アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

南端のまどろみ〜千葉ロングツーリング③

道が突き当たりになると、唐突に視界が広がり磯の香りが漂ってきました。

再びの海です。

そして、このルートで眼前に海が拓けたということは、

「着いた!」

そう、ついに私は千葉県最南端の野島埼に到着したのです。

左折し、ウキウキでセローを進めます。

バイクを駐車場に停めると、今朝方までの冷えは嘘のように暑さを感じました。気温は12℃。日差しも強かったので、防風ウェアを脱いでドラムバックにしまいます。

とりあえずは灯台を見に行こうかと歩き始めると、

「美味しいよ〜。食べて行かない?」

とおばさんが声をかけてきました。

付近の飲食店の呼び込みです。

海のすぐそば、しかも観光地のため、魚介料理のお店がたくさん立ち並んでいました。

…でもすみません、私にはお弁当があるのです。

 

 

野島埼灯台までの小路は、探検心をくすぐられる、ほどよい細さのいい道でした。

 

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そこを進み、観覧料200円を払って灯台の中へと入ります。

永遠に続くかと思われる螺旋階段を上がっていきました。

 

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更には、梯子のような狭く急な階段を上がります。

上りきった先に、展望がひらけていました。

手すりに凭(もた)れ、高所から景色を眺めます。外の世界を灯台から見下ろすのは初めてです。

それどころか、灯台の中に入ったことすら人生初かもしれません。

思えば、バイクに乗り始めてたったの2ヶ月。既にたくさんの『人生初』を経験してきました。

風が吹き、私の頬を撫でていきました。

 

 

地上に降りると、まずは芝生広場にある、屋根のあるベンチに腰掛けお弁当を広げます。

ちょうどお昼の12時過ぎでした。

 

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食後に、水筒に入れてきた温かいお茶を飲み、ホッと一息つくと、とりあえず自分の体調を顧みます。

 

広背筋と、内転筋にだるさがありました。

筋トレをするので分かります。この感覚は筋肉痛が起こる前兆でしょう。左手でクラッチを握り込むからか、左の前腕は既に筋肉痛になっていました。

特に内転筋は、歩くと脚がプルプルしました。ニーグリップのせいでしょう。

先ほど立ちゴケしたのもこれが原因なのではないかと思いました。いつもなら、多少のぐらつきは脚で踏ん張れますが、今回はそれが出来なかったのです。

 

無理もないのかもしれません。

朝4時半に起き5時に出発し、この時間までほとんど休憩も取らずに走って来ました。今までのツーリングなら、ここまでの距離でとっくに帰宅しているくらいの走行距離です。

──寝よう。

眠くなくても、少し寝ようと思いました。

疲れは感じていませんでした。でも、自分の肉体が疲労していることを『認識』はしていました。

 

私は頬杖をつくと、そっと目を閉じます。

両耳が波の音をとらえます。そこに訪れている観光客や家族連れの、戯れる声も。

眠れないだろうと思っていましたが、じわじわと睡魔が襲って来ました。

眠りに落ちる瞬間、

──ああでも、自力でここまで来たんだなぁ。

思いが込み上げ、胸がじんわりとあたたかくなりました。

 

 

15分ほど眠った後、少しスッキリした足取りで公園内の散策です。

灯台は見ましたが、実はあそこはまだ『最南端』ではないのです。

岩場の合間を縫うように設置されている海沿いの小路を進み、ようやく到達しました。

 

 

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房総半島最南端の地です。

そこには石碑が建てられていました。

背後に広がる海を眺め、様々な感慨が込み上げてきました。

 

 

セローの元に戻ると、帰りルートのおさらいをします。

実は、困ったことになっていました。

最近のツーリングでは往路と復路でルートを変えています。この日、私もそうするつもりで調べてきていました。

行きは海沿いの道、帰りは千葉県の真ん中を横断する、山中の道。

その帰りのルートも紙に書いてきたのですが、先の立ちゴケによりスクリーンが外れています。いつもルートを書いた紙はスクリーンに貼り付けているのですが、それを貼る場所が今はないのです。

タンクに貼ろうかと迷いましたが、そこはまともに風の抵抗を受けるため、飛ばされやしないかと心配でした。

迷った末に、自分で書いたルートをその場で暗記し始めました。

県道を進み、国道に入り、バイパスに入ってまた県道を進む…。

…暗記は3分で諦めました。

覚えきれそうにない上に、無理に覚えたとして、思い出しながら運転するのは困難だろうと判断したのです。

 

エンジンを始動させ、とりあえず出発します。

来る時は、南へ南へと向かって来たのです。帰りは逆方向に行けばなんとかなると思いました。

市原市に向かい16号線に入ってしまえば来たルートを辿って帰れます。

 

とにかく、今回のツーリングが成功に終わるか失敗に終わるかは、今からの走りにかかっていると思いました。

立ちゴケこそしてしまいましたが、それは後で反省すればいいだけのこと。でも事故を起こしてしまっては、このツーリング、ひいてはバイクそのものが『嫌い 』になってしまうかもしれないのです。

 

ナビはありません。地図も見れず、手書きのルートすらポケットにしまい込み、私は一度も走ったことのない道を突き進みます。

頼みとなるのは自分の勘と、一台の相棒のみ。

一抹の不安と高揚感とを胸に、千葉の中心地を突き進んで行ったのです。

 

後から思えば、ここから先の走りはただの『帰り道』ではありませんでした。

それどころか、むしろ今回のツーリングでのメインイベント、そして枢軸ともなる重要な走行となったのでした。