った景色が見れたのかもしれません。

 

 

とりあえずと記念に一枚写真を撮り、では出発しようとバイクに跨ります。

エンジンを始動させ、後はギアを入れるだけです。

 

ところが──。

 

「あっ、ちょっと待って!」

ヨシさんのテンパった声をインカムが拾いました。

「ん? どうかしたの?」

「いやぁ…これは…」

 

ただならぬ気配を感じた私は、ヘルメットを外してヨシさんの次なる言葉に耳を傾けます。

ヨシさんはかがみ込んで、何やら愛車フューリーを弄ってました。

 

 

「これは…走行不能

 

走行不能

えっ、走行不能!?

 

ヨシさんのこの言葉により、私の4日間にも及ぶロングツーリングは強制終了となった訳ですが、それはそれで忘れ得ぬ強烈な思い出となったのでした。    

 

そして日本列島全体を襲う記録的猛暑日となったこの日。

頭部から伝ってくる汗を拭いながら私は、それでも何とかなるのだろうと、まだどこか楽観的な気持ちでヨシさんの元へと駆け寄ったのです。