アクセルグリップ握りしめ

オフロードバイク、セローと共に成長していく、初心者ライダー奮闘記

二輪教習 最終章 〜卒業検定〜

いよいよ、卒検当日──。

天気は良好、お日柄もよく(仏滅でしたが)、体調も万全な状態で望むことが出来そうです。

 

検定者は7人でした。私を含め、全員が緊張の面持ちで検定会場へと集います。

検定中の注意事項が伝えられると、コースへと移動し、いよいよ検定開始です。

一人一人走行するため、順番が6番の私は前の人たちの走りを眺めながら、私をこの場へと導いた友人のことを思い浮かべます。

 

Sさん。ツーリングの伝道師。

彼の存在がなければ、私のバイク乗りのイメージは未だに、『 乱暴に排気音を轟かせ集団で走り回るもの』のままだったかもしれません。

 

いよいよ、前の人の走行が後半に差し掛かったので、発着地点へと移動します。

 

思えば、彼のタンデムシートに跨らせて貰ったのは、ほんの三ヶ月前のことです。あの時はまさか、自分が教習所通いをしてこうして卒検を受けるだなんて予想だにしていませんでした。

タンデムでのツーリングも充分に魅力的でした。

でも、私は自らハンドルを握る事を選びました。

 

前の人が発着地点に帰って来ました。

いよいよ、バイクに跨ります。キーを回し、エンジンを始動させ、出発です。

 

30代後半。女。それも、車の免許は持っているだけの、十数年越しのペーパードライバー。

お世辞にも若いとは言えない年齢ですし、公道を車両のスピードで走ることにすら慣れていません。若い子と比べて物覚えの吸収も悪いでしょうし、男性と比べて力も体力もありません。

でも、それら全てを勘案しても、バイク乗りを諦める理由にはなり得ませんでした。

 

徐行、一時停止、カーブ、追い越し。コース内を順調に進みます。

とりあえずここまでは安全確認を怠らず、落ち着いて出来ています。

 

やらない言い訳を並べるよりも、やりたい理由に突き進もうと思いました。様々な出逢いから、そう思わせて貰えたのです。

 

交差点を越え、クランクです。

やはり検定用の慣れない車体のため、いつもよりスピードが出てしまいます。

それでも、進行方向をしっかり見据えハンドル操作と車体の傾きにより綺麗に通過出来ました。

 

どんな恐ろしい事故の話を聞いても、バイク操作の難しさを実感しても、決して心は揺らぎませんでした。

 

次は、問題の急制動です。

想像以上の緊張が判断を鈍らせます。アクセルを緩めるタイミングと、ブレーキが早すぎました。

「速度が足りないですね」

案の定、教官から指摘を受けます。

先のブログにも書きましたが、速度が40kmに満たない場合でも、即失格にはなりません。もう一度チャンスが与えられます。

周回し、再び発車位置へ。

向かいながら、注意を受けたことで、逆に落ち着く事が出来ました。次も速度不足だったら、失格となります。でもこの時、教習中に教えられたことが蘇って来て、なんだか出来るような気がしたのです。

 

バイクは孤独な乗り物だと教官は言います。

確かに、車ならば同乗者をたくさん乗せてワイワイ出来る旅路も、バイクでは基本一人での移動となります。後部座席に人を乗せたとして、インカムをつけない限り風の音に阻まれ会話もままなりません。

でも私はむしろ、バイクを通して多くの人達との絆を感じることが出来ました。

 

再度、急制動です。左右を確認し、発車。

今度は充分に速度が出ます。停止位置でも綺麗に止まれたので、次の項目へと移ります。

 

私の教習生活も、たくさんの人達から応援をいただきました。

教官達や励まし合った教習生仲間、バイクを通して、色々な方たちと出逢いました。そしてそれは、これからもっと広がることでしょう。

 

次は、スラロームです。

スラロームは一貫してずっと楽しめました。おそらく、タンデムで連れていってもらっている、山道を連想するからでしょう。

検定中のこの時ですら、パイロンを避けて右へ左へと移動するこの動きが楽しめました。

パイロンに掠っただけで失格だという、検定基準も検定中だという概念すらも吹き飛んでいました。

スラロームを抜け、踏切へ。その後は坂道発進です。

ですが、先日同様、発進でエンストしてしまいます。

再度始動するも、再びエンスト。

落ち着いてエンジンをかけ直し、ようやく坂道を抜けます。

次はS字走行。これも大好きな課題の一つです。爽快に走り抜けます。道の両端にあるパイロンにぶつかるという、イメージも怖さもありませんでした。

そう、ただ、走るのが楽しかったのです。

 

と、教習所内のコースに風が吹きます。

──違う、これじゃない。

もっと、遥か彼方から吹き抜けてくる風を、私は感じたい。

風が、広がる大地が、頭上一面の空が、どこまでも続くワインディングが、そしてその先に待ち受ける数多(あまた)の人々との出逢いが、これより先に待っています。

 

S字を抜けると最後の課題、一本橋です。

橋の手前で停止し、しっかり左右を確認し、出発です。

一本橋も、習いたての頃は苦戦し何度も橋から落ちました。それも今では、ほぼ100%の確率で成功出来るようになりました。

安定した真っ直ぐな走り。落ちるイメージも、グラつくイメージもありません。

ただ、進行方向を真っ直ぐ見つめ、そこへ向かって7秒以上かけてゆっくり進み、渡りきりました。

あとは、終着地点へ戻るだけです。

 

きっとこれから、私の世界は無限に広がる。

 

左折ウィンカーを出し、終着地点に入ります。

ブレーキをかけ、きっちり停止線で停止しました。

 

この、二輪の車輌に跨がれば──。

 

 

合格発表は40分後と言われたので、検定者7人で待合室へと戻ります。

この時Sさんに、卒検はダメだったかも、とLINEしました。

速度不足はマイナス10点。エンストが2回なので、それもマイナス10点です。合格点は70点以上。

スラローム一本橋のタイムが少しでも基準値に満たなかったら? どこかで確認不足を怠っていたら? と、考えるほどに落ち込んでしまいます。

Sさんは、とりあえず結果が出るのを待ちましょうと落ち着いた答えです。

 

教官が入って来ると、一人一人に結果を告げます。

合格者、不合格者一人一人に丁寧なアドバイスがあり、いよいよ私の番です。

「合格です。おめでとうございます」

合格…。えっ、合格?

その後、やはり速度不足を注意されます。公道に出てあんな速度で走っていたら確実に煽られるから、ちゃんと出すように、と。

そして見せてもらった点数は、なんと70点。

ギリギリでした。

 

結局、教習に通っていた期間は一ヶ月間でした。

補習も再試もなく、おまけに教習中の転倒すらもありませんでした。

これだけ聞くとさぞ優秀な教習生のようですが、実態は卒検ギリギリ通過の、全く余裕のないビビりです。

恐怖心はいつだってありました。今も尚、200kgもの車体を操り、身体剥き出しで走ることへの抵抗はあります。

でも、それ以上の走る楽しさと、そして外の世界を知りたいという好奇心がおさまりません。

 

結婚して家庭に入り、家庭という小さな世界にとどまり続けた十数年間。

私はその時間が決して無駄だったとは思いません。

むしろ、その十数年間があったからこそ、今こうして新たな世界の価値を知り、感動を味わうことが出来ているのではないかと思うからです。

 

人は変われる。ほんの小さなきっかけと、一歩を踏み出す勇気があれば。

 

私にとってのきっかけは伝道師さんでした。

でも、伝道師さんはたった一人。

ならば。

このブログを読む、どこかの、どなたかの、ほんの小さなきっかけとなってくれたなら、それ以上の喜びはありません。

 

最後に、教習生活を支えて下さった読者の皆様、フォロワーの皆様方、本当にありがとうございました。

ライダーとしての私を、今後ともよろしくお願い致します。