やがて注文した料理が運ばれてきました。
サンドウィッチのセットとどちらにしようかと悩みましたが、ハンバーガーが気になったのでそちらを注文していました。
大きめハンバーグの上に自家製ピクルスとスライスチーズが載っています。かぶりつくと、特製ソースと肉汁とがじわっと溢れ口の中に広がりました。
食事というものは不思議です。
ただそこで物を食べているだけなのに、その場所と一体化出来るような気分にさせてくれるのです。
だからこそツーリングにはお弁当を持ち、好きな景色を見ながら食べているのですが、お店に入って誰かが作ってくれたものを食べるのもいいものだと、この時思いました。
食後のコーヒーを飲みながら、流れゆく時間を楽しみます。
カフェを出ると、セローの隣に原付を駐輪していた女性もちょうど出ようとしているところでした。
「バイク、カッコイイですね」
ニコニコしながら話しかけてくれました。
「え、ありがとうございます」
「まさか女性が乗っているバイクだとは思いませんでした。それ、重くないんですか?」
「いえ、セローはとっても軽いんですよ」
その後軽く雑談し、女性が先に走り去っていきます。
「あ」
遅まきながら気付きます。
もしや重いって、あの原付と比べてってことだったのでしょうか。 だとしたらセローは決して『軽く』はないかもしれません。申し訳ないことをしました。
そして、またもバイク乗りあるあるを発見しました。
自分の愛車が褒められた時だけ、一切謙遜しなくなるのです。セローが褒められると、私も一緒になってセローを褒めてしまいます。
…それは私だけなのかもしれませんが。
134号線の海沿いのルートを取り、西方面へとセローを走らせます。
江ノ島を目指します。
江ノ島も試乗ツーリングでは行っていなかったのですが、せっかくなので行ってみようと思いました。
湘南住みにとって、江ノ島は身近な場所です。
もちろん私も、何度も行っています。県外の知り合いが遊びに来た時には案内したり、年始には初詣に行きました。夏の海水浴も、すぐそばのビーチを利用します。
ですが、バイクで行ったことは一度もありませんでした。
セローで行けば、また違った景色が見れるかもしれない。
そう思ったのです。
混雑している134号線を抜け、江ノ島大橋を渡ります。ここは車道と歩道とが完全に分離されており、車道でこの橋を渡るのは初めてでした。
歩道はいつも人が溢れており、真っ直ぐ歩行することも困難なのですが、車道側はすんなり通行することが出来ました。
少しだけ優越感を抱きます。
前方をバイクが走っていたので勝手に追随して行き、駐輪場までご一緒しました。
車の駐車場は満車なようで、列をなして空きが出るのを待っているようでした。
でもバイクは駐輪スペースに空きがあり、すぐに駐輪することが出来ました。
またしても、少しだけ優越感を抱きます。
ですが、さすがにバイクは多かったです。
江ノ島の観光スポットそのものは知り尽くしているので、今日はちょっと違う観点から楽しんでみようと思いました。
人通りの少ない住宅地の間を抜け、細い階段を上って行きます。
当たり前ですが、江ノ島の全てが観光スポットなのではなく、江ノ島の中で生活している人もいます。ですが行くたびにその事実に驚かされるのです。
ここでどんな暮らしをしているんだろう? 郵便や宅配はどうやって届けらるんだろう?引っ越しの際、トラックはここまで入って来れるんだろうか?
ゴミ収集はどうなっている? 町内会もあるのでしょうか?
そんなことをつらつら考えながら散策するのも楽しかったです。
猫が日向ぼっこをしていました。
逃げる気配はなかったのでもっと近寄れたのでしょうが、獣毛アレルギーなのでこの距離で我慢です。
後ろから来たカップルがかがみ込んで猫を撫でくりまわしていました。
猫は目を細めながら大人しく撫でられています。
羨ましさを感じながらそこを後にします。
更に階段を上り、細い小道を進みます。
今まで気にしていませんでしたが、家々の間には謎めいた小道がありました。それはどこへ繋がっているんだろうとワクワクしながら進みます。
やがて、知っている場所に出ました。
結局、道は繋がっているということなのでしょう。
階段を下りると、ソフトクリームを買います。
普段はそういったものは食べないのですが、妙に美味しそうに見えました。
生キャラメルソフトです。クリームは北海道産生クリームを使用しているとのこと。蕩けるような口あたりですが、濃厚で弾力もあり、とても食べ応えのあるソフトクリームでした。
…そして食べてから気付きましたが、多分今日は食べ過ぎです。Sさんの気質が移ったのかもしれません。
江ノ島を後にし、帰路に就くべくセローを走らせます。
道そのものに魅力を感じ、景色を堪能し、様々なことへ思いを馳せる。
観光スポットは名所を見て回るだけでしたが、そうやって色々なことを楽しめるようになったのも、バイクに乗り始めて変化したことの一つなのかもしれません。
すれ違う際、5台ほどのバイクが手を振ってくれました。
私は張り切って振り返します。
地元湘南でヤエーをしたのは初めてです。なんだかそれだけで、今日のツーリングそのものと自分の住んでいる湘南が、素敵なものに思えて来ました。
結局、『良いライダーとは何か』、『私が目指すライダーの在り方はどんななのか』という疑問の答えは、この日は見つかりませんでした。
でもバイクに乗り始めたことで、私の世界は確実に広がってきています。
行ったことのない、どこか遠くへ行くのもいい。よく見知った場所を堪能するのもまたいい。
大事なのは、どうあるべきか。
そして自分はどこへ行き、何をしたいのか。
そこに考えを巡らし、吟味し、実行し続けていく以外、答えを得る方法はないのかもしれません。