アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

雲の切れ間から〜勝浦、雷雨ツーリング②

アクアラインを降りると、千葉県内を下道で走り続けます。

 

道はゆったりとしており、天候が落ち着いたのも相俟って、のびやかな気持ちで走り抜けることが出来ました。

「あぁ、いい道だね〜」

ヨシさんが気持ち良さそうにそう言いました。

「うん、そうだね! 道も空いてるから走りやすいし。やっぱり私、千葉の道って好きだなぁ」

「信号が少ないしね」

「あっ。そう言えばそうだね」

下道になってから、ほぼ信号に引っかからずに走って来ていました。

走っていて気持ちがいいのも、信号が少ないからというのもあるのかもしれません。

でもそれより何より、景色が美しくてのどかだからでしょう。

 

 

と、ポツンとシールドに水滴が当たります。

「あれ、雨かな」

「いやいや、まさかぁ。風がどこかの水滴を運んできたんだよ」

またも信じようとしないヨシさんでしたが、停止した時雨雲レーダーを調べたら、雨雲が近付いて来ているようでした。

つい先程まで青空が広がっていたというのに、一気に黒い雲が覆い始め、雨が降り出します。

「ヨシさん、どこか入って雨宿りする?」

ちょうど繁華街に差し掛かっていたので、飲食店が建ち並んでいました。

適当なお店に入ってやり過ごすことも提案してみたのです。

「いや」

雨雲レーダーを見ながらヨシさんが続けます。

「なるべく早くここから立ち去った方がいい。あと10分もしたら、ここも本降りになって身動きが取れなくなるよ」

そのまま走り進めて行きます。

「これは…。走り抜けた先も雨ってことはない?」

「勝浦は晴れてる。…はず」

「ホントかなぁ」

今日は雨雲から追いかけられ続けているような気がして、半信半疑でした。

「なんせ、雨雲を呼ぶ男がいるからなぁ」

あははと笑うヨシさん。

 

 

「この先、カーブが続くよ〜」

「はーい」

「路面濡れてるから、滑らないよう気を付けて」

「うん」

そうこうしているうちに、雨足が更に強まります。

完全な雨の中、山道を走り抜けることになりました。

しかも、私もヨシさんもカッパは上下ともに脱いでしまっていました。バイクを停めて着る余裕はないため、そのまま走り続けるしかありません。

「ちうさん、大丈夫〜? 」

「うん、大丈夫」

とはいえ。

着ていた服は完全に濡れ、身体に張り付いていました。

ブーツも再び濡れてきます。

幸い気温が高いため、身体が冷える心配はありません。

走りながら空を見上げると、雨雲の切れ間から青空が顔を覗かせています。

「変な天気」

思わず声が漏れます。

晴れたと思ったら急に降ってきて、降っている最中にも青空が顔を出す。

「最近ホントに大気の状態が不安定だよね」

私が言うと、「そうだねぇ」とヨシさんが返しました。

 

 

勝浦は晴れている──。

 

その言葉に嘘はありませんでした。

勝浦に近づく程に雨足は弱まり、唐突に雲がなくなり晴れ間が広がったのです。

勝浦に入ると、強い日差しに、逆に今度は紫外線対策の必要性を感じる程になりました。

 

 

勝浦に行ったら、是非とも行ってみたい所として『勝浦海中公園』がありました。

 

駐輪場にバイクを駐輪させるや、海中展望塔を目指して歩きます。

 

勝浦海中公園の付近一帯はリアス式海岸となっており、公園内には海中展望塔や海の博物館があります。

海中展望塔では塔の中から海を観察出来るため、天然の水族館のように楽しむことが出来るとの事でした。

それを是非とも見てみたいと思ったのです。

 

ですが。

「あれ? 大人気?」

展望塔のチケット売り場がすごい行列でした。

傍の看板を見ると、『感染拡大防止の為、入場制限しております』との表記が。

塔に入れる人数を制限しているため、チケットの販売窓口が行列しているようです。

 

私とヨシさんは顔を見合せ、「どうする?」とアイコンタクトを送り、一瞬で決断を下します。

 

 

 

「あぁ〜、ブーツ脱いだら気持ちいいわ」

「ホントだね〜」

海岸沿いの階段に並んで腰掛け、ブーツと靴下を脱いで寛ぎます。

ブーツの中がぐちょぐちょだったので、陽に当てて少しでも乾かしたかったのです。

「いい天気。靴下もすぐ乾きそう」

陽を受けて熱くなったアスファルトの上に、脱いだ靴下を並べて乾かします。

 

行くのを諦めた展望塔と、海岸で遊ぶファミリー達との動きをぼんやりと眺めていました。

 

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今年は関東全域で海開きをしない方針に決まったようです。

でもここでは、多くの人達が波打ち際で歓声を上げながら楽しんでいます。

水着を着用した人々が、夏の陽射しを浴びながらめいっぱい泳いでいました。

 

 

「お昼はどうする?」

ヨシさんが携帯電話で地図を調べながら聞いてきます。

「ん〜。ここに来る途中、『勝浦タンタン麺』って看板が見えて、それが気になってるんだよね」

「お!」

ヨシさんが指差して来ます。

ピコン、と電球のつく音が聞こえてきそうでした。

 

 

「美味し〜」

「うん、旨い」

 

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『勝浦タンタン麺』のお店に到着したのはその30分後、更に40分の順番待ちをして、ようやく目当ての食事にありつくことが出来ました。

辛さの中にもきちんと出汁が効いており、食べ進めるほどに食欲が増す味でした。

 

 

昼食を終え店の外に出ると、じゃあ次はどうしようか?と話し合います。

「あの。私ちょっと行ってみたい所があるんだけど」

躊躇いがちに切り出します。

「うん、どこ?」

「『八幡岬公園』って所」

その場で地図を調べたヨシさんが、

「あぁなるほど、さっきの所にほぼ戻るのか」

と言いました。

そうなんです。先程までいた『勝浦海中公園』の方面へと戻ることになります。

ですがヨシさんは、

「オッケー、じゃあそこにしよう」

と二つ返事で快諾してくれました。

 

 

「せっかくだから海沿いを走ろう」

と言い、ナビの指示を無視して進みます。

細い小道に折れ、漁港の真隣や海岸沿いを走り抜けて行きました。

潮風を感じながら進む美しく魅惑的な道に、ワクワクします。

 

ヨシさんと走るようになって学んだことは多々ありますが、こういった楽しみ方もまた、新たに学んだツーリングのあり方の一つでした。

 

ヨシさんのツーリングは観光名所や名前の付いた通りはあまり行かず、走り進めて「惹かれる道」があればそこを進み、「名もなき名所」を自分で見つけ出してはそこでバイクを停めるのだとか。

 

ツーリングの在り方は人それぞれ。

バイクの数ほど楽しみ方は違うのでしょう。

 

「ここ、綺麗だね〜」

静かな海岸沿いにバイクを停めるや、海へと続く階段をギリギリまで降りて勝浦湾を望みます。

「うん、いい所を見付けたね」

ヨシさんが応えます。

 

広がる水平線と、深く鮮やかな空と海とが、今日のツーリングの前途を祝しているようで、いつまでもいつまでも見入っていたくなったのでした。