アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

給油困難〜秩父ソロツー②

無事16号線に入り、東京都内を横切ります。

16号線は混雑しており、所々渋滞していました。

八王子市を抜け昭島市内に入った辺りで、給油ランプが点灯しました。予想通りだったので、むしろ嬉しくなります。前回の給油から換算すると、この辺りだろうなぁと思っていたのです。

そしてその近辺にあるガソリンスタンドの場所もリサーチ済みでした。16号線沿いにはなく、通りから少し外れた市街地まで行けばあるようだったので、そのルートも調べて紙に書いてあります。

少しでも安く済ませるため、セルフガソリンスタンドを調べてありました。

 

そのガソリンスタンドへ向かうために左折する交差点の、一つ前の交差点を通過しました。

さ、次だ。

そう思い、左車線へと移ります。

ですが、中々次の交差点がやって来ないのです。首を傾げていると、なんと、給油後16号線に戻ってから右折予定である交差点の、手前の交差点を通り過ぎました。

そこは、給油ポイントを通り過ぎてからじゃないとやって来ない筈の所です。

戸惑っていると、いよいよ右折交差点がやって来ます。

仕方がありません。とりあえず曲がるしかなさそうです。なんと5車線にもなる大きな交差点でした。右折車線だけで2車線も使っています。後続車もあるため、うかうかしてはいられなかったのです。

 

右折し、車の流れに乗った後、ゆっくりと思い返します。

確か左折予定だった交差点の手前で、小さい道が分岐していました。おそらく、あの道を進まないと左折交差点には辿り着けなかったのでしょう。

ともあれ、通り過ぎてしまったガソリンスタンドを求めても仕方がありません。次のガソリンスタンドがあれば、そこで給油することにしました。

 

ですが、事前に調べた通り、16号線沿いには中々ガソリンスタンドがありません。このまま進み、給油も出来ないまま国道299号線に入ってしまったら…。そう思うと、途端に不安になりました。

国道299号線とは、長野県茅野市から群馬県多野郡上野村、埼玉県秩父市を経由し、埼玉県入間市に至る国道のことです。そして秩父へと向かうにはもってこいの、ツーリング向けのなだらかな道です。

私の通るルートでは、約35kmほどありました。その間、299号線沿いにガソリンスタンドがあるかどうかは調べていませんでした。

 

給油ランプは無常にも光っています。

一瞬で想像してしまいました。ガス欠を起こしたセローを、押しながら何キロもの道を歩いていく自分の姿を。

セローは、ガソリン残り約2リットル程で給油ランプが点灯するのだと、バイク屋のYさんが以前言っていました。1リットルで約30km程走るとして、計60km。点灯してからここまでどのくらいの距離を走ったのかにもよりますが、とてもじゃないですが給油しないまま299号線に入るのは不安でした。

 

このまま漫然と走っていても、ガソリンスタンドは見つかりそうもありません。地図を見て対策を練った方が良さそうです。

左へ車線変更し、一旦16号線を出て停車出来そうな所を見つけて停まると、地図を開きます。

幸いにも、ルートからそう遠くない所にあるようでした。299号線に入る前にちゃんと給油出来そうです。しかも、そこもセルフでした。とりあえずホッとします。

 

そのガソリンスタンドを見つけて入り、給油にかかります。

セルフでは先に現金を入れる方式です。小銭がなかったのでお札で多めに入れました。

給油を済ませ、お釣りを受け取ろうとします。

あれ?

お釣り精算機が見当たらないのです。

いつも、セルフのガソリンスタンドではレシートが出てきて、そのレシートを持って精算機へ行きお釣りを受け取ります。でもその精算機が見あたりませんでした。レシートだけ受け取りキョロキョロしていましたが、やはりありません。

そうこうしているうちに、給油の順番を待つ車が列をなし始めました。他にも給油スタンドはありましたが、なんだか申し訳なくなり、セローを邪魔にならない所へ移動させた上で、もっと離れた所まで探しに行ってみます。やはり見当たらないので、レシートを手に店内へと赴いたのです。

受付のおじさんに声をかけ、事情を説明します。

「そりゃあんた、お釣りはレシートと一緒に出てきてた筈だよ」

「えっ? そうだったんですか?」

現金がその場で出ていたとは全く想像もしていませんでした。

急いで先程の給油スタンドに戻ります。そしてお釣りの出口を見つけると、そこに手を入れてみます。が、中は空っぽでした。

私の次に給油していた車は、とっくにいなくなっていました。

こちらの様子を伺っていたおじさんを振り返り、私はゆっくりと首を振ります。

「馬鹿だなぁ、あんた。スタンド離れちゃったならお釣り持って行かれても文句は言えないよ」

おじさんが、念を押すように続けます。

「あ、釣り銭は渡せないよ」

 

ガソリンスタンドを後にすると、セローを走らせながら私はモヤモヤと考えていました。

別に私はお釣りを出せとごねた訳ではありません。精算機の在処を聞いただけです。突き放すようにお釣りは出せないと言ったのは、今までそういう揉め事が多かったからなのでしょうが、なにもあんな言い方をしなくても、と思いました。

そもそも、スタンドを離れたのだって、順番待ちしている車を気遣ってのことでした。

初めて利用するタイプのセルフガソリンスタンドでした。仕組みが分からなかったのです。

もちろん、お釣りを失ったのは私の落ち度です。そこは仕方がないと思えました。

それに、なにも財布を盗られたわけでも、愛車セローが持ち去られたわけでもありません。被害としては微々たるものです。

それでも、どうしても気分は落ち込みました。

 

不思議です。

ツーリング時において、誰かのちょっとした親切やかけられた優しい言葉が、染み渡るほど嬉しくなることもあれば、今のような些細な出来事で、胸がチクチク痛むこともあるのですから。

 

 

ともあれ、過ぎたことを悩んでいても仕方がありません。ひとまず、無事給油を済ませ299号線に入れることに感謝します。

スーパーや道の駅がある交差点を左折し、299号線に入りました。

ようやく複数車線が終わり、のんびり走ることが出来るのでホッとします。なだらかなカーブを進んでいきます。

 

走り始めてしばらくしてから、不意に思ったのです。

──あれ? 私、お弁当の箸持って来てたかな?

 

正直、何故そのタイミングでそこに気付いたのかは分かりません。

気付くのがもう数km早ければ、もしくはもっとずっと進んでからだったなら、と今思い返してみて思うのですが、事実そのタイミングだったのだから仕方がありません。

その、ほんの数kmの差が、まさか今回のツーリング全体の様相を変えてしまうとは、この時の私には想像もつきませんでした。

 

走りながら、今朝の準備段階での光景を思い出してみます。

お弁当を包んだ記憶はありますが、箸を入れたビジョンがありませんでした。

やはり、忘れて来たのでしょう。

しかも、今日に限ってお弁当はサンドウィッチやおにぎり等ではなく、ちゃんとおかずとご飯のある『お弁当』でした。

 

でも、それそのものは笑えちゃうくらいの小さなミスでしょう。

お財布を忘れて買い物に出てしまったサザエさんより、ずっと些細なミスです。なんせ、お財布を忘れてしまったら買い物が出来ませんが、箸なんかなくともツーリングは出来るのですから。

 

いざとなったら、インド方式で食べればいい。冗談半分でそんなことを考え、一人余裕で笑っていたくらいです。

なんて事ない、何とでもなる、と。

 

そう、その筈でした。