走り出してしばらくすると、前回同様『恐竜の足跡』『慰霊碑』の傍を通り過ぎていきます。
「この道は前回も通りましたが覚えてますか?」
とあきにゃんさんが聞いたので、覚えている旨をお伝えします。
そしてインカムを通して、前回は聞けなかった詳しい解説をして下さいました。ツアーコンダクター並の詳しい解説に、全員「へぇ〜」が止まりません。
「この辺りの地形は、昔海の底だったという説があります」
そして聳える山を指さし、
「あの山も、土というより岩みたいですよね? 海の底にあった岩が長い年月でせり上がったんだそうです」
「へぇ〜」
確かに、あきにゃんさんが指さした先にあるその山は、岩のようにゴツゴツしており、縦に層が出来ていました。
でも高く聳えるその山はやっぱり見上げるほどの大きさで、海の底にあった時代なんて私には想像も付きませんでした。
海が陸になる。
地面が山となり、山が海の底に沈む。
日々の生活では思いもよらない、そんな悠久の大地へと思いを馳せながら、バイクを走らせます。
やがて長いトンネルを抜けます。
抜けた先の街中を走っていると、ふと標識が目に入りました。
『群馬県立〇〇』
「えっ!?」
思わず声が漏れます。
「ここって群馬県なんですか?」
「そうですよ」
あきにゃんさんが答えます。
「先程のトンネルの途中で県境を越えましたね」
「そうだったんですね…」
群馬県はすごく遠いイメージでしたが、あっさりとやって来ていたようです。
「右折します」
あきにゃんさんの声に、全員が「はーい」と応えます。
小道の急勾配を上り進んだのですが…。
「あれま」
唐突に通行止めの標識が出て、その先の道が崩壊していました。
皆が降車して、崩壊した道路を見入ります。
「これは…。何があったんでしょう? 台風? 土砂崩れ?」
誰に聞くともなしに私が質問すると、
「分かりません。でもこういうことは案外珍しくないんですよ」
あきにゃんさんが応えてくれました。
この4人の中で、しょっちゅう林道を走っているのはあきにゃんさんだけです。林道は大きな公道と違い、気候や天災の影響を受けやすい。そのことをよく知っているのでしょう。
来た道を引き返すしかなさそうです。
ここで、ちょっとしたハプニングが。
よねってぃさんが、立ちゴケしてしまったのです。しかも、倒れてきたセローに足を挟まれ動けなくなりました。
すかさず、あきにゃんさんが助け起こします。
よねってぃさんも乗車し、再度出発です。
「あーあー。聞こえますか?」
よねってぃさんがインカムで呼びかけます。
「聞こえまーす」
私が応えると、
「あ、良かったです。前二人は聞こえてますか?」
沈黙が返って来ました。
「どうやら切れちゃったみたいですね」
インカムを繋げる時、私とよねってぃさんのを先に繋いだので、ここだけ繋がっているようでした。
「よねさん、足は大丈夫ですか?」
「あ、はい大丈夫です。そう言えば」
よねってぃさんが続けます。
「ちうさん、オフブーツまだ買ってないんですよね? やっぱり必要ですよ。 さっき、オフブーツ履いてなかったらヤバかったかもしれません」
「えっ、そうなんですね。買いたいとは思ってるんですが」
オフロードブーツは欲しいと思っているのですが、安い買い物ではないため二の足を踏んでいました。
しかも今月はETCを取り付けたため、お金に余裕がありません。
「でも、近々必ず買おうと思います」
自分が林道をどれだけ走るのか、予想も付かなかったため様子見してしまいましたが、安全には代えられません。
そして、林道はこれからも走りに行くだろうことは自分の中でハッキリしていました。
道の駅で休憩を取り、また4人でのインカムを繋げました。
やがて山奥に入り、細く険しい林道に入って行きます。
あまりのカーブに、全く先が見えません。
「砂利が散らばってますよ〜。滑らないよう気を付けて」
「この辺り、うっすら苔が生えてます。しかも昨日の雨で濡れてるからすごく滑りやすいと思います」
あきにゃんさんが都度声を掛けてくれるので、気をつけながら進むことが出来ました。
そこは舗装路ではあるのですが狭くガタガタで、小石や土も散りばめられています。そしてあきにゃんさんが言う通り、苔むしていました。
すごく滑りやすいと聞いて、思わずグリップを握る両手に力がこもります。
勾配もキツく、カーブだって多いのです。そんな道が滑りやすいとあらば、否が応でも緊張してしまいます。
ようやくそこを抜け、ホッと息つく暇もなく次のアトラクションです。
「かなりの凹凸です。重心下にして転倒しないよう気を付けて」
前方を走るあきにゃんさんが言いますが、どこがどういう凹凸なのか、私の位置からでは見えません。
「うおっ! なんだこりゃ?」
二番目を走るはちさんの叫び声が聞こえます。
「な、なに? どうしたんですか?」
「あと少し走れば分かります」
はちさんの言葉通り、すぐ先で私も同じ悲鳴を上げることになりました。
道路の陥没が連続していたのです。
どこをどう走っても、バイクが大きくバウンドしてしまいます。少しでもバランスを崩したら転倒しそうです。
私の悲鳴が惜しみなくインカムで流れてしまったようで、「大丈夫ですか?」と心配されてしまいました。
「はい大丈夫です! …多分…なんとか」
私の返答に笑いが起こります。
実際、バイク操作にいっぱいいっぱいではあるものの、なんとか転倒はせずに進むことが出来ました。
そうして抜けた先でバイクを停め、景色を眺めます。
随分登ってきたようでした。
そこから先は通り抜けられないとのことで、来た道を引き返すことにします。
ここでまたしても小さなハプニングが発生。
取り回ししようとしていたはちさんが、バイクを倒してしまったのです。
はちさんは自力で引き起こしましたが、その後少しだけ取り回しに苦戦していました。
そこは舗装されていない勾配している荒地の上。バイクに慣れた男性だとしても、思うようにバイクを動かせないようでした。
そして私は、先程よねってぃさんが立ちゴケした場所を思い返します。
あそこも舗装路とはいえ、勾配している道路でした。道幅もそう広くありません。
そんな場所でのUターンは、やはりリスクが高いようでした。
舗装された、平坦な場所にバイクを停められるとは限らないのが林道です。
取り回し一つとっても思うようにはいきません。
だからこそ林道は不安で、危険で、そして魅力的なのでしょう。
「準備出来ました」
「私もオッケーでーす」
「では、出発します」
次なる林道に向けて出発です。
実はこの時、私達は不穏な気配に包まれつつあったのです。
その兆候は既にあったのですが、その後の展開までは予測出来ませんでした。
それはまさしく、不安で、危険で、何よりも魅力的な走りを提供してくれるものとなったのです。