年末年始休暇に入った初日、Sさんから『31日は天気がいいみたいだから、道志に行きます』とLINEが来ました。
『今度こそだね! えっと、リベンジの次はなんて言うんだろう? リベリベンジ?』
…ともあれ、三度目の正直を信じて計画を立てます。
2019年最後の日、31日当日。
街中は19度まで気温が上がる予報でした。でも道志みちは山の中。朝晩の気温が下がると、すぐに道が凍結します。前日降った雨が凍っていないことを、ひたすら祈りながら朝を迎えました。
とりあえず、通行止め情報も臨時休業のお知らせも出ていないようでした。
ホッとしながら準備を進めます。
Sさんの住まい近くの待ち合わせ場所へ向かい、Sさんと合流しました。
「乾いている路面を走る時はいいのですが、日陰で濡れた路面だと、まだ凍っているかもしれません。慎重に運転して行きましょう」
言われ、気を引き締めます。
気温はどんどん上がってきて、真冬の装備で出てきた私は、走りながら暑くなりました。山梨に入った辺りで急に気温が下がるのですが、それすら涼しく感じたくらいです。
ですが、所々が日陰でまだ路面が濡れており、そこをカーブしながら走行するため、Sさんの運転がいつになく慎重でした。
凍結しているのか、ただ濡れているだけなのかは判断がつかないのです。峠道のカーブで滑ったら大事故に繋がりかねません。
ここでヒヤッとすることが起こります。
下りの急カーブでスピードを和らげるため、もっとギアを下げるべくクラッチを握り込みます。その途端、後輪が横滑りし出したのです。幸い、スピードをさほど出していなかったからでしょう。右へ左へとブレながらも、直ぐに治まり、事なきを得たのですが、こうやって冬の峠道で事故は起こるのだろうと思いました。
事故は一瞬です。
この時私は、下りのカーブではなるべくクラッチを握りこまないようアドバイスされていたことを思い出したのですが、運転中はつい忘れてしまいがちです。
常に様々なことを意識していくことが大事なのだと改めて思い知りました。
その後はトラブルもなく、のどかで綺麗な道志みちを進んでいきます。
やがて到着した『たい焼きロッキー』さん。
開店30分後だと言うのに、既に混雑していました。
ロッキーさんの看板を背景にセローの写真を撮り、一人悦に入ります。
「ほんとカッコイイなぁ、私のセロー」
しみじみ呟き、Sさんに得意げに上の写真を見せるや、若干呆れられてしまいました。
小窓を開き、ロッキーさんと女将さんにご挨拶します。
「あぁ〜、いらっしゃい」
「女将さ〜ん。やっと来れました〜。今年中に来れて良かったです」
女将さんと掌を合わせながら、はしゃぐように声を掛け合います。
たい焼きと飲み物を注文し、席につきます。
ここで、フォロワーさんの、おやじ一徹さんと合流しました。この日道志に来ることは伝えてあったので、日時を合わせて来てくださったのです。
おやじ一徹さんはこのブログも読んでくれており、毎回丁寧な感想とアドバイスをして下さっていました。
いつも面白そうなツーリングをしており、関東近辺のツーリングスポットにも詳しいようでした。ソロで走っておられるのも親近感が湧き、楽しく交流を持たせていただいてきたのです。
たい焼きを食べながら、Sさんも交えて三人で話します。
やがて話していると、
「あれ? ヨシさんじゃね?」
とSさんが立ち上がります。
「えっ、ヨシさん!?」
私も立ち上がります。
ヨシさんとは、Sさんとかねてより親交のあるお方で、お二人は過去何度も共にロングツーリングに行った仲なのでした。Sさんからもよく名前が出てきていましたし、私もTwitterを通してヨシさんと交流を持たせていただいていたのです。
まさか今日ここで会えるとはと、お二人が再会を喜び合います。
私もご挨拶させていただき、その後は私とおやじ一徹さん、Sさんとヨシさんという組み合わせで別々に話し込みました。
話しながら、客足が途絶えないかとチラチラと様子を伺っていたのですが、途絶えるどころかますます人が押し寄せてきています。
さすが『行列の出来るたい焼き屋』さんです。
ロッキーさんの元へ、年末のご挨拶に来たい方々が集まって来ているのでしょう。そして年末年始で一番天候に恵まれた日となったので、走りに出た人も多かったからかもしれません。
今日はまだ、ロッキーさんとお話し出来ていませんでした。たい焼きの注文が途切れないので、ずっと奥で焼いているのでしょう。女将さんも忙しそうに動き回っています。
仕方ないかと、私は少し淋しく眺めていました。
おやじ一徹さんのバイクを見せていただくことになりました。バイクは斜め向かいの道の駅に停めているようなので、一緒に移動します。
道の駅は年末年始休業に入っていましたが、駐車場は解放されていました。駐車場の両側に雪が積もっています。
「着いた時、この雪で雪だるま作ってたんですよ」
おやじ一徹さんが雪を指差しながら言います。
「ホント、おやじ一徹さんて遊び心を常に忘れない人ですよね〜」
笑いながら言いました。これまでの絡みでも、その日話していた時も感じていた印象を伝えます。とにかく、バイクも人生も全力で楽しんでおられる方だと感じました。
「これです」と指さしたバイクは、格好いい白のバイクでした。
カワサキのZZR1400というそうです。
跨らせて下さいました。
大型バイクでしたが、跨った感じではセローよりも脚付きは良かったです。エンジンをかけてくれましたが、音の迫力が全然違いました。
Sさんの元に戻ると、宮ケ瀬のオギノパンに行くと言うので、おやじ一徹さんも一緒に行くことになりました。
ヨシさんも一緒だそうです。
「へぇ〜、まさかのマスツーリング!」
マスツーリングとは、集団、または比較的大人数で行くツーリングのことです。今までソロか、Sさんと二人でしか走ったことがなかった私は、思いがけない初体験に気持ちが昂ります。
走る順番を軽く打ち合わせし、出発の準備をします。
私とSさん、ヨシさんは小窓を開けて女将さんとロッキーさんに、お別れの挨拶をします。奥で忙しなく働いてらしたロッキーさんが、出てきて下さいました。
「あぁ、今日はありがとね。ホント頑張ってるよね」
と言ってくれました。このブログも読んでくれていました。
「ロッキーさん、また遊びに来ますね」
女将さんが、窓口越しに写真を撮ってくれました。
最後に少しだけですがお話し出来て良かったです。
女将さんが出てきてくれ、セローに跨る私の姿も見て下さいました。
成長を見守って下さる存在は、本当に有難いと感じました。
後ろ髪を惹かれる思いでしたが、出発です。
「それで、私は二番目でいいのかな?」
Sさんに話しかけます。
マスツーの場合、初心者が真ん中を走ると教えられていました。先頭と最後尾を上級者が走り、列を整えるのだそうです。
「そうですね。俺が先頭走るんで、いつも通り付いてきて下さい」
「ん、分かった。最後尾は誰が?」
「一徹さんにお願いしました」
なるほど、つまりSさん、私、ヨシさん、おやじ一徹さんの順で走るようです。
Sさんが走り出しました。
私もアクセルを回し、付いて行きます。
──人生初、マスツーリングの始まりです。