あれ?
晴れてる…。
10月半ば、土曜日の朝。
ゆっくりと目覚めた私はカーテンを開け、いの一番にそう思いました。
ここのところ、週末はほとんど雨でした。
今日も雨予報ではなかったものの雨雲マークの曇り予報、降水確率は30%でした。金曜日までの霧雨が、そのまま週末にまで続くのだろうと予測していたのです。
窓の外に広がる明るい景色を見ながら私は、ならば今日、軽くツーリングに行こうかなと思いつきました。
息子は修学旅行に行っており、誰気兼ねする必要もありません。
そうと決まるや、早速バイク装備に着替え出発の準備です。
思い付きでふらりと出掛けられるのも、ソロツーリングのいいところでしょう。
行先は何処にしようかと考え、軽く神奈川県内のダートを走りに行くことに。
県内ならばさほど時間も掛からず、何かあったらすぐに帰って来れます。まだ体調に不安があるため、距離や時間は軽めにしたいと思ったのです。
走り始めると涼しい風が首筋を撫でていきました。
夏の灼けるような陽射しも和らぎ、柔らかに降り注ぐ陽光が心地よく体温をあたためてくれます。
気持ちのいい日だなぁと感じました。走りに出て良かったなと。
県内の有料道路を使い、爽快に走り抜けました。渋滞もありません。
やがて到着した目的の山。
ギアを下げ、勾配を登っていきます。ガタガタしていますが、始めは一応舗装路です。
やがてダートが始まります。
──え。
と、思わずブレーキを掛けました。
昨日までの雨で、道がぬかるんでいたのです。
ぬかるんだ土はタイヤが取られ、滑りやすくなります。転倒のリスクも高まるのです。
よく知った道だと思って来たのですが、この状態は初めてでした。
でも、引き返せるだけのスペースもない為、進むしかありません。
セローに跨りエンジンを始動し直すと、慎重にタイヤを進めました。濡れた土が、タイヤにまとわりついて来ます。
こんなところで転んだらどうしよう…?
悪い考えをあえて振り払い、ぬかるみや水溜まりを越えて進みました。
落ち葉や苔も濡れ、それらもタイヤを滑らせます。怖々と、でも慎重に登って行きます。
こんな時もあるのでしょう。
どんなに怖く不安でも、引き返せないし他の道もない。バック機能がないのがバイク。前へ前へと進むしかありません。
やがて山頂に着いた私は、ホッとひと息吐きました。
拓けた場所は駐車場になっており、そこにセローを停めます。
そこからは徒歩です。
階段を登ると、行き交うハイカーの人達が挨拶をしてくれました。元気に挨拶を返します。
山頂では、おにぎりを頬張っているハイカーの方々で賑わっていました。
吸い込んだ空気が美味しく感じられます。
軽く水分補給を済ませ、来た道を引き返します。
下りはローギアにし、エンジンブレーキでゆっくり進みました。
舗装路に出ると、ホッとしました。
セローが泥だらけになったので、また洗車をして帰ります。
「ただいまぁ」
「あ~お帰りなさい。疲れたでしょう」
修学旅行から帰った息子が、沢山の荷物を掲げて玄関扉を開きました。
「楽しかった?」
「うん。はいこれ」
手渡してきたのは、旅先の銘菓でした。
「お土産ね」
と言う息子の顔が、また更に日焼けしてきたようでした。
「わぁ、ありがとう! じゃあお風呂入っておいで。ご飯にしようね」
晩ご飯を食べながら、修学旅行先の楽しかったこと、美味しかったものを興奮気味で話してくれます。
「ところで」
息子が私の顔を見ながら聞いてきます。
「お母さんはこの数日何してたの?」
「う~ん…」
オフの時間はほとんど本を読んで過ごし、あとは眠っていただけです。
でも今日は。
「泥遊び、かな?」
息子はなんじゃそりゃ、と一笑し、またご飯を掻き込み始めたのでした。