まずは近くのガソリンスタンドに入りました。
昨日送ってもらった日程にこれも書かれていたので、合流前に給油する必要がなく有難かったです。
セルフのガソリンスタンドのため、それぞれ分かれて給油します。
「大丈夫ですか?」
私が手間取ったからでしょう、よねってぃさんが様子を見に来て下さいました。
「あ、はい! 大丈夫です」
後で気付きましたが、もしかしたらセルフの給油に慣れていないと思い、気遣ってくれたのかもしれません。
給油をすませ、走り出します。
国道299号線は秩父までしか走ったことがなかったのですが、その更に先へと走り進めました。
初めての道はいつもワクワクします。
それまではカーブも傾斜もそれ程ではありませんでしたが、ここは完全な峠道となっていました。
前方を走るあきにゃんさんが、無理のないスピードで丁寧に走ってくださいます。それを見ながら私も、少しずつ峠の走り方を学んでいきました。
同じオフロードバイクだからでしょうか。
あきにゃんさんの走りは後ろから見ていてとても勉強になります。
減速のタイミングやスピード、カーブ時のライン取り、バンクの仕方など。今まで何となくでやっていた事ですが、こうして改めて見ると私もまだまだだなぁと実感したのです。
新緑の綺麗な、美しい道でした。
走りと景色に夢中になりながら進みます。
あきにゃんさんが道の途中で停止したので、私もよねってぃさんもそれに倣い停まりました。
「これ、恐竜の足跡なんです」
道沿いの崖を指差しながら、あきにゃんが教えてくれます。
「へぇ〜」
見ると、確かに遺跡らしき痕が確認出来ます。
観光名所になっているようでした。
「じゃ、出発します。トイレは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
そこにトイレがあったから聞いて下さったのでしょう。
その後も美しい峠道を走り抜け、道の駅に到着します。
テーブル席で休憩です。
「やっぱり、三人でインカムを繋げたいと思うんですよ」
あきにゃんさんが言います。隣でよねってぃさんも頷きました。
よねってぃさんとあきにゃんさんのインカムは、どちらもビーコム。その為、お二人のインカムはペアリング出来ています。
ここまでの道のりで、どうやらその事について話し合っていたようでした。
それぞれヘルメットを持ち寄り、再度ペアリングを試みます。
ですが。
「う〜ん…」
3台繋げようとすると1台だけ声が聞こえない、もしくは声を拾えない、という状態になり、どうにも綺麗に繋がりません。
またも時間がどんどん過ぎていきます。
「あ、じゃあLINEのグループ通話にしましょうか」
私が提案してみます。
実はそれは以前Sさんが言っていた方法でした。他社同士でうまく繋がらなかった場合、グループLINEを作りそこで通話をすれば手っ取り早いのだと。
「じゃあそうしましょう」
LINEを交換し合い、グループを作ります。
「グループ名は何にしますか?」
携帯電話を操作しながら、よねってぃさんが聞いてきます。
「まぁ、何でも」
あきにゃんさんがそう答えたことで、グループ名が『なんでも』に決定しました。
それぞれ、携帯電話とインカムとをペアリングさせグループ通話を開始したことで、三人でのやり取りが可能になります。
休憩を終え、出発です。
ようやく三人でやり取りが出来ます。
ところが。
「この辺り、…が墜落した場所に…いんですよ」
「へぇ〜、そ…なんですか」
あきにゃんさんの説明に、よねってぃさんが相槌を打っていましたが、私は肝心の部分が聞き取れませんでした。
「ジャンボジェット機の墜落…てそれまでなかったらしいですよね」
「それまでどころか、それ以降も…んです」
よねってぃさんの受け応えで、墜落した旅客機の話をしているのだと分かりました。
推察するに、この辺りは旅客機の墜落した場所の近くらしいです。
慰霊碑がこのすぐ側にあると説明して下さいます。
LINE通話は無料で便利なのですが、インカムに比べ音質も悪く電波も不安定なようです。
せっかくのあきにゃんさんの説明が、所々聞こえません。
やがて山奥に入るや、プツッと通話が途切れます。
電波が悪くなったため、通話を終了してしまったようでした。
「う〜ん、やっぱりダメだったか」
そう独りごちます。
山の中は電波が悪いので切れるのではないかと覚悟はしていました。思いの外早くその時がやって来たようです。
ですが私は、お二人で繋がっていた所へ、時間を割いてまで私を入れようとしてくれたことが有難く思えました。
元々、よねってぃさんとあきにゃんさんお二人のツーリングだったのです。
飛び込みで参加し、インカムの機種も違う私の為に、貴重なツーリング時間を費やして下さいました。
それが何より嬉しく思えました。
それ以降、インカムで繋がることは諦めましたが、要所要所であきにゃんさんが停車して直接伝えてくれました。
山道の、更に細い脇道を指差します。
「ここに上がって行きます」
「はーい」
さらなる急勾配と細い道にドキドキします。
ガコンっと道が凹み、セローが大きく揺れました。オフ車じゃなかったら故障していたかもしれません。
急カーブを抜け更に登ると、開けた所に出ました。
あきにゃんさんが停止したので、私もその隣に停車します。
すぐ隣に、木で造られた台が設えてあります。
「ここが展望台ですよ」
あきにゃんさんが教えてくれました。
「わぁ〜。凄いですね」
そこからの眺めは最高でした。
山々の連なりが見れます。
私はここまでの道中を思い、この景色を眺めている自分が不思議に感じられました。
ここには電車もバスも来ません。
登山で来るという発想もありません。
今日知り合ったばかりのライダーさんから連れて来てもらい、生まれて初めて来た場所からの景色を、今眺めているのです。
バイクに乗らなければ絶対に出逢えなかったであろう、人や景色。
それら一つ一つの幸運を、じっくり噛み締めながら目の前の景色に見入ったのです。