鬼押出し園を後にし、ガソリンスタンドで給油しました。
国道406号線を進みます。
街中の広い道でしたが、右折して更に進むと楽しげな峠道となりました。
「ここも国道なんですね〜」
「そうなんですよ。結構面白い道ですよね」
国道は国道でも、交通量が少なかったり道幅が狭かったり、急カーブが続いたりする道もあります。
ここはそんな道のようでした。
『道の駅くらぶち』に到着したので、休憩を取ります。
道の駅構内を散策していると、近辺の地図が貼り出されていたので、あきにゃんさんが指差しながら今までのルートとこれから向かう先とを教えてくれました。
「僕らが今から向かうのは、ここ榛名山です。この道を使ってこうやって行きます」
「へぇ〜」
榛名山も行きたい所リストに入れていました。
どんな所なんだろうと、ワクワクします。
飲食エリアを前にするやあきにゃんさんが、
「じゃあ、ソフトクリームを食べようかな」
とまたしてもソフトクリームの注文窓口に並びました。
今まで林道でしかご一緒したことのなかったあきにゃんさん。休憩も林道で取っていたので知らなかったのですが、どうやらソフトクリームが好物なようです。
今回は私もソフトクリームを食べることにします。ヨシさんも同じものを注文していました。
黒豆ソフトです。
「…なんか、外が真っ暗なんですよね」
ソフトクリームを食べながらヨシさんが呟きます。
「あぁ、ホントだ」
「うわ〜、降るのかなぁ?」
私とあきにゃんさんとで窓の外を眺めながら、そう言い合いました。
まだお昼前です。雨雲以外の理由で暗くなる筈がありません。
バイクの元に戻ると、雷鳴が聞こえてきました。
「えぇ〜、また雷雨?」
「あは…そうみたいだね」
千葉ツーリングで雷雨を経験した私とヨシさん。
またかぁと、どこか諦観しながらレインコートを着込みます。
『稲光る東京湾〜勝浦、雷雨ツーリング』↓
https://qmomiji.hatenablog.com/entry/2020/08/01/223132
先程、せっかくレインパンツを履いたのにすぐ雨が止んでしまったのもあり、今回は上着だけにしました。
そのことを後で後悔するわけですが、この時点ではそれが適切な判断だと思ったのです。
「準備はいいですか? じゃあ出発します」
「はーい」
あきにゃんさんの先導で走り出します。
出発してすぐ、シールドに雨粒が当たり始めました。
大粒の雨です。
「あ〜こりゃ結構ヤバいかもしれませんね」
またしても雨雲レーダーを確認したヨシさんがそう言いました。
「この先、本格的な雷雨になりますよ」
「え〜マジかぁ。っていうか、またかぁ」
私がこぼします。
やがて本降りとなり、雨足はどんどん強くなります。
県道33号は素敵な峠道だったのかもしれませんが、この時私の心を捉えていたのは完全に土砂降りの雨の存在でした。
「うっわ、こりゃすごいな…」
普段は冷静で温厚なあきにゃんさんまでもが、あまりの降りようにそうこぼしました。
「これ大丈夫ですかね? タイヤ取られたりしないですかね?」
心配になって聞いてみます。
以前雷雨に打たれた時は、高速道路でした。
ですがここは峠道。急勾配やカーブの続く道を、こんな土砂降りの中運転したらどうなるのか、全く想像がつきません。
「道路上に水が流れたりしない限りは大丈夫だと思いますよ」
あきにゃんさんが応えてくれますが、
「あ、水流れてますね」
と、すぐさま訂正します。
「えぇっ!? マジですか…」
そこは上り坂のカーブ。
ほどなくして上から水が流れ来て、道路上が浅い川のようになってしまいました。
洪水になりかけており、水溜まりどころかどこを走っても水しぶきが上がります。
とてもじゃないですがカーブでバンクは出来ないため、当然スピードは出せません。ですが幸い、運転が怖いのは周囲の車も同様のようで、ゆっくりペースで進んでくれました。
「水滴とシールドの曇りで、前が見えないんですよね」
あきにゃんさんが嘆きます。
「あぁ〜そうなんですか。私は撥水剤と曇り止め塗ってきたのでなんとか大丈夫みたいです」
「俺もですね」
「てか、ヨシさんと走るようになって、必然的に雨対策せざるを得なくなったのよね」
「あはは…」
またも乾いた笑いで誤魔化されました。
榛名山に到着します。
駐車場に一応入りますが、相変わらずの土砂降りです。
「や、やめておきます?」
あきにゃんさんが聞いてくれたので、
「はい、やめておきましょう!」
私とヨシさんとで声を揃えたことで、駐車場を周回してすぐに出口に向かうことに。
結局。
景色も何も一切味わえないまま榛名山を後にすることになりました。
渋川の辺りを走る頃には小雨になり、やがて雨も止みました。
「あれ、もう止んだみたいですね」
渋滞に並びながらあきにゃんが言います。
「ですねぇ。なんなら今からでも榛名山に戻ります?」
ヨシさんが笑いながら聞いてきました。
「まぁ、戻ってもあの辺はまだ土砂降りなんですけどね」
「じゃあダメじゃん」
あきにゃんさんが私とヨシさんとのやり取りに笑いながら、
「いやぁ、とてもじゃないけど戻る気にはなれないですね」
と言いました。
帰路につくことにします。
高速に乗る前にガソリンスタンドに寄り給油をし、トイレに行って戻って来ると、ヨシさんとあきにゃんさんとでバイク談義をしていました。
装備がどう、性能がどうと肩を並べて語り合っている様を見て、あぁバイク繋がりって素敵だなぁと笑みがこぼれます。
「初めてまして」から一緒に走り始め、今日一日楽しさも困難も共有し合えたことで、すぐに打ち解けることが出来ました。
「陽が射しているからすぐ乾きそう」
「ホントにそうですね」
あきにゃんさんの言葉に同意しながら、夏のあたたかな陽射しを享受しました。
「私、雨に打たれた後の、こういう陽射しを受ける感覚が好きです」
言ってすぐに気が付きます。
「…って、その感覚に慣れちゃうくらいツーリング中雨に打たれてるってことじゃん! もぉ〜、ヨシさんどんだけ雨雲に愛されてるのよ」
「あはははは」
ヨシさんが笑い出しました。
「僕、今度ヨシさんとツーリングする時は、もっと雨対策しっかりやっときます」
「お、あきにゃんさんが学習した!」
「はい、じゃあよろしくお願いしま〜す」
濡れたパンツもグローブも、夏の陽気を受けて心地よく乾いていきました。
もう少し季節が進めば寒さに震えるのかもしれません。
ですが今は濡れた服すら心地いい。
今しか味わえないその心地良さを堪能し、三人笑いながら帰路についたのでした。