アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

梅雨も明け〜清水、アートツーリング 前編

ミュシャ展』の情報を得たのは、梅雨のシーズン真っ只中でのことでした。

 

ミシャといえばアール・ヌーヴォーを代表する画家の一人。

星、花、宝石、植物など、様々な概念を女性の姿を用いて表現する独特のスタイルが特徴で、私の好きな画家の一人でもあります。

 

その展示があるのは静岡県立美術館──。

地図を見ると、美術館近辺には色々なツーリングスポットがありました。

これは行かねばと思ったのです。

 

ツーリング計画を立てながら、そういえばヨシさんもミュシャが好きだと言っていたことを思い出します。

前回のツーリングにおいて、美術館であれほど熱心に鑑賞をしてくれていたヨシさんです。お誘いすれば来てくれるのではと思いました。 

 

「おぉ〜、それは是非とも行きたい」

案の定そう応えていただけました。

 

ですが、あまりの悪天候により中止にしたり、別の地域へのツーリングへと変更したりしていました。

 

 

『雨雲を呼ぶ男〜勝浦、雷雨ツーリング』↓

https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/07/28/064631

 

 

 

8月最初の日曜日、めでたく梅雨も明け、ようやく決行の運びとなったのです。

 

 

待ち合わせ場所でヨシさんと落ち合うや、高速道路に乗って出発です。

 

「いやぁ、晴れて良かったねぇ」

「ホントだね〜。久々にいい天気で嬉しいな」

 

青空が広がり、陽射しもあたたかです。

東名高速道路は空いており、快適な走行が楽しめました。

 

ヨシさんは高速道路の運転にまだ慣れていない私に合わせ、90kmくらいの速度で運転してくれます。

「東名は景色が綺麗だよね」

「うん、そうだねぇ」

道が山の間を縫うように作られているため、その景色を堪能しながら走ることが出来ます。

 

ですが雲が多いためか、富士山を望むことは叶いませんでした。

 

以前東名を走った時には富士川インターまでだったので、その後の景色は知りませんでした。

富士川インターを通り過ぎるや、途端に海が広がったので驚きます。

「高速走りながら海が望めるって最高の贅沢だよね」

ヨシさんが言ったので同意しました。

今日の海は真っ青で波も静かです。

その真隣を走ることが出来るだなんて、確かにとても贅沢なことだと思いました。

 

「ちうさん、前の車抜くね」

「あ、うん」

前を走る車があまりに遅かったため、追い抜きをかけるようでした。

高速での追い越しは初めてです。

隣の車線に移り、一気に加速します。

「追い抜く時には、しっかりアクセル回して加速すること」

「はい」

追い抜き、元の車線に戻ります。

「抜いた後も、しばらくはスピード緩めない方がいいよ」

「うん」

「後ろが詰まっちゃう事があるから」

「なるほど、分かった」

 

やがて清水ICで高速を降り、下道で向かいます。

今度はなだらかな山道を進んで行きました。

「ここは程よいカーブで走りやすいね」

「そうだねぇ」

確かに。程よいカーブが続き、なだらかな坂を登っていきます。

 

 

やがて到着した『日本平』。

日本平は、静岡市駿河区清水区の境界にある丘陵地です。

 

まだ朝の8時半過ぎだと言うのに、駐車場には既にたくさんのバイクが停まっていました。

 

展望台まで歩き、景色を眺めます。

伊豆半島駿河湾越しに見え、北には赤石山脈も望めます。眼下には清水区の街並みと清水港が広がっています。 

本来ならば富士山も見えるそうなのですが、残念ながらその日は雲が掛かっていて見えませんでした。

 

「綺麗だねぇ〜」

すっかり夏の陽射しの照りつける季節となりましたが、そこでは涼しい風が吹いていました。

しばしその景色を堪能します。

 

f:id:qmomiji:20200807122712j:image

 

「ところで。ちうさんの立てたツーリングプランだと、この後すぐ美術館に移動することなってたけど…。東照宮は見ないの?」

「とうしょうぐう?」

 

美術館ありきで立てた今回のツーリング計画、近辺のツーリングスポットは軽く調べただけでした。

今ヨシさんから言われた単語も、咄嗟に漢字変換出来ずにオウム返ししてしまったのです。

 

久能山東照宮日光東照宮の原型となったとこ。ここからロープウェイで行けるんだけど…」

「え、行きたい!」

せっかくここまで来たのなら、どうせならそこも見たいと思いました。

その後のスケジュールは変更して、まずは『久能山東照宮』まで足を伸ばすことにします。

 

 

ロープウェイの往復チケットを購入し、案内に従いロープウェイに乗ります。

扇状に連なる山々を見下ろしながらロープウェイを進みました。

ロープウェイを降りるや、脛くらいまである高さの階段を登って行きます。

 

 

久能山東照宮は、徳川家康公が祀られている東照宮の元祖であり、静岡で唯一の国宝建造物として知られているそうです。

それ程までに由緒ある場所なのですが、まだ時間が早い為なのか、はたまたコロナのせいなのか、空いていました。

 

「うわぁ…」

まず、鮮やかな色彩の門に圧倒されます。

『楼門』です。

 

f:id:qmomiji:20200807081706j:image

f:id:qmomiji:20200807122348j:image

 

 更に登り、『御社殿』に到着します。

 

f:id:qmomiji:20200807123614j:image

 

まだ金色に輝いており、装飾も艶やかで威厳がありました。

感嘆の声を上げながら見入ります。

こちらは国宝だそうです。

丁寧に参拝し、先へと進みます。

『廟所参道』を歩き進め、『神廟』にたどり着きました。

ここは御祭神徳川家康公の御遺骸を埋葬し奉った所で以前は御宝塔と称えられていたそうです。

逆光のため写真は撮れませんでしたが、厳粛な気持ちになる場所でした。

 

 

その後、博物館を見て回り、休憩を取ります。

気温は30度を超え、つい先日までの梅雨はどこへやら、急に暑さが感じられました。

「ちうさん、大丈夫? 暑さにやられてない?」

日差しを避けて水分補給をしながら、ヨシさんが聞いてきます。

「うん、暑さは大丈夫なんだけど…」

しばし躊躇い、切り出します。

「お腹が空いた」

ヨシさんは笑いながら、

「じゃあ何か食べようか」

と応えてくれました。

 

 

ロープウェイで戻ってすぐの所に売店がありました。

そこで販売されていた、エビ饅頭を注文します。

「暑いだろうけど、揚げたてが美味しいから」

と揚げ直して下さいました。

 

f:id:qmomiji:20200808114936j:image

 

「お二人はどこから来たんですか?」

店主らしき男性の質問に、ヨシさんが自分の居住地を答えます。

「あ、でも親は静岡出身なんです」

ヨシさんの言葉に相好を崩しました。やはり地元繋がりの人が来るのは嬉しいのかもしれません。

「天ぷら、揚げたから食べてって」

店頭に立っていたお婆さんがわざわざ天ぷらを揚げてくれました。

「すみません、ありがとうございます」

有難く頂戴するや、揚げたてのエビのかき揚げが口いっぱいに広がりました。

その後、地元の方しか知らない観光名所や美味しいお店を教えて下さいます。

バイクで来たと言ったら、バイクでのルートまで事細かにレクチャーしてくれました。

 

「じゃあお昼ご飯はそこに行こうか」

「うん、そうしよう」

私たちがそう話していると、

「あ、冷凍みかんあるから持って行って」

店主が出して来てくれました。

「えぇっ? ありがとうございます」

2個の冷凍みかんを受け取ります。

「まだカチカチだから、ちょっと解凍させてから食べるといいよ」

「すみません、すっかりご馳走になっちゃって」

「いやいや。道中お気を付けて」

手を振って送り出して下さいました。

 

 

バイクの元に戻り、出発の準備です。

「とりあえず、ご飯にしよう」

「うん、そうしよう」

「ちうさんの腹ごしらえも済んだことだし」

笑ってしまいます。

確かに、ご飯の前に軽く腹ごしらえしてしまいました。

でもそのお陰で、素敵な出逢いもありました。

手にしたみかんはひんやりと冷たかったのに、心はじんわり温かくなったのでした。