暑い──。
いつもの朝と同じように、掃除機を掛ける為に部屋中の窓を全開にするや、エアコンによる冷気が逃げ出しむっとするような空気が流れ込んで来ました。
やっぱり今日も暑いんだなぁと掃除しながら思います。
その気温と日差しに心折れそうにもなりましたが、やっぱり今日はツーリングに行こう、と心に決めたのです。
バイクは定期的に乗らないと傷むのが早くなる、と言われています。
暑さや寒さにより長期間バイクに乗らなくなってしまう人も多いようですが、その期間にバッテリーが上がってしまったりオイルが傷む事も珍しくありません。
セローの寿命を長持ちさせる為にも、エンジンを掛け軽くでも走らせて来ようと思っていました。
ソロツーリングのいいところは自分のペースで気ままに走り出せる事。
暑さに参ってしまうようならすぐに切り上げればいいと思いました。
バイク装備を身につけ、セローに掛けてあるカバーを外すだけで汗が吹き出して来ました。
でも走り出すと全身に風が当たります。バイクに乗り出した時のこの感覚は、やっぱり爽快です。
今回のツーリングは目的地も決めず、気になる路地裏やあぜ道に入って行くことにします。そういう細い道でも臆面もなく入っていけるのがセローのいいところです。
車では走れないような細道を、のびのびと走り抜けていきます。
やがて田んぼの中を走ることになりました。農道なのでしょう、途中から舗装路が終わり砂利道となりました。

風のざわめきを感じます。
用水路を流れる澄んだ水のせせらぎを聴くと、涼やかな気持ちになりました。
あぜ道を抜け街中に戻ります。
次の信号は右折してみよう、今度はこちらの細道に入り込んでみようと、ソロなのをいい事に至極気ままに走り続けます。
行き止まりにUターンしたりしながらも、どこの道かも分からぬ場所を進むのは新鮮でワクワクしました。
あれ?
目の端に黄色いものを捉えたので、そちら目指して進んでいきました。
「わぁ~すごい!」

進んだ先に広がっていたのは、一面の向日葵畑です。
一つ一つは小さな向日葵でしたが、全員が顔をこちらに向け笑いかけてくれているようでした。
こんな出逢いがあるんだぁ…。
少し感動しながら写真を撮ります。
春は桜、梅雨は紫陽花、夏は向日葵、秋の紅葉。
どれも季節を感じる素敵な光景です。バイク乗りならば誰もが、その季節の光景と愛車とを一緒に写真に収めたい、という願望を持っているのではないのでしょうか。
でも、ここで問題になってくるのが気象条件なのです。桜だけは開花予想が発表されますが、それだって満開の時期に雨が続いて見頃を過ぎてしまう年もあります。
まして紫陽花や向日葵、紅葉などは大体の見頃シーズンしか発表されません。
花の品種や僅かな気象条件、そして自分自身の休日と見頃とが合致するのは、とても難しい事なのです。
今年は7月上旬から異常な暑さが続いたため、有名観光地の向日葵畑は見頃を迎えるのが早かったと聞いていました。
向日葵が見られなかったなぁと諦めていたのですが、まさかこんな名も知らぬ場所で出逢えることになろうとは。
暑さにめげず可愛らしく太陽を見つめ続ける花々が、愛おしく感じられました。
さて、そろそろ。
いつものツーリングのようにナビをセットしました。現在地がさっぱり分かっていません。
ヘルメット内部で汗が流れ落ちて来るのが止まりませんでした。着ているウェアも、汗でびっしょりです。
ちょっと、涼しい所で休憩した方がいいかもしれない。そう思いナビを操作します。
「えっと、じゃあ目的地は…と」
こういう時の避難場所として一番適したお店を検索し、目的地をセットしていきます。
「いらっしゃいませ~」
制服に身を包んだ女性店員さんが、笑顔で迎え入れてくれます。
「一名様ですか? こちらへどうぞ」
真夏なのにブーツ、全身汗だくでヘルメットまで抱えて入って来た女性客に不審がる様子もなく、店員さんは朗らかに席まで案内してくれます。
所謂、ファミリーレストランです。
ヘルメットを置くや汗を拭い、店内の冷房にほっと一息つきました。
日本のファミレスは本当に素晴らしい。
心からそう思います。
全国チェーンを展開しているどこのファミレスに入っても、同じように設備が充実しており接客態度も教育されています。
たった数百円のドリンクバーを頼むだけで時間無制限で飲み放題ですし、しかもどの料理の味も価格も一律で保証されているのです。
夏の暑さから逃れるために、ファミレスで休憩をとるライダーは少なくありません。
お昼時でしたが、あまり食欲はありませんでした。
どうかと思いながらも、どうしてもかき氷に目がいってしまいます。
タブレットを操作して、かき氷とドリンクバーを注文しました。
一杯目のドリンクは炭酸入りフルーツジュースで、一気飲みしてしまいました。
二杯目は少し味わって飲みます。
冷房と冷たい飲み物とで、だいぶ生き返った心地がしました。
配膳ロボットが運んできたかき氷は、想像以上にボリュームがありました。

ティラミスかき氷と名付けられたそれは、練乳とコーヒーシロップがかけ放題でした。恐る恐る崩しながら食べていくと、懐かしいクッキーの甘さとラムレーズンの風味、そして細引きの氷が舌を楽しませてくれます。
有難いなぁ…。
真夏に氷が食べられる事も、冷房のきいた空間にいられる事も、冷たい飲み物にありつける事も。どれも当たり前のように享受してきた事ですが、ここに至るまでの文明の発展や多くの人々の労力があったのだと考えます。
バイクに乗ると、色んな事に感謝できる気持ちになるから不思議です。
大好きなバイクに乗って、のどかな景色が味わえた今回のツーリング。
ガラス越しに入道雲を眺めながら、一人ひっそりと幸せを噛み締めたのでした。