アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

バイク聖地での洗礼~後編

次なる目的地は、栃木県那須塩原市にあるライダーズカフェ『BOBBY』さん。

 

広い敷地の駐車場と開放的な店内の空間、そしてボリュームのあるフードメニューが高評価のお店です。

ですが、ライダーズカフェを名乗るように、多くのライダー達が集まるのには、店主さんの人柄も大きく関係しているのだと私は思っていました。

ヨシさんは、私と出逢うずっと前からこのお店の常連さんで、店主さんとはとても親しくお付き合いを続けているようでした。

 

 

私がこのお店に来るのは今回2回目でした。

この日もやはりたくさんのバイクが停まっています。

私達は流れるように駐輪場にバイクを走らせ、空いているスペースに停めます。

「ふぅ。良かった、とりあえず目的地には辿り着けた」

ヘルメットを脱ぎながら私がそう零します。

「そうだね。とりあえず事故とかに遭わなくて良かったよ」

ヨシさんも頷いていました。

 

 

f:id:qmomiji:20231118142948j:image

 

 

「美味しい~」

「やっぱり最高だね」

ボリュームのあるハンバーガーに、舌鼓を打ちます。

パン生地も風味豊かで、齧るとジューシーなハンバーグから肉汁が溢れ出ます。挟んであるベーコンも、スーパーで売られているものと違い、ちゃんと燻製の香りが豊かでした。

 

 

「さて、と。帰りはまた同じルートにしようかな?」

ヨシさんがGoogleマップを見ながらルートを調べ始めました。

まだ来たばかりですが、なんせ神奈川まで帰らなければならないのです。そろそろ帰路につかないと、今日中に帰るのは難しくなります。

「帰りも高速メインで走ろう」

「うん、そうだね」

フロントブレーキは使わないよう気を付けなきゃね、と言い合いました。

 

「じゃ、ご馳走様でした」

ヨシさんがカウンター内に挨拶すると、店主が出て来てくれました。

「ありがとうございました。お気を付けてお帰りください」

「はい、気を付けます。なんせ、彼女のバイク、フロントブレーキが利かなくなっちゃってまして」

ヨシさんは笑い話のようにそう言ったのですが、店主は表情を曇らせました。その会話を耳にした、他のお客様も心配そうな顔をして立ち上がります。

「どうかしたのですか?」

店主と、立ち上がって来てくれたその男性客のお二人が、私のセローを見に来てくれました。

 

私達は事情を話します。

「でも、帰りはずっと高速道路なので。フロントブレーキを使う機会もそんなにないと思います。気を付けて帰りますよ」

私が笑いながらそう言っても、お二人は心配そうな表情を崩しません。

 

 

「それは危険ですよ」

店主がそう言い、男性客も頷きました。

「ブレーキオイルがなくなってしまうと、強制的にブレーキがかかり続けてしまうんです」

「えっ」

私は、高速道路を走行中に意図しない急ブレーキがかかって、タイヤがロックしてしまう様を想像しました。

高速走行中での急停止は、自損事故だけで済めば僥倖です。ですがそれは周辺車輌をも巻き込む大事故に繋がる恐れも充分にありました。

事態の深刻さに青ざめていくのが分かります。

帰りの距離も長いのです。高速道路を使わない訳にもいきませんし、その間、ブレーキオイルが一切漏れないという保証はどこにもありません。

そもそも、ブレーキオイルが残りどのくらいなのか、目盛りで確認出来ないくらいに減っていました。

 

「とにかく。このまま帰るのは危険です」

店主が、携帯電話を取り出しどこかに電話を掛けてくれました。行きつけの整備工場らしいのですが、残念ながらそことは連絡がつかないようでした。

 

 

どうしよう、と不安になりました。

なんせここは栃木県。私の自宅から200km近くも離れた場所に来ているのです。

いつもお世話になっているバイク屋さんも、神奈川県内までしか対応には行けないと言われていました。

 

「ブレーキオイルの交換をした事は?」

ふと男性客が、ヨシさんに向けて質問しました。

「ありません」

「ホームセンターに行けば、ブレーキオイルは売っています。とりあえずそれを買って、ここを」

セローのブレーキオイルポットのネジを指差します。

「外して、中に蓋があるのでそれも外して入れてみて下さい」

「そんな…素人がやって大丈夫なものなんですか?」

ヨシさんも不安気な表情をしています。

「空気を入れないようにと、あとなるべく零さないように気を付けながら注げば。とりあえずの応急処置ですが」

店主も言ってくれました。

ブレーキオイルはとにかく錆びやすいので、零れたらよく拭いた方がいいです、と言って一旦店内に入った店主が、新品のパーツクリーナーを差し出してくれました。

「そんな、いただけないです。お幾らですか?」

店主に言うと、

「いいからいいから」

とヨシさんに手渡しました。

 

 

「ありがとうございます。気を付けて帰ります」

「本当にありがとうございます」

私とヨシさんはお二人に何度も頭を下げて、お店を後にしたのでした。

 

 

近くのホームセンターに行き、ブレーキオイルを購入するや、言われた通りにブレーキオイルを注いで貰います。

初めてやる作業にヨシさんも緊張しているようでした。

「よし、とりあえずこれで満タンにはなった」

「うん、ありがとう」

いただいたパーツクリーナーでハンドル周りを拭いているヨシさんにもお礼を言いました。

 

 

帰りの高速道路ではヒヤヒヤしながら走っていました。

見たところ、ブレーキオイルの漏れはなさそうでしたし、メモリをみてもまだたっぷり入っています。

でも怖くて仕方ありませんでした。

 

 

無事自宅に着いた時には、安堵のあまり泣きそうになりました。

 

翌日バイク屋さんに持って行くと、「適当なパーツを取り付けるからですよ!」とキツく叱られ、純正品のジータのハンドガードを購入する流れとなりました。

 

 

あの時。

危険な状況であると進言してくれ、解決方法まで享受してくださった、店主と男性客の方には感謝してもしきれません。

無事に帰宅出来たお礼をお伝えしたかったのですが、私は鍵垢だったので代わりにヨシさんから伝えてもらいました。

 

 

私は、ライダー同士の助け合いの精神はとても美しいものだと思っています。

道端に屈みこみ、セローの汚れ具合を見ていただけで、

「どうかしたんですか? 大丈夫ですか?」

とバイクを寄せてわざわざ話し掛けてくださったライダーさんもいました。

また、ヨシさんとツーリング中、対向車線で往生しているバイクを見掛けると、

「何かあったのかも。ちうさん、Uターンするよ」

「おぉ、了解!」

となった事もあります。

 

 

この出来事をすぐにブログに書かなかったのは、トラブルのせいで気が乗らなかったから、という思いがありました。

ですがこれも素敵な思い出だったと今なら思えます。

 

 

バイクに乗ってはや4年。

これまで無事故でやってこれたのは、多くの方々の助けと優しさに支えられたからでもあるのでしょう。