かねてより繋がりのあったタカさんという方から、
『ツーリングがてら、田んぼアートを見に行ってみませんか?』
とお誘いをいただきました。
田んぼアート…?
聞いた事はあるけれど、私は見に行った事は一度もありません。
田んぼアートとは、田んぼをキャンバスに見立てて色彩の異なる稲を使い、巨大な絵や文字を作り出す作品の事を言います。
田んぼアートそのものは全国各地で行われているようでしたが、中でも古代蓮会館の展望室から一望できる田んぼアートは2.8 haととても大きく、2015年に世界最大の田んぼアートとしてギネス世界記録の認定を受けているものなのだとか。
タカさんによると田んぼアートは今が見頃なのだそう。
『あそこ、バイクの駐輪なら無料なんですよ。この機会に是非行ってみましょうよ』
とのタカさんの提案に、
『はい、見てみたいです! よろしくお願いします』
と応えたのでした。

8月上旬の休日。
今日のバイクは全部で4台。
タカさんのVストロームと、MさんはHONDAのキャブ車でした。そして私とヨシさんのセロー2台です。
「今日はよろしくお願いしま~す」
と私が挨拶すると、タカさんとMさんが「こちらこそ」と丁寧に頭を下げてくれました。
タカさんのバイク歴が長いのは知っていましたが、Mさんとは初対面です。
キャブ車に乗っているMさんのバイクが珍しく、私はまじまじと観察してしまいます。
「これ、コンピュータ制御じゃないんですよね? 操作やメンテナンスとか大変じゃないんですか?」
聞くと、Mさんは首を傾げて「そうなんですか?」と応えます。
「実のところ、バイクの車種とかメンテナンスとか、まだよく分かんないんですよね。乗ったバイクもこの1台だけですし」
「え、そうなんですか?」
てっきりMさんもバイク歴が長いのかと思っていましたが、聞けばまだ二輪免許を取得して2年目なのだそう。初バイクとして中古車を吟味しこのキャブ車になったのだとか。
「お。ちうさんより初心者ライダーって事だね」
とヨシさんに言われたことで、ハッとします。
そうでした。
いつもベテランライダーさん達からフォローされて来ましたが、今日は私がその立場となります。
「い、一緒に楽しみましょう」
と先輩面して笑いかけてみました。緊張で笑顔が引き攣っていない事を祈るばかりでした。
タカさんが先導で、2番目がMさん、その後ろに私でヨシさんが最後尾を走ることになります。
タカさんは混雑する主要道路は避け、新幹線の高架下ののどかな道を選んで走ってくれました。
「あぁ~風が気持ちいい。のどかな景色が眺められて嬉しいな」
両脇に広がる田んぼの稲穂は青々と茂り、風にたなびき漣のように揺れていました。
水張り、田植え、稲穂の成長と黄金色に実る稲。そして、秋の収穫。冬は土がむき出しで丸裸になった田んぼを横目に走ります。
毎年の光景なのに、改めてよく見ると人々の営みと自然の恵みとが凝縮されているように感じられました。
ヘルメットを脱ぎながら、「いやぁ、やっぱり暑いですね」と言い合いました。
今日も真夏日になる予報です。陽射しも強く、ヘルメットを外した顔面の皮膚は太陽の熱で早くもじりじりしていました。
この公園には大きな蓮の池もあり、あちこちで蓮の花を見ながら散策している人達もいました。
でもそのほとんどの人達が日傘を差しています。
私達は「暑いから早く建物に入ろう」と、蓮の花を横目に展望台のある建物へとそそくさと歩いて行ったのでした。
入館料を払って中に入ると、空調の利いた涼しい空気に包まれます。
吹き出して来る汗を拭いながら、「はぁ~、やっぱり文明の利器って最高だわ」と私がこぼすと、他の方々から吹き出されてしまいました。
展望台へのエレベーターは混雑していました。
1階にエレベーターが到着すると、係の女性が扉を開いたまま「どうぞ」と中へ誘導してくれました。
1階から展望台まで直通です。わずか33秒で到着しました。
「わぁ~すごいすごい!」

今年の作品は『能登復興祈願』でした。
墨もペンキも使わず、ただ稲の種類と植える箇所を変えるだけで、こんな素敵な作品が仕上がるのかと驚きます。想像以上の迫力と鮮やかな出来映えにしばらく心奪われました。
「今年はオリンピックがあるからそれになるかと思ったんですけどね」
タカさんによると、作品は毎年その話題に沿った絵柄になるのだとか。
展示スペースには過去作品の写真が掲載されていましたが、時事ネタやアニメ作品、有名人の似顔絵など、様々なジャンルに及んでいました。
年始の能登半島地震に暗澹たる気持ちを抱いていましたが、遠く離れた田園に描かれた『がんばろう!』の文字に、なんだか私まで心癒される思いがしました。