アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

計画性と楽しさとの狭間〜伊豆ソロツー①

箱根への初ソロツーリングを終えたその日から、次はどこへ走りに行こうかと、地図を広げてはワクワク過ごしておりました。

土曜日が快晴という天気予報を見た私は、その日に走りに行こうと決めました。

残念ながらSさんとはまたも都合が合わなかったので、今回もソロでのツーリングとなります。

 

さて、どこへ行こう?

どうせなら、ツーリングマップルで太く囲われている道を走りたいと思いました。

 

ツーリングマップルとは、バイク乗り専用地図のことです。

普通に本屋の地図売場に売られているのですが、自分がバイク乗りになるまでその存在を知りませんでした。

地図は地図なのですが、バイクで走る人向けに、景色が綺麗な所、美味しいお店、渋滞しやすい道、更には走り抜けたら爽快な道路等の情報が網羅されています。特におすすめの道は、薄紫の太線で囲われているのです。

私は太く囲われた道の一つで、前々から気になっていた道に目をとめました。

 

『伊豆スカイライン

 

空を駆け抜けるイメージが沸き起こります。名前からして素敵な道であることが想像出来たので、是非走ってみたいと思ったのです。

 

伊豆に行くことに決めた私はルートを考えます。

そして、前回の反省を活かして小さい紙にルートの覚え書きをしていきます。全ルートだと字が小さくなり読みにくくなるため、まず最初の目的地、次の目的地、そして帰り道と3枚に分けました。これを当初の予定通り、スクリーンに貼ろうと思いました。

 

ですがこの準備をしている最中、Sさんにお会いし、話しをする機会がありました。

Sさんは、道順やルートをガチガチに決めて走る私のやり方に、「それじゃあ楽しめなくないですか?」と少し反対なようでした。

「でも、道が分かんない方が不安で楽しめないから」

「まぁ、性格なんでしょうけど…。多少迷ったとしても、別ルートで行くか戻ればいいと思いますよ」

 

そうは言われても、もし準備もなしに有料道路に入り込んでしまったら? 方向が違うのに、細く急勾配な山道に行ってしまったら?山一つ越えるまで引き返せない恐れもあります。そして、知らずに一方通行を逆走してた、ということになったら洒落になりません。

「だったらナビを持たせてくれたらいいのに」

と膨れる私。

そう。ナビを見ることも、インカムでナビの誘導を聞くことも禁止しているのは他ならぬSさんです。そのSさんから事前の下調べまで反対されてしまったら、方向音痴の私はもはや道に迷いに行けと言われているようなものです。

Sさんは、映像とインカムでのナビ誘導は、やはり半年間は禁止とした上で、ゆっくり話します。

「事前に下調べすることは大事なんで、それは別に否定しないんですよ。でも、ガチガチにルートを決めちゃって、それで楽しめてましたか?」

思わず私は黙り込みます。

「ツーリングは、不測の事態をも楽しめてなんぼなんだと思うんですよ。あそこの道に惹かれるから走ってみようとか、間違えちゃったけどこっちの道もいいなとか。

そのくらいのテンションじゃないと、無駄に疲れちゃいますよ」

その時は釈然としないものを抱えモヤモヤしながらSさんと別れたのでした。

でも帰宅した後、考えてみたのです。

前回の箱根ツーリング、私は楽しめていたのだろうかと。

達成感はありました。でも、ルートも休憩場所も見る風景も、全て事前にスケジュールを立てたものです。そういえば、箱根ツーリングのブログでも、一言も『楽しい』とは書いていません。

私は自分の立てた計画を寸分違わず実行することばかりに必死で、確かに楽しめていたかと聞かれると、どうだったかなぁと答えるしかありませんでした。

「よしっ!」

私は次回伊豆ツーリングでの課題を決めました。

それは『楽しんで』来ること。事前の準備はちゃんとした上で、尚且つ楽しんで来ようと決めたのです。

 

伊豆ツーリング前日の金曜日夕方、仕事上がりにバイク屋さんに行きました。ツーリング前は無料で整備するから、持ってくるようにと言われているのです。

Yさんが私のセローを整備しながら、

「明日のツーリングはどちらへ?」と聞いてきます。

「あ、伊豆です」

「伊豆…。結構遠くないですか? あ、あのお友達とご一緒なんですかね」

納車の日に付いてきてくれた、Sさんのことを指しているのでしょう。

「いえ? 一人で行きますよ」

「ふぁっ!?」

Yさんの口から変な声が漏れました。

「え、それ大丈夫ですかね!? 僕一緒に行きましょうか…いや、仕事が…」

これは…。

確実に、すごく心配されているようです。厳密には前回の箱根も一人だったのですが、それは黙っておきました。

整備が終わったので、丁重にお礼を言い、バイク屋を後にします。

 

その後、SNSを通してやり取りをしていた方との待ち合わせ場所に向かいます。

使っていないバイク荷物積載用のドラムバックを譲ると言っていただいていたのです。

その方と落ち合い挨拶し合うと、なんとバックの取り付けまでやって下さいました。

本当に有難いことです。

次回の伊豆ツーリングから、このドラムバックに荷物を積んでいくことが出来るようになりました。

 

下調べなどの事前準備はやはり綿密に行った上で、伊豆ソロツーリング当日を迎えます。

その日も早朝に起きてお弁当を作りました。

気温は2℃。充分な防寒対策をします。伊豆スカイラインは有料道路のため、ウエストポーチに小銭入れを入れて装着します。

セローのスクリーンに最初の目的地、『伊東マリンタウン』までのルートを書いた用紙を貼ります。キャリアに装着したドラムバックに、背負っていたリュックを入れました。

いざ、出発です。

 

途中までは、前回箱根まで行った道順と一緒でした。知っている道のため、比較的リラックスして走ることが出来ます。

小田原を越え、国道135号線に入ります。ここからは初めてのルートです。この道をひたすら真っ直ぐ進めば、最初の目的地、『伊東マリンタウン』という道の駅に着くことになっています。

その筈でした。

 

ですが、湯河原温泉の入口付近で道が四つ股に別れていました。標識では左側が135号線と出ていましたが、どの左側の道なのかが分からず一番左の道を進みます。

そのまま進むと、なんと『熱海ビーチライン』という有料道路に入ってしまいました。引き返せなかったので、観念して料金所で通行料を払うためセローを停止させます。

「はい、こんにちは。200円です」

料金所のおじさんが朗らかにそう言って来ました。

料金を支払うのは初めてです。グローブを外し、ウエストポーチを開いて中から小銭を出します。

「はい、ちょうどですね。こちら、領収書ね」

受け取り、ウエストポーチに入れる際、外していたグローブを地面に落としてしまいました。バイクから降りようとしていると、

「ああ、いいですいいです。拾いますよ」

おじさんがわざわざ出て来て拾ってくれました。

バイクに乗っていると、ちょっとした拾い物をするのも大変です。後ろから車も来ている状況、慣れない料金支払い、焦ってしまっていたので、拾っていただけてすごく助かりました。私はグローブを嵌めながら何度もお礼を言います。

「いえいえ、では、お気を付けて」

手を振って送り出してくれました。

 

走り出しながら、胸がほんわりとあたたかくなるのを感じました。

グローブを拾ってくれた。笑顔で手を振ってくれた。

あのおじさんにとっては何てことない事だったのかもしれません。

でも、不安で緊張しがちな初心者のソロツーリングにとって、たったそれだけのことが染み渡るほどに嬉しかったのです。

 

そして、思いました。

道を間違えなければ、あのおじさんとの出逢いもなかったんだなぁ、と。